第十一話 ラブコメのいい雰囲気はよく邪魔されるものだ


「ゴブリン四天王対策会議?」


 コーヒーに砂糖をたっぷり入れ、蜂味がたっぷりついたマカ手作りパンケーキを一口でガブっと食べる手前で聞き返した。


「そうなの。昨日攻めてきたゴブリン四天王をどうするかこの街にいる兵士達と話し合いをするからパパの代わりにジンが出てくれないかしら?」


「別にいいけど。代わりって?」


「実はね。この会議私とパパとマカだけで出るってパパが相手のお偉いさんに話してたんだけどね。今朝私が大嫌いなんて言ったからパパ落ち込んで部屋に鍵かけて閉じこもってるのよ」


 そう言うなりパンケーキを食べてブラックでコーヒーを飲む。どうやらミイナは俺のように砂糖をたっぷり入れるのではなくパンケーキを砂糖代わりにしてるようだ。

 俺もミイナが食べてすぐパンケーキを食べたが、思ってたより蜂蜜が甘く、俺も(コーヒーは砂糖少なめにしてパンケーキと一緒に食べればよかった)と少しだけ後悔した。


「まったくパパったら。私に結婚してほしくないからってジンを除け者にして、あまつさえ二度も殺そうとするなんて信じられない」


 ミイナが怒りながら空になったコーヒーカップをテーブルにドンッと置いた。

 正確には一度殺されているぞミイナ。

 口に出して言おうと思ったが、ミイナに余計な心配はかけたくなかったから言わなかった。

 それよりミイナが俺の為に本気で怒ってくれた事がめちゃくちゃ嬉しい。

 今まで俺の周囲にはドSの秘書や悪魔のような天使に最低最悪極悪非道のハデス教官や平気で俺を殺すミイナパパくらいしかいなかったから、ミイナのような優しい人に出会うのは生まれて初めてで……あれ。なんだろう。悲しくないのに涙が出てきた。


「ジン。どうしたの。涙が出てるわよ」


「それは多分ミイナが優しいからだよ」


「そんなの当たり前じゃない。私はジンの妻なのよ。ほら、拭いてあげる」


 ミイナがハンカチで俺の涙を拭き取る。


「これでよし」


「ありがとうミイナぁぁぁ」


「また涙出てるわよ。もぅ。拭いてあげる」


 ミイナが困ったように。けど少し嬉しそうに涙を拭き取ってくれた。


「ありがとう。もう大丈夫」


「そう。よかった」


 笑顔で答えるミイナ。天使だ。本物の天使がここにいる。


「どうしたのよ。私の顔をじっと見て」


「あ、いや。ミイナは天使のように可愛いなって思ってつい」


「そ、そうなの。ふーーん、私が天使。ね」


 耳と頬を赤くしながら俺から顔を背け、恥ずかしさを誤魔化すようにパンケーキを食べるミイナ。

 可愛ぇぇ〜。こんな可愛いくて強くて超優しいミイナが俺の妻だなんて、俺今人生で一番幸せかも。この時間が永遠に続けばいいのに――。


『ジンくん。聞こえてますかジンくん』


 人生最大の幸せを噛み締めている時に、その幸せを邪魔するかのようになんだか聞き覚えのある声が頭に響いてきた。

 噂をすればなんとやら。天使がまた何の用だ? どうせろくな事じゃなそうだし、現世にいる間は天使のやつ俺の心読めないだろうし、ここは無視しよ無視。

 俺は天使の声を無視しながらパンケーキを食べる。もぐもぐ。甘すぎるけど美味い!


『無視しないでジンくん。聞こえているんでしょ』


 無視無視。

 続いてコーヒーを飲む。ごくごく。さっきのパンケーキがまだ残ってるからめちゃくちゃ甘く感じるけど美味い!


『もしかして聞こえていないの?』


 聞こえてないぞ。


『うーん。テレパシーの感度が悪いのかな? どうしよう』


 どうもしないでとっとと通信を終えろ。


『あ、そうだ』


 そう言って天使からの通信が途切れた。ひとまず安心だ。また通信してきても無視しれば――。


「ジンくんおかえり。お風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し?」


 まるでテレビのコマが変わるように、瞬きをして目を開けると、俺は玄関のような場所に立っており正面にはエプロン姿の天使がおたまを持ちながら立っていた。

 

 ドユコト?

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