第十七話 ミラクルアンハッピーボーイ


 なんて思っていたそれが死亡フラグだったのかもしれない。


「ジン。なんで……」


「ジン様。おいたわしや」


「ああ神よ」


 ミイナは両手をグッと力強く握り、マカは口を押さえ、聖女のお姉さんは祈るポーズをしながら、三人とも悲しげな表情で床に倒れる俺を見ていた。

 俺も幽体離脱して魂の状態で床に倒れた惨めな姿の自分を見る。

 どうしてこうなったのだろう。

 指輪の意思なのか、それともただただ不幸な出来事だったのかはわからないが、こうなったことの顛末てんまつを走馬灯のように振り返る。


 少し前。


「あのー。傷がないのならもう探さなくてもよいのでは?」


「それもそうね」


「ですね」


 聖女のお姉さんにそう言われ、ミイナ達はあっさりと探すのをやめた。

 チッ。

 内心舌打ちする。余計なこと言いやがって。女じゃなかったらぶん殴ってる案件だぞ。


「それで、本日はこの教会にどのような御用でしょうか。懺悔ですか? それとも入信ですか?」


 まるで天界にいる天使のように微笑みながらお姉さんが俺達に尋ねてきた。


「どっちも違うわよ。私達服を買いに来たの」


 ハッキリ教会と言ってたのにミイナは《ここは服屋》という自分の意志を曲げなかった。

 ある意味凄いけど、どう見てもここ服屋じゃないってミイナ。いい加減諦め――。


「やっぱり! そうじゃないかと思ってましたよ。売り場へ案内しますので私について来てください」


「「え!?」」


 お姉さんのまさかの返答に、俺とマカは声を揃えて驚いた。

 案内しますってどゆこと? ここマジで服屋なのか?


「ジンもマカもボケっとしてないで早くこっちに来なさい」

 

 いつの間にか教会の地下へと続く隠し扉が開いており、ミイナが扉の前で手招きして俺達を呼んだので、慌てて俺とマカはミイナのもとへ走った。


 コツ。コツ。コツ。


 蝋燭の明かりを頼りに、石で作られた地下へと続く階段を降りていく。


「こちらです」


 降りた先にあった古びた扉をお姉さんが開くとそこには、女性用の服がマネキンのような像に着せられ部屋中に飾られていた。


「マジで服屋だったああああああああ!」


「ジンうるさい」


 耳元で叫んだせいか、片耳を抑えたミイナに頭を叩かれた。

 でも叫ばずにはいられなかった。

 マジであったよ服。俺ずっとないと思っていたのに、ずっとあると信じていたミイナスゲェ!


「お嬢様。疑って申し訳ございませんでした」


 俺同様服屋じゃないと思っていたマカがミイナに頭を下げた。


「なんで謝ってるのよマカ」


「俺もすまなかったミイナ」


 俺もミイナに頭を下げた。


「ジンまでなんで!?」


 俺達にいきなり謝罪されたミイナが狼狽える。


「お嬢様を疑うなんて、私はメイド失格です。ごめんなさい」


「俺もミイナを信じていなかった。本当にすまない」


「わかったから、もう謝らないでいいわよ」


 謝罪を断るミイナ。だが俺達は止まらなかった。


「いや、俺はバカだった。まだまだ謝らせてくれミイナ」


「そうです。ごめんなさいお嬢様」


「すまなかったミイナ」


「ごめんなさいお嬢様」


「すまなかったミイナ」


 交互に謝る俺達へ。


「も〜。さっきから二人してなんなのよ!」


 若干怒ったようにミイナが地団駄を踏む。

 

 そして事件は起きた。


 ミイナが地面を激しく踏んだことで衝撃波が発生し、たまたま近くの地面で眠っていたモグラがそれを地震と勘違いしてビックリしながら目覚め、時速百キロものスピードで地上を目指して掘り進めた結果。


 ボコッ。「ビィィィーーー!!」


「え――」


 チーーーン。


 俺の真下から飛び出したモグラが俺の股間に直撃した。


「うっ――なんっ……で」


 下から今まで感じたことのない強烈な痛みがすぐに襲いかかり、口から涎を垂らしながらトイレを限界まで我慢したような顔で股間を抑えたまま俺は床に倒れ、痛みから逃げるようにピクピク震える体から魂だけが飛び出た。


「ジ、ジーーーーーーーーン!」


 ミイナの叫び声が地下中に響いた。

 だが俺からの返事はない。ただの屍のようだ。

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