第十六話 ここは服屋?
数分後。
「着いたわ」
店の前に横並びで立つ。
着いたか。ここが服……屋?
「ミイナ。ここが服屋なのか?」「お嬢様。ここが服屋ですか?」
マカも俺と同じ気持ちなのだろう。まったく同時にミイナへ尋ねた。
「そうよ」
ミイナが腕を組みながら正面にある服屋? に顔を向けたまま口だけで答えた。
嘘だろ。ここが服屋なのはおかしい。
何故なら店の看板も建物も完全に
これはツッコミ待ちか? まさかのツッコミ待ちなのかミイナ!
チラッとミイナの顔を見る。相変わらず劇場版ジャイ◯ンのように自信に満ち溢れたその顔はとても可愛らしく、かつ凛々しかった。
あの顔。ツッコミ待ちじゃ、ない……のか? いや、しかし。
建物を見る。やっぱり教会にしか見えなかった。
こうなったら一か八かだ。俺はツッコミをミイナに入れる!
いざ覚悟を決めるも、生まれたての子鹿のように足が震えてきた。呼吸は早くなり、額からは汗が落ちた。緊張している証拠だ。
何を緊張している俺。ただミイナへツッコミをするだけだろ。ただミイナの大きくて美しい胸目掛けて俺の手をぶつけるだけだ!
精神世界で何度も何度も繰り返し練習し、俺の思いつくあらゆる展開のシミュレーションを全てクリアして、ついにミイナへツッコミを入れる覚悟ができた。
「ミイナ、ここ服屋じゃなくてきょうか――」
裏拳のように素早く手を動かす。狙いはもちろんあの美しく膨らんだ胸だ。大丈夫。ミイナはまだ気が付いてない。このままいける!
ボコッ。「うわっ」
だが胸に当たる寸前に足のつま先部分の地面が不自然に陥没し、前に倒れた。
ヒューーーー、ザクッ。
そして頭上には鋭い何かが刺さった。
「痛ってぇ。何だこれ」
起き上がり、頭に手を伸ばして刺さった物を抜いた。よく見るとそれは縦横30センチの十字架だった。
しかも十字架には人らしき石膏像がつけられており、その顔が完全に俺だった。
「指輪の呪いのしわざかこれは。ふざけやがって」
十字架を握りつぶしながら、この呪われた指輪をつけた天使への怒りで血の流れが活発になり、頭から噴水のように血が噴き出した。
「きゃあああジン。頭から血が、血が出てるわよ」
血を見たせいか、さっきまでの凛々しいジャ◯アンのようだったミイナが、お風呂を覗かれたし◯かちゃんのように悲鳴をあげた。
「お嬢様。落ち着いてください。ジン様。ひとまずこのきょうか――服屋で傷を癒やしてもらいましょう」
「そ、そうね。ジン早くきょうか――服屋に入って」
慌てながらもミイナがどこからか取り出した布で頭にある傷口を抑えてくれた。
服屋で傷を癒すってなんだよ。もう『きょうか』まで言ったのなら教会でいいだろ。
内心ツッコミつつ、ミイナと一緒に服屋? の中に入った。
ピンポンパンポンピンポーン♪
「ようこそ迷える子羊達」
どこかで聞いたことのあるチャイム音とともに、聖女服姿の女性が祈るような仕草をしながら俺達を出迎えた。
やっぱり教会じゃねぇか! と心の中でミイナへとツッコミを入れた。
マカも俺と同じ気持ちなのだろう。中を見て目を見開き無言でミイナへと顔を向けていた。きっと心の中ではミイナにツッコミを入れているのだろう。
「あの、服を――じゃなくて、ジンの傷を癒やしてくれませんか」
「いいですよ。お値段は1000マニーとなります」
金取るのかよ。
「払うわ」
ミイナが躊躇せずお金を支払う。流石ミイナ。そこに痺れる憧れる。
「毎度あり〜。さあ傷を見せて」
「ここよ」
金を受け取った聖女に、血の付いた布を取り俺の頭を見せる。
「ふむふむ……あれ? 傷口はどこですか?」
「何言ってるのよ。ここにちゃんと傷が……ない」
頭を掴みながら傷口を探すミイナ。
「おかしいわね。ねえ、マカ。さっきまでこの辺に傷があったわよね」
「はい。お嬢様の探している所に傷がありま……あれ? ないですね」
ミイナとマカが俺の頭を手でわしゃわしゃしながら、草むらでコンタクトレンズを探すように傷口を探す。
だが傷口はない。絶対。それは断言できる。
その理由はスキル『超回復』を俺が持っているからだ。
確かキングゴブリンも持っていたこのスキルは文字通り身体の損傷を通常より数百倍も早く回復することができる便利なスキルだ。そのスキル効果でさっきの刺し傷程度なら一分もしないうちに完治するだろう。
ミイナ達へこのスキルのことを告げたら傷口を探さなくなるのだが俺はそうはしない。何故なら――。
「ない。どこにもないわ」
「うーーん。どこに消えたのでしょう」
ミイナとマカが前かがみしながら傷口を探しているので、服越しに二人のたわわな胸元を堪能できるし、それになんだか撫でられているようで心地いいからしばらくこのままにしておこう。
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