第58話 手がかり

「いらっしゃいませ。あ、悟さんじゃないですか! 今日は沢山でご来店ありがとうございます!」


 いつものホールスタッフ君が出迎えてくれた。


「今日、店長さんはいるかな?」


「店長の指名ですか? 初めてですよそんな事」


「ちょっと勘違いしているようだけど。 まあ特に今日は指名はないんだけど、店長が手が空いたらちょっと話したい」


「わっかりましたー! あ、僕の名前はシオンって言います。ぜひ覚えてくださいね」


 シオンくんか。まあここの女の子たちと同じで源氏名みたいなもんなんだろうな。

 サラサラした金髪のシオンくんはボックス席に案内してくれた。


「いらっしゃいませー!」


 間髪入れずにあすか嬢と沙織嬢がやってきた。


「焔先生!」


 立花美瑠はあすか嬢が目当てだったよな。

 だったらあすか嬢を指名してあげればよかったんじゃないのかな。


「美瑠さん、2か月振りかしら」


「そうですよ! なかなか一人ではこれなくて。ようやく今日来れてうれしいです!」


 沙織嬢が少し不満顔をしている。


「今日、『まじまん』はいないの?」


 まじまんって。(笑)

 

 真島さんのことだよね?

 

 真島課長と沙織さんって、最近どうなんだろう。少しは進展はあったんだろうか。


「今日真島さんのことは誘っていないんだ」 


「えー、そうなの? 残念!」


 まあ最近僕のことは全く興味すらないようでこれはこれで良かったけど。


「そちらのイケメンは?」


「ああ、沙織さん。こいつはぼくの同期入社で水野っていうんだ」


「どうもぉ! 水野です!」


 チャラい水野みたいなやつがここに来ると妙になじんでいやがるな。


「沙織さん、水野のことを「イケメン」とか言っておだてないで」


「えー、なんで? 本当にイケメンじゃない」


「俺のことイケメンだと思う? ありがとう! 沙織さん!」


 沙織さんは惚れっぽいのかな。


「よっ、来てたのか」


 姉小路が赤いワンピースを纏ってやってきた。


「今日はちょっと店長に用事があってね」


「あの件な。まだ何も進展がないんだって?」



「まあ、そうなんだ。だから店長さんに状況を聞きに来たっていうか。こいつらは別の目的があるみたいだけど」


 水野の目の前の姉小路はソファに腰かけた。


「お姉さん、お名前は?」

 

「クレアっていいます。よろしくお願いします」


「あ、俺、水野。こいつの同期なんですよ。今日はようやくこのお店に来れて良かった」


「今日だけじゃなくてまた来てくださいね」


「クレアさんに会いに来ますよ!」


「えー、うれしー。


 営業モードに入った姉小路クレアにはプロ意識みたいなものが垣間見える。


 ぼくには見せたことがないような表情を水野に向けている。

 

 ものすごく可愛らしい表情で、甘えてあような声を出して。


 知らなかった姉小路の一面を見たようで驚きでもあり、なんだか悔しい気持ちにもなったし、そして何かいけないものを見てしまったような気分になった。


 そして、2か月前のファミレスでの「私と一緒に居てくれないか?」という姉小路の言葉を頭の中でリフレインさせていた。


 あの時の姉小路も、これとは違うけど見たことがない表情でぼくはとても驚いたし、すごくドギマギした。


「店長に用があるんだろう? 呼んでくるよ」


「シオンくんにもお願いしたんだけどな。店長忙しかったりしない?」


「あの人はヒマしてると思うよ。稼いでいるのはアタシたちだからね」


「じゃあ、申し訳ないけど店長を呼んできてもらってもいいかな?」


「ああ、待ってな」


 そう言って姉小路は控室に戻って行った。


 しばらくすると店長が現れた。


「悟さん、時間がかかってしまって申し訳ない」


「いいえ、でも、手がかりは店長さんだけなんです。何か進んだことはないかお聞きしにきたんです」


「じゃあ、話をしましょう」


 そう言ってソファに座り、店長は話し始めた。

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