第十八話 俺は帰る。このみっともない俺の体に!
回想終わり。
空中をふよふよ漂い。改めて思い返したがやっぱり理解できなかった。
モグラが地面から出てきて股間にぶつかるって何? こんなギャグ漫画みたいな展開。『見た目は子供。頭脳は大人』で有名なあの名探偵でも絶対困る事件だろ。
倒れた俺を見て、コ◯ンくんが事件性がなさすぎて麻酔銃撃とうか悩んでいるのを思い浮かべていると。
「なんだ――眩しい!」
地下にいるはずなのに天から光が差してきて、地上から離れようと魂がどんどん上昇する。
やばい。このまま肉体に戻らないと俺天に召されてガチで死んでしまう。
だが体に戻ったとしてもあの耐え難い激痛が俺を襲うだろう。
そしてもし天に昇ったとしても、そこで待っているのはあのヤンデレ天使。
やばい詰んだ。
肉体に戻っても地獄。天に昇っても地獄という板挟みに絶望に打ちひしがれる。
が。俺の頭に『諦めるな。心を燃やすんだジン』と応援するようにある男の人生が詰まった曲が流れてきた。
「この曲は――こんな俺を励ましてくれるのか。ありがとう煉◯さん」
涙ながらに感謝しながら、俺なりにアレンジしたその曲を歌う。
曲名【炎(のように儚く燃え尽きて消滅したかもしれない俺の金◯)】
ら〜〜ら〜〜ららら〜〜♪
サヨナラ。ありがとう。俺の金◯。
悲しみよりなんか、痛みが強い。
去りゆく、体は、みっともなくて〜。
魂が戻っても、男でありますように――。
ーーーーーー
「あなた。こっちよあなた」
歌っている途中。聞き覚えのある声がしたので上を見上げると、光の向こう側から天使が嬉しそうに手招きしていた。
それもメイド服姿で。
「げっ!」
「妻にむかって『げっ!』とはなんですか」
「誰が妻だ!」
「私ですが?」
「真顔で指差して言うな!」
相変わらずこのメイド――じゃなくて天使ウゼェ。
「ぷぷぷ。メイド服着てるから間違えてやんの」
心を読んだ天使が口を押さえて笑いを堪える。ウザイ。このまま天に昇って一発ぶん殴ってやろうかな。
「こんな可愛い妻を殴るなんて酷いです。結婚したばかりなのにいきなりDVですか」
「誰が妻だ! それにこれはDVじゃねぇ。復讐だ。だが安心しろ。優しい俺は顔だけは避けて殴ってやる」
「ほんと?」
「ああ。優しいだろ」
「はい。ジンくんの愛を感じます」
胸元に拳を乗せながらぽっ、と頬を赤く染める。なんで? こいつもしかしてドMだったのか? まあいいや。許可もらったし思いっきり殴〜ろ。
天に昇って頬を染めながら俺を待つ天使を殴ろうと張り切りつい腕をぐるぐる回す。
「hahah」
天から天使とは違う笑い声が聞こえてきた。
いや、この声は聞き覚えがある。聞くだけで全身が震え、心臓が停止するようなこの声はまさか!?
俺の思い通り。天使と反対側から顔を覗かせたのは――。
「は、ハデス教官んんんんんんんん!」
「hahah。Yes」
地獄の王がいい笑顔で手を振る。
ハデス教官がいるなんて聞いてねぇぞ! あいつ知ってて俺を誘ったな!
「さあ、あなた。早くこっちにいらっしゃい。地獄に行った後一緒に萌え萌え。してあげるから」
「Morumotto Boy。こっちにWelcome」
メイド服を着た悪魔のような天使と地獄の王が手招きしてきた。
冗談じゃない。あそこに行ったら間違いなく死ぬより酷い目にあう!
俺は自身の体がある地上へ全力で泳いだ。
天に昇らず離れていく俺に天使は。
「どうして逃げるの。可愛い妻がこんなに呼んでいるのに……」
「天使?」
天使の様子がおかしい。
と思っていたら天使の周囲にドス黒い何かが纏わり付き。
「こんなに愛しているのに。あ・な・たああああああ!」
「ひいいいいいいい!」
天使がホラー映画とかで見るような悪霊のようになって俺を捕まえようと天の穴から這い出てきた。
怖い。怖すぎる。もう奴は天使じゃねぇ。
俺はオリンピック選手もビックリな速度で地上に向かって泳ぐ。
だがあと少しで体に戻れるって所で。
「あなた。つ〜かま〜えたああああああああ!」
悪霊と化した天使に足首を掴まれた。
「うわあああ、離せ! 俺はまだ死にたくない!」
「ダメよ。さあ、私と一緒にも〜えも〜えしましょ〜〜〜〜」
もう天使の面影のないホラーな姿と声で天に引き上げようと引っ張る。
「やめろおおおお!」
ジタバタと体を動かし抵抗するが、思ったより力が強く手を離しそうにない。やばい。このままだと天に昇って死んでしまう。
その時ふと、ミイナの顔が視界に入った。
「ミイナ。助けてくれミイナ」
「くふふ。無駄よあなた。あなたの声は彼女には届かない」
くそっ。やっぱり聞こえないか。俺はもう死ぬのか……。
体から抵抗する力が抜けていく。
もう何もかも諦めた俺は最後にミイナへ。
「ミイナ。お前のこと、この世で一番好――」
ピシャ! ゴロゴロ!
「ぎゃああああああ!」「きゃああああああ!」
ピンポイントで天から雷が落ち、俺と俺を掴んでいた天使も一緒に感電した。
「こ、れは、まさか。指輪の加……護」
感電した天使が俺の足から手を離した。今だ!
「うおおおおおお!」
体の痺れを気合いで解き、最後の力を振り絞って自分の体目指して泳いだ。
「待って」
体からドス黒い何かが抜け落ち、元のメイド服姿になった天使が。
「やだやだ。まだ一緒に萌え萌えしてないのに、いちゃいちゃもしてないのに帰っちゃいやよあなた」
アニメヒロインのように涙目になって可愛らしい声と仕草で引き止めようとする。
そんな天使に俺は、ザ・◯ールドをするディ◯のようなポーズをしながら。
「じゃあな。俺は帰るぞ天使。真の嫁が待つこの体になああああああああっ!!」
ガァン。
「痛っ!」
天から金だらいが落ち、頭がクラクラしたまま俺の魂は体の中へとようやく戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます