第十話 ヤバいよヤバいよ。マジでヤバいよ!((((;゚Д゚)))))))


 チュンチュンチュチュチュン♪


「朝か……」


 体力や状態異常が全回復するような小鳥の鳴き声で目覚め、見知らぬ天井を見て『ああ、そういえば俺ミイナの家に泊まったんだ』と石で作られた硬いベッドから起きようと――――んん? 硬いベッド?


 ガチャガチャ。


「何この鎖!? 何この部屋!? ここはどこ!?」


 両手両足は鎖で繋がれており、周囲にはアイアンメイデンなどの見たことのある有名な拷問器具一式があり、明かりは天井付近にある鉄格子のつけられた窓から差し込む光と蝋燭のみという恐怖の急展開に俺は目が覚めてから一気にパニックになる。すると。


「ようやく目覚めたようだな」


 声がした方に顔を向けると、職人のように砥石で円盤状のノコギリを研いでいるビッグボスことミイナパパがいた。めちゃくちゃ嫌な予感がした俺はミイナパパへ。


「あの。これは一体なにをなされてるのですか?」


「何をしてると思う?」


「料理の準備。とか」


「違うな」


「ですよねーーーーー」


 会話してる間にも研いでいるミイナパパはまるで物語に出てくる鬼のようだ。

 このままだと確実にろくな目には遭わないだろう。

 俺は勇者としての力をフル活動させ鎖から脱出しようとするもヒビすら入らなかった。

 嘘だろ。鋼鉄製の手錠でさえ簡単に破壊できる俺でさえ壊せないなんて、この鎖まさか伝説級の素材を使ってるのか!?

 俺が水揚げされた魚のようにジタバタしながら必死に逃げようとしていると。


「よし。準備できたぞ」


 ノコギリを研ぎ終えたミイナパパがニコニコ笑顔のまま俺の真上にある取り付け台にノコギリをセットした。


「あのーーー」


「何かな?」


「円盤状のノコギリなんでつけて今から何されのですか?」


「気になるか?」


「ものすごく」


「そうかそうか。キサマなぞに教えても意味はないが、機嫌がいいから今回は特別に教えてやろう。それはな」


「それは」


 ミイナパパはさっきよりもニコニコ笑顔で上に上がったレバーに手をかけながら。


「ワシの娘にまとわりついた害虫を駆除するためだ!」


「ですよねーーーーー!!」


 レバーを下に下ろしたことで高速でノコギリの刃が回転しながら俺の体を縦から半分にしようと降りてきた。


「わかってた。薄々こうなるんじゃないかって気づいてだけど受け入れたくなくて現実逃避してた」


「害虫が何をごちゃごちゃ喋っている」


「なんでもないっすーーーーーー!」


 ヤバい。目の前から回転する刃が迫る恐怖で俺の精神と情緒がおかしい。それもまるで何人にも分裂したように頭の中では今。

 ひぃぃぃぃぃ。逃げないと! でもダメ。鎖が外れないから逃げられないわ。なんで俺女装してるんだよ。私は内なるあなたの乙女心だからよ! なんで乙女心がこのタイミングで出てきたんだよ! 知らないわよ。なんでかな? テヘペロ。『テヘペロ』なんてやってる場合か! あ、これはもう逃〜げ〜ら〜れ〜な〜〜〜い。なんで歌舞伎役者っぽい姿をした俺がいるんだよ! ワン! ワンワンワン! ニャ〜ニャ〜ニャニャニャニャ!


「なんで犬と猫のコスプレをした俺が出てくるんだよおおおお!」


 犬猫のコスプレをした俺の登場により、あまりの気持ち悪さにショックを受けてようやく脳内世界から現実世界に戻ったノーマルな俺が見たのは残り10センチ付近まで近づいていた回転ノコギリだった。


「ヤバいよヤバいよ」


 とうとう出◯さんのモノマネをした俺が脳内から現実に登場してきたのでいよいよ死を覚悟する。


「ふははは! 死ねえええええええ!」


「何やってるのパパ!」


 鼻先に風を感じる距離でノコギリの動きがピタリと止まった。


「た、助かったああああああぁ」


「ミイナ! 何故ここに」


「『何故ここに』じゃないわよ! なんで朝からジンを殺そうとしてるの!」


「ワシはただ、お前に纏わりついた害虫の駆除をしようと――」


「ジンは害虫じゃないわよ。パパのバカァ! 大っ嫌い!」


「大っ……!」


 ミイナの強烈な『大っ嫌い!』の一言によりミイナパパは魂を失ったようにふらふらと部屋を後にした。


「怖い思いをさせてごめんねジン。今助けるわ」


 ミイナにより鎖が外され自由になった俺は泣きながらミイナに抱きついた。


「ありがとう。マジで怖かった。すっごく怖かったあああああああ」


「よしよし。怖かったわね。もう大丈夫よ」


 ミイナはまるで物語に出てくる女神のような優しさで泣きじゃくる俺の頭を撫でてくれた。

 その優しい撫で撫ではさっきまで恐怖のどん底にいた俺に対して絶大な効果をもたらし。

 ミイナ優しい。俺完全に惚れちまったぜ。

 ぽっ。あなたの優しさに私は惚れたわ。

 あ、ほ〜れ〜ちまったぁ〜〜〜〜。

 クゥンクゥンクゥン〜〜。

 ゴロニャ〜〜〜〜〜〜〜。

 惚れたよ惚れたよ。

 と、ノーマルな俺を含む脳内にいた俺達全員がミイナへ惚れたのだった。

(※脳内にいた俺達はこの後すぐ統合されて一つの俺になったのでもう二度と出てこないと思います(笑))

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