第38話 会合
イツキが『
迷宮都市のカフェ。
そこで周囲から注目を浴びる二人がいる。
一人はセレスティア・リィンガーデン。
この迷宮都市で知らない者は一人としていない、自他共に認める最強の冒険者。
もう一人はイツキ・セカイ。
迷宮都市史上最速で迷宮を攻略していく、今最も話題の男である。
この二人が朝からカフェで向かい合いながら話す姿はデートをしている、というには少々殺伐としていた。
「さて、それじゃあ言い訳を聞きましょうか?」
「先にお前に紹介されたら、手を出せないだろ」
本来、今日イツキはセレスティアと共に『
そしてそこで彼女に仲介をして貰い、今回の件を手打ちにするはずだったのだが――。
「仲裁しに行く前に喧嘩を買いに行って、どうするのよ」
「まあ最後はクランに誘われたくらいだから、怒ってないんだろ」
あっけらかんとそう言うイツキに、セレスティアも呆れたようにため息を吐く。
「……はぁ、まあいいわ。どちらにしても、貴方の力を見せる必要があったのだから、話が早くなったと思いましょう」
コーヒーを飲み、セレスティアは立ち上がる。
「さあ行くわよ」
「ああ」
そうしてイツキは彼女とともに、再び『
相変わらず門番は二人。
イツキのことをぎろりと睨むが、今日はちゃんとアポイントを取っていたこともあり渋々入り口を通してくれる。
そして昨日とは異なる応接間に案内されると、ソファにザナトスが威風堂々と座っていた。
「よく来た」
「いつもとは違う部屋なのね」
「昨日そこの奴に壊されたからな」
そこのやつ、というのはもちろんイツキのことだ。
半分はザナトスが吹き飛ばしたはずだが……と内心で思ったがそもそも自分が原因であるのは間違いないので黙っておく。
「さて、座ると良い」
そうしてザナトスを対面に、イツキたちは座る。
「それで、わざわざ二人で来る理由は……」
「私たちで本格的に迷宮攻略するわよ」
「だろうな」
「ん?」
二人の中では話が付いているらしいその言葉。
イツキはてっきり自分たちの落とし前を付ける話だと思っていたため、疑問に思う。
「本当は先に貴方の話を終わらせてからと思ったんだけど、自分で解決させたんでしょ?」
「ああ。まあ、解決したかと言われたらわからないけど……」
「貴方たちの中で終わった話なら、もう私が仲介する必要なんて無いじゃない。それより、今から話すのはもっと重要なことよ」
そうして改めて、セレスティアはザナトスを見る。
「私とザナトス、そして貴方の三人で迷宮第39層の怪物、そして第40層の守護者を倒すわ」
それは――イツキにとって寝耳に水の話であった。
それから二週間後――。
大迷宮ユグドラシル。
その30層以下はまさに地獄と呼ぶに相応しい場所だった。
鈍い光の武器を構えたスケルトンたち。
まるで火の玉のような幽霊型の魔物であるエレメンタル。
そして地獄の番人として出てくるような死神たち。
「はぁ!」
第36層で、イツキはそんな魔物たちを相手に戦っていた。
「違う! 先に叩くのはエレメタトの方よ! そうじゃないと魔術が飛んでくるわ!」
そんな叱責の通り、倒したスケルトンの背後から雷が飛んでくる。
「ぐっ⁉」
躱すことの出来ないそれはHPを減らし、同時に動きが一瞬鈍ってしまった。
同時に動き出すスケルトンと、上空から襲いかかる死神たち。
なんとか切り抜けて、奥にいるエレメンタルを斬る。
「そう、エレメンタルさえ倒してしまえば、あとは普通の魔物と同じよ!」
すでにレベル40に達した今、36層の魔物が相手であれば余裕で戦える。
そう思っていたのだが、これまでと違い魔術を使ってくる相手を前に、上手く戦闘が運ばないことが多かった。
「よし、これで全滅ね。それじゃあ休憩を挟んだら、また魔物の群れを探してくるわ」
「ああ……頼む」
レベルという概念がないセレスティアにとって、今していることはレベル上げではない。
単純に、イツキという歪な成長を遂げた冒険者を矯正しているところだった。
「貴方は強さの割りに、動きに主体性がないわ」
「本当によく見てるな」
「これでもずっと命がけで戦ってきたのだもの。この程度当然よ」
イツキはレベルのことも、そしてアレスという加護のこともなにも伝えていない。
だからこそ生まれる違和感をしっかりと認識しているらしく、しかしそれではいずれ限界が来ることを分かっているのだろう。
「いい、貴方が今するべきことは自分の戦い方に磨きをかけることよ。そのための指導は私がしてあげる」
「ああ。でもいいのか? お前だって迷宮探索が……」
「それは先日言ったでしょ?」
――私とザナトス、そして貴方の三人で迷宮第39層、そして第40層の守護者を倒すわ
「39層にいる怪物。これまでとは桁違いの強さを持つ化物よ。そしてその奥にいる守護者もっと強いはず……」
ザナトスとセレスティア、迷宮都市が排出した希代の英雄たちですら足止めを喰らうほどの怪物が39層にはいる。
ここまで来た最前線で戦う冒険者たちですら、足手纏いになってしまうそれに対して、自分たちに匹敵する新たな人物をずっと求めていた。
そしてそれこそが……。
「貴方が私たちに追いついて、そしてあいつが復帰さえすれば……」
「あいつ?」
「……ええ。まあその話はまたしましょう」
休憩は終わり、と立ち上がる。
セレスティアの視線の先には、大量の魔物たち。
そして再びイツキは死霊たちの群れに飛び込むのであった。
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