第十九話 状況が理解できない。
「――起きて……ジン……」
ゆさゆさ揺られるような感覚と俺を呼ぶ声がする。
この声はミイナか。あの天使と違ってやっぱり可愛いな〜。ちょっと困らせてみよ。
「うーーん。あと5分」
「!? さ、さっさと起きろバカぁ!」
パチン!
「グフゥ!」
顔面に強烈な痛みを感じ目が覚める。
目を開けるとミイナが馬乗りになって俺の顔を見つめていたが、なんだかご機嫌斜めの様子だ。
「お、おはようミイナ」
「おはよう」
「どうして怒っているんだ?」
ヒリヒリする頬を抑えながらミイナへ聞いてみた。
「だってジンったら全然目覚めないから、このままずっと意識が戻らないと思った……から。グスッ。それで……」
胸あたりにポツポツ水が落ちてきた。ミイナの美しくも華奢な体は震えている。
まさか股間を強打して魂が抜けただけで泣くほど心配かけてしまうとは。
「そうか。ごめんな心配かけて」
指輪の呪いのせいか背中がチクチク刺されたように痛いが、それを顔に出さず俺は涙目で愛らしいミイナの頬を撫で――。
ヒュン!
突如上から剣が落ちてきて俺の頬をかすって地面に突き刺さる。
「危なっ!?」
「誰!?」
ミイナが涙を拭き戦闘体制で周囲を見張る。
「ミイナ落ち着け」
「それは無理よ」
剣を構えて俺を守ろうと立つミイナ。それも戦闘中のように興奮している。
よく見るとミイナは服屋にいたときと服装が変わっており、あのキングゴブリンと戦った鎧姿の格好をしていた。
なんでミイナ鎧姿なんだ? もしかしてこの鎧も新しく買ったのか?
「チッ。狙いが外れたか」
剣の飛んできた方から声がした。それも聞き覚えのある怖い声だ。
天使やハデス教官から逃れたのに、どうして奴がここにいるんだ!?
恐怖のあまりギギギと人形のように顔を向けるとやっぱり!
「パパ!」
「ミイナ。そこにいる害ちゅ――ゴホン。さっさとそいつを起こしてこっちに来い」
部屋に閉じこもっているはずのミイナパパことサダンさんがそこにはいた。
それもミイナと同じように鎧姿だが、サダンさんは漆黒の鎧を着ており、その迫力はもはや魔王本人と言っても過言ではないくらいの恐怖を放っていた。
「パパ! ジンを殺そうとするのも悪口を言うのもダメって言ったでしょ!」
ミイナが魔王――サダンさんへと怒る
「いやーすまんなミイナ。つい手と口が滑ってしまった」
「もうっ! 次は気をつけてよね」
「はーい。パパ反省しまーす」
怒られながらも、娘にデレデレしながら返事をするサダンさん。
バチッ。
「あっ」
だが俺と目があった途端。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
一気に魔王のような顔に変形した。
怖ええええええええ!
「パパ?」
「何かなミイナ」
光の速さでデレデレ顔に変形させて誤魔化した。
「あれ? なんだか怖い顔したパパを見たような気がするけど、見間違いかしら」
「気のせいだよミイナ。それよりもいつ敵がきてもいいように準備をしようじゃないか」
「そうだったわ。ジン。私達と一緒に来なさい」
「? おう」
ミイナに呼ばれたので起きて付いて行く。
「あれ? ここは教か――服屋じゃないのか?」
建物から出るとそこは草原だった。すぐ後ろには街を守る門がそびえ立っている。
状況がわからない。なんで俺。ミイナやマカと服を買いに来たはずなのにこんなとこいるんだ?
「旦那様。お嬢様。ジン様。急いでください。敵はもういつ来てもいいはずです」
「うむ。ミイナ。害ちゅ――お前も早く行くぞ」
明かりをマカから受け取り、俺、ミイナ、マカ、それにサダンさんはあのゴブリン四天王と戦った場所まで徒歩で移動した。
まだ2日も余裕があるのに早すぎないか。はっ! もしやこれは、ゴブリン四天王が攻めてきた時の予行練習か!
「それなら納得だ」
「貴様。何無駄口叩いてる」
ただポツリと声を出しただけなのに、サダンさんは喧嘩を売られたヤ◯ザのようにブチ切れ額の血管が浮き出ていた。
「ごめんなさいっすーーー!」
恐怖のあまりつい進撃の巨◯風敬礼をしてしまう。
「貴様。なんだその構えは。ワシを舐めているのか」
侮辱したと勘違いしたサダンさんは、腰に吊るしていたかつて俺を殺した細長い漆黒の剣を引き抜く。
「じーー」
「……んん。ゴホン。気をつけろ」
ミイナがこちらをじっと見ていたのですぐ態度を変えるサダンさん。そのお陰で俺は殺されずに済んだ。
怖かったぁぁ。ありがとうミイナ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます