第49話 インターネットで調べました!

「あ、曉子さん? な、な、何やってんですか!」


 すりガラス越しの東堂さんは、バスタオルで身体を包んでいたが、この予想もしなかった状況に完全に僕の脳はパニくった。


「ですから一緒に……」


「ですからって、えええっ? だって下着を一緒に買うのも恥ずかしがってたじゃないですか!」


「下着の方が……恥ずかしいですよ」


「今は僕が恥ずかしいです! ちょ、ちょっと待っててくだ……」


「曉子入ります!」


 そう言って東堂さんはドアを開けて入ってきた。


「曉子さん? ぼくは入ってもいいって言ってない……です」


「えへへ。入っちゃいました」


 僕の背後に東堂さんがバスタオルを纏いつつ立っている状況に、ぼくは座ったまま背中を向けるしかなかった。


「背中を流しましょうね」


「えっ、そんなこと」


「だって、男の人はうれしいんでしょう?」

 

「曉子さん、そんなこと誰から聞いたんです?」


「その……インターネットとかで」


「インターネットぉ????」


 ぼくはそれを聞いて、振り向いて思わず大声で笑ってしまった。


「あははははは、はははははは」


 そこで気が付いた。東堂さん、震えている。


「酷いです。なんで笑うんですか?」


「ごめんごめん」


「悟さん酷いですよぉ。これでも私、一大決心して今日ここに来たです。笑うことないじゃないですか。こんなこと、こんなこと初めてなんですよ!」


 予想はしていたけど、やっぱり東堂さんは……そういう事だったのか。 


「曉子さん、ちょっと目を瞑っていて」


「え? なんで?」


「いいから」

 東堂さんが目を瞑ったのをみて素早く立ち上がって向き合った。


「いいよ、もう目を開いても」

 ゆっくりと目を開いた東堂さんはびっくりしている。


 ぼくはタオルの上から東堂さんを抱きしめて、


「そんな、インターネットで調べるみたいなことはしなくていいんです。ぼくたち、もっと自然に……その……仲を深めればいいんじゃないかなって」


「ごめんなさい。私、私、元カノさんに悟さんがまた取られちゃうんじゃないかって心配になって」


「それは絶対に、絶対にないよ」


「本当ですか? 本当に私だけを見ていてくれますか?」


「ぼくは曉子さんだけをみるから。本当だよ」


「うれしい」


 そう言うと東堂さんの身体から力が抜けてしまい、僕の腕に彼女の全体重がかかった。


「曉子さん? 曉子さん! どうしたんですか!」


 あれ、気を失っている。


 慣れないことをやろうとして、滅茶苦茶緊張していたんじゃないか?


 気が抜けてしまったんだろうな。


 ぼくは、バスタオル姿のまま東堂さんを抱えて僕の寝室まで運んでベッドの上に寝かせた。


 緊張が解けて眠ってしまった東堂さんにタオルケットを掛けてしばらく見ていたら、この上なく愛おしい気持ちになった。


(ぼくのために無理をして……そんなことしなくても、ぼくは東堂さんに夢中だってことをちゃんと言わないとな)


 ぼくは眠っている東堂さんを置いて風呂にもどり、身体を洗ってパジャマ代わりのジャージに着替えた。


(しばらく、このまま寝かせておこう。今日は僕だけじゃなく、東堂さんにもいろいろあって疲れているんだろうな)


 寝室でまだ眠っている東堂さんをみてそう呟いた。

 

 しかし可愛い。

  

 しかしヤバかった。


 自分の理性の堤防が崩れそうになった。


 東堂さんは自分の彼女だけど、初めてのことだからあんなに……震えるほど怖かったんだ。


 きっと今日の僕の行動は間違っていないと思う。

 

 お互いそんなに焦る必要はない。

 

 そういうことは……もっと楽しい時間をたくさん過ごした後でいいじゃないか。

 

 かっこつけではなく、ぼくは東堂さんに対して本当に大切にしたいと、心からそう思えた。

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