第十三話 天使からもらった指輪が呪われている説


「――ジン、ジン」


 俺の頭に響く優しい声。

 落ち込んだ俺を癒す本物の天使のようなこの声は間違いない。


「ミイナ」


「やっと気がついた。ジンったら急にぼーーっとしてどうしたのよ」


 ミイナは心配するように俺の顔をじっと見てきた。

 ミイナの顔を見るだけ。それだけで俺の心はだいぶ癒され――。


 ガァン。


「痛ってぇ!」


 どこからともなく金だらいが俺の頭に落ちてきた。


「ジン大丈夫。金だらいなんてこの部屋にあるはずないのにどうして……」


 ミイナが部屋中を見渡すが、もちろん金だらいを置く場所など存在しない。

 この不自然な出来事に、俺は天使の言葉を思い出していた。

 確か天使いわく『私以外の女の子との恋愛展開が邪魔される神の加護』だったか。神の加護じゃなくて呪いの間違いじゃないのか。

 ミイナに心配かけるわけにもいかないから俺は気にしてないような態度で。


「ミイナ俺なら大丈夫だ」


「――そう。ならよかったわ」


 なんも気にしていない俺の様子に、ミイナが金だらいを探すのをやめた。


「さてと。残りのパンケーキを食べないとな」


 正直天使のせいで食欲は失せていたが、男としてミイナの前で食べ物を残すのだけは絶対にしたくなかった俺は、パンケーキをブロックのように小さく切っていき一口サイズで食べる。


「あれ? ジン。そんな指輪つけていたっけ」


 ドキッ。


 ミイナが俺の左手にある指輪に気がついた。

 指輪についてミイナに正直に話すべきだろうか。いや、でもなあ。話したら俺が天使に無理矢理結婚されたこと話さないといけないし、あの世でのやりとりなんて信じてくれないだろうし。

 よし、ここは黙って――。


「しかも左手の薬指になんて。ジン。これはどういう意味なのかしら?」


 ミイナの髪の毛が逆立ち、全身からハデス教官と同じような恐怖のオーラが発せられた。

 【コマンド選択】 ▶︎いのち大事に。

 前言撤回。正直に話そう。


「ちょっ、落ち着けミイナ。実は――」


 俺は天使とのやりとりを最初から最後まで、アニメ等でよく見かける『嫌々入れられた組織の裏切り者』のように正直に全部自白した。

 ミイナは俺の話を聞いて半信半疑のまま。


「正直作り話のようで信じられないけど」


「全部真実なんだ。

 俺にとって天使なんてこのパンケーキより好きじゃないし、俺が一番心から好きなのはミ――」


 ビシャ! ビリビリビリ。


「ぎゃあああああああああ!!」


「ジン!?」


 室内にいるはずなのに雷が真上から落ちてきた。

 俺の全身からプスプスと煙が出ながら、それでも笑顔でミイナに一言。


「これでも信じてくれないか?」


「信じる。信じるわ」


 疑っていた時とは違い、ぶんぶん縦に頭をふるミイナ。

 二度もありえない超常現象を味わってやっとミイナが俺の話を信じてくれた。

 体張ってよかった。この世界にリアクション芸人って職業あったら俺絶対天職だと思う。


「でもジンの話が本当だとしたら、今後のためにもその指輪は邪魔ね。ちょっと攻撃してみてもいいかしら?」


「どうぞどうぞ」


「じゃあ指輪だけを刺すわよ。ジンはそのまま動かないでね。くらえ『ホーリーライトレイピア』」

 

 ミイナがパンケーキ用のナイフで左手の薬指にある指輪だけを狙って勢いよく突き刺す。


 キィィィン。


 鉄骨にぶつかったような金属音が部屋中に鳴り響く。

 が指輪は無傷でナイフがグニャッと折れ曲がった。


「さすがに硬いわね。確かジンの持ってたあの剣でもダメだったのよね」


「ああ。俺の聖剣でもこの通りだ」


 実際に聖剣を出して器用に指輪と薬指だけを剣先で刺すが無傷のままだった。


「やっぱりダメだ。傷一つつかない」


「諦めちゃダメよジン。絶対その指輪を外せる方法があるはずよ」


 ミイナの力強い発言に俺のやる気も跳ね上がり。


「だよな! よーし、そうと決まったら次はミイナが武装してこの指輪を攻撃するか」


「そうね。私の最強必殺技でこの世から完全にその指輪を消し去ってやるわ」


 折れたナイフの先を指で掴み、ポッキーを折るような感じでパキッと分断しながら話すミイナから松岡○造さんのような熱血オーラが溢れ出ていた。

 ミイナがここまで本気になってくれたのは嬉しいが、そんな技を使って俺の体は大丈夫、だよな?

 冷や汗をかきながら自分の心配をしていると、部屋のドアがノックされマカが入ってきた。


「ミイナお嬢様。そろそろ会議に出発するお時間です」


「あら、もうそんな時間なの」


「マジか、あと一口で終わるからちょっとだけ待ってくれ」


 残り一口分のパンケーキをフォークで刺して口に運ぶが、既に満腹メーターがマックスになった俺は口に入れる前に動きを止めた。

 あと一口分なのに。動け、動くんだ俺の左手!


「食べられないならそのパンケーキ私によこしなさい」


「あっ」

 

 パンケーキを刺したフォークを俺から奪い、それを一口で食べて唇についた蜂蜜を裾で拭きながら。


「ほら、もたもたしてないで会議に行くわよ」


「お、おう」


 男らしいミイナの姿に、男であるはずの俺がまるで乙女のように思わずキュンとする。


 バキッ。


「うおっ!」


「「ジン(様)!?」」


 神の加護の効果で、俺の座っていた椅子が壊れて床に尻を強打した。

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