魚類銀行
架橋 椋香
魚類銀行
ぬらるぬらりぬられりの、と夢は歪んで、その端無き膜を、溶かすように音もなく畳んでゆきます。
「……っ!」
緑郎は跳ね起きた。妙な夢だった。ぬらるぬらりぬられりの から、ぬらりれの を引けと言われたようにアトアージが悪い。キボウホウのキは
仕方がないないないから朝御飯はマーブルチョコ。しかし全てが、凡てが、総てが、すべすべしたものが、魚の眼のように見える。吐きそうになり、でも吐けばさらに魚の眼、を解していた胃が、五十嵐くんが、「うわっ、それはやだな」と言い、止む。緑郎は全ての顔から逃げるように家を飛び出す。
その頃、
「バタバタバタバタッ!!!」
うしろから足音。緑郎である。
家を飛び出したは良いものの、緑郎には正気が戻っていなかった。靴を履いていないことに気づき、家に戻ると、靴箱を壊してしまった。雪崩れる靴の中から自分の物を探しながら投げ捨てた靴でドアを、壁を、鏡を、クローゼットを、便器を、ベッドを、炊飯器を、ラジオを、エアコンを、破壊し、靴を履いて飛び出せば向かいの家に激突、そのまま近隣住宅街をめちゃめちゃにして駆けてきたのだ。
「……遅い。」
と緋祢が言うや否や、信号は緑に変わる。緑郎は生来信号に引っ掛からない。この性質は緋祢のものにも勝るのだ。
「ごめん、ちょっと寝坊しちゃって。」
これには緋祢は答えず、すたすたと歩いていく。緑郎は彼女を追いかける。
その後ろで、親子が「みどり!」「うん、みどりだね。長かったなぁ、渡ろうか」と言っているのである。
魚類銀行 架橋 椋香 @mukunokinokaori
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