第十四話 沈黙の原因
ミイナの住む屋敷から徒歩10分の場所に兵舎はあった。
「ここでゴブリン四天王対策会議をするわ」
「結構大きいな」
兵舎はミイナの屋敷と同じ規模の建物で、歩いている途中にあった街役所よりも立派な建物だ。
「当然よ。だってこの街の兵士は皆、王国兵にも匹敵する優秀な兵士ばかりだもの」
ミイナが自慢しながら胸を張る。
確かにミイナの言う通り、外で見かけた兵士達は皆住民に礼儀よく挨拶しており、お辞儀の姿勢や歩く姿勢なんかはまるで機械のように洗練された動きをしていた。
ここの兵士いいな。俺の統治していた国でスカウトしたいくらいだ。
俺の治めていた国の兵士達も皆優秀な兵ばかりだったが、王宮ですれ違うたびに秘書には90度の角度でお辞儀するのに対し、俺には片手を上げながら「チース。陛下」「陛下。ウス」といった陛下=先輩のような扱いで威厳など無いに等しかった。
「じゃあ入るわよ」
ミイナを先頭に、俺、マカと続き兵舎の中に入る。
顔パスなのか入り口に立っていた兵士は俺達が中に入るのを無言で敬礼しながら見送った。
「会議室は二階にあるわ。案内するから私に付いてきてね」
ミイナの背中を、俺とマカはRPGゲームのパーティーのように一直線になりながら追う。
そのたびに兵士とすれ違うが、やはり皆無言で俺達に向かって敬礼するだけだった。
なんで喋らないんだろう。不思議だ。
二階に上がり、ある立派な扉の前でミイナが立ち止まる。
「ここが会議室よ」
そう言い、ミイナは両手で勢いよく扉を開く。
バンッ「待たせたわね!」
豪快なミイナを先頭に、俺やマカも部屋に入る。
「お邪魔しまーす」
「失礼いたします」
ミイナ、俺、マカの入場に、椅子に座っていたマフィアやヤクザのボスのような風格の兵士達は皆立ち上がり、鋭い眼光で俺達を見ながら無言で敬礼する。
「ラクにしていいわよ」
ミイナがジェスチャーを入れながら指示すると、兵士達は皆敬礼を止め、顔をこちらに向けたまま無言で椅子に座った。
怖えええ。なんでミイナはこんな怖いメンツに命令できるんだよ。肝座りすぎだろ。
「ジンとマカはここに座って」
「お、おう」
「はい。お嬢様」
ミイナの右横に俺、マカという順に円形のテーブルの一番奥にある椅子に座る。
「さて。会議を始めましょうか」
椅子に座り、腕を組みながらまるで司令官のようにミイナがそう言い、兵士達は皆頷き――。
5分後。
誰も喋らなねえええええええええ!
頷いたっきり未だに誰一人喋らず無言のままだ。
怖えぇよ。なんだよこの空気。
ただでさえ見た目の怖い兵士達に見られているのに、誰も喋らないのが更に恐怖に拍車をかけてくる。
頼む。誰でもいいから喋ってくれ。目を瞑り、心の中で必死に祈った。
すると俺の願いが通じたのか。
「あ、そうだ」
ミイナが思い出したように口を開き。
「今日はパパここに来ないから、皆私に対して話しかけてもいいわよ」
『左様でございますか』
マフィアやヤクザのボスのような兵士達が全員安堵の表情を浮かべながら一斉に口を開いた。
ミイナパパのせいで喋れなかったのか?
俺の疑問に答えるように、右横に座っていたマカが耳打ちしてきた。
「ジン様は知らないと思いますが、旦那様はミイナお嬢様と話す男性を一部の例外を除き誰であろうと半殺しにするので皆怖くて黙っていたのです」
「なるほど。だからここに来るまで他の兵士達も無言で敬礼してたんだな」
「そうです。例外として今のように旦那様がいらっしゃらない時だけお嬢様から許可をいただき、やっと口を開くことができるのです」
「そうだったのか」
マカから理由を聞いて、俺はミイナパパとの出来事を思い出していた。
思えば初めてこの世界に来たその日、ミイナの命を助けたのに心臓を刺されて殺されたり、今日の朝も殺されかけたり、ゴブリン戦の時兵士が『ミイナに話しかけただけで半殺しにする』とか言っていたり、こんな顔面凶器のような怖い連中にも恐れられているなんて、やっぱりミイナパパ超怖ぇ。
テッテレ〜♪ 俺のミイナパパに対する恐怖値が前世界の魔王を超え、ハデス教官の次にランクアップした。
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