第24話 スライムロード
そして翌日。
ただでさえ薄いネグレジェを着ていたこともあり、カムイの肌のほとんどを見てしまって朝から大変だった。
そしてイツキがステータスを見ると――。
「なんでだ?」
名前:イツキ=セカイ
LV:26
HP:290/290
MP:200/200
スキル:異界の扉、フレア、ブレス、デス、カース、ポイズン
加護:アレス
加護:ヘラ
「やたらMPが上がってる。それに昨日までなかったはずのスキルまで……」
「ん。どうしたんだ?」
「なんか魔術覚えたっぽい」
薄着のカムイが不思議そうに首をかしげて尋ねてくるので、そう答えた。
――しかし、妙に物騒なのが多いな。
最初に覚えるにはどう考えても不似合いなものばかりに困惑してしまうが、しかしあるよりない方が助かるもの。
なにより、20階層の守護者には物理攻撃が効かないという話だ。
これ以上、これは天恵と思うべきものだ。
「よし、今日はせっかく覚えた魔術の試し打ちを……」
「シルヴィアが泣くと思うよ」
「今日くらい、少し休むか」
確かに約束をしたのだから、それを破るわけにはいかないだろう。
結局、この日は終日シルヴィアと街を巡り、なんとかお泊まりだけは避けて、カムイと同じように眠って終わった。
そしてさらに翌日――。
「これ、本当に最初に覚える魔術か?」
イツキはこの世界に来てから初めて、魔術を使うことになり、その威力に驚かざるを得なかった。
フレアは名前の通り、炎の魔術。
とはいえ、普通にファイアーボールとかと違って、魔物を骨すら残さない威力で唖然とする。
ブレスは回復魔術。
最初は祝福という意味もあるので強化系かと思ったが、なにせ単独行動しているイツキにとってこれ以上の魔術はなかった。
「まあこの二つはいいんだけど……」
イツキは自分のステータスを見る。
まだ使っていないデス、カースト、ポイズンという魔術。
どう考えても邪悪さしか感じられない代物だ。
「……これ、いるか?」
もちろん、あった方が良いに決まっているのはわかっていた。
しかしこんな黒魔術じみたものを使っているところを他の誰かに見られたら、変な噂をたてられかねない。
「魔術の名前的に意味は分かるし、しばらくいいか……」
少なくとも、この19層までの魔物に対してはフレアがあれば十分だ。
というより、魔術自体必要ないくらい。
「フレアを使うと、魔石も取れないしな」
この日はレベル上げでも魔石集めでもなく、20層の攻略に来た。
そのためリズは置いてきたので、余計な物を拾う余裕はない。
「さて、行くか……」
そうしてイツキは、20層に降りる。
元より先行者たちによって地図を作られているので、迷うことはない。
10層のとき同様、広い迷宮内を進んでいくと大きな扉が見えた。
「でっか……」
奥に入ると、そう言わずにはいられないほど巨大なスライム――スライムロードが鎮座していた。
スライムロードは言葉を発せないのか、なにも言わずにイツキを見下ろす。
そして……じりじりと近寄ってきた。
「いや、これはちょっと圧があるな」
ざっくり見て、直径十メートルほどの丸い物体が近寄ってくるのは怖いものだ。
とりあえず、とイツキは剣を構えて切ってみる。
しかし情報通り、切ったあとはすぐに再生されてしまった。
「なるほど……」
何度か試してみるが、やはりすぐに再生される。
「これは本当に、ダメージが入ってないのか?」
たとえばゲームでも、攻撃しても傷は残らないが、ダメージが蓄積されることはよくある話だ。
この世界にHPと言うものが存在するのであれば、見た目にはわからないダメージを負っている気がしてきた。
「……検証してみるか? っ――⁉」
そう思っていると、スライムロードの一部から触手のように伸びてきてイツキに襲いかかってくる。
事前に攻撃方法は知っていたが、予想以上に凄まじい速度に驚き、イツキが躱し損ねる。
「な――⁉」
肩と膝を貫かれ、一気にHPが削られた。
痛みはないが、その衝撃に驚く。
「そうか……そういえばダメージの検証はしたことがなかったな」
さすがに命を賭けた検証は怖く出来なかった。
だから出来なかったが、本来動けなくなるほどの一撃を受けた場合はダメージが大きくなるらしい。
「ブレス」
たった一言、それを言うだけでHPが全快する。
「いや自分のこととはいえ、これさすがにずるすぎないか?」
飛んでくる触手を、イツキは躱していく。
この世界がゲームに近いのはわかっていたが、敵からしたら一瞬で全快するのは恐怖でしかないだろう。
「……カースト」
つい、使ってみてしまった。
相手を呪い状態にするのだろうと思っていると、案の定スライムロードの内部が少しドス暗くなってきた。
同時に、スライムロードの動きが大きく鈍る。
「なるほど。そしたらポイズン……」
スライムというのは半透明ということもあって、反応が分かりやすい。
紫色に染まっていき、そして時折ビクンと大きく反応するので、ダメージが入っているのだろう。
「……デス」
意識的に、死の魔術を使ってみる。
一瞬、スライムロードの上空に黒いゲートのようなものが発生し、そこから死神が生まれた。
死神は巨大な鎌でスライムロードを切り裂く。
大きな体躯が真っ二つになり、そして死神はゲートの中に戻っていった。
「さすがに、即死魔術じゃなかったのか」
スライムロードは剣で切られたときと同様、再生する。
それでデスは、純粋に闇属性の攻撃なのだと理解した。
「とりあえずこれで、覚えた魔術は一通り使ってみたわけだけど……」
エグい。
それがイツキの感想だった。
そもそもなぜいきなり魔術を使えるようになったのか理解不能だったが、なんにせよやはりあまり人に見せたくない類のものだ。
「どれもこれも、強いんだろうけどなぁ」
守護者であるスライムロードが相手でも通用する魔術だ。
なによりブレスは、痛みを感じないイツキが使えば反則すぎる代物。
「これがヘラの加護の効果、なのか?」
ヘラと言えば、嫉妬の女神として有名でイツキもいくつかの逸話を知っていた。
呪いや毒などは、まさにヘラの逸話に相応しいものだろう。
「地球の話と連動してるのかはわからないけど――」
――あまり怒らせないような行動をしよう。
そう思い、スライムロードに向けてフレアを数発放ち弱らせたあと、毒が回りきるまで攻撃を躱し続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます