第31話 バッカじゃね?

「悟が困ってるって聞いて来てやったぞ」


 誰だ、真島さん呼んだのは。


 僕は結衣香の顔を見た。

 結衣香はニカっと笑った。


「ヨッシー先輩本当に性格悪いですよね」


「そうか? 助けに来てやったんだけどな」


「誰が信じますか」


「ひでえなぁ、なんで信じないんだよ」


「今までの僕に対する所業を考えればそんなの決まってるじゃないですか。自分の手を胸に当てて良く考えて下さいよ」


 バツが悪くなったのか、いきなり話題を変える真島課長。


「あれ、よく見たら総務の立花さんじゃない。何やってるの? こんなところで」


「……どうも」


 真島課長の前では立花美瑠は借りて来た猫のようだった。


「真島課長、私たち先輩の彼女さんを見学しに来たんですよ」


「えっ、マジかよ? お前ら性格悪くないか?」


「尾上センパイのおごりなんで来ちゃいました」


「立花さん、そんなこといつ決まったの」


 こいつ、全く油断も隙もありゃしない。


「おい、悟。そんな渋いこと言ってないでおごってやれ? こういうのはちゃんと後になって返ってくるんだぞ?」


「ヨッシー先輩がそこまで言うなら……」


「やったー! お前太っ腹な! じゃありおんちゃん、俺山崎のウィスキー水割りお願いしていいかな」


 どさくさに紛れて真島課長までオレにたかるつもりじゃ……」


 やっぱりそうだった。


「はーい、皆さんお飲み物は来ましたね? 改めて乾杯しましょう!」


「カンパーイ‼」


 りおんちゃんのほかには、腐れ縁同級生のクレアこと姉小路、あすか、そして沙織の合計4名。

 こちらも4名だから店が少し配慮してくれたのかも。

 でも、ずっとここにいるわけではないのは勿論分かっている。

 

 真島課長が耳打ちをしてきた。


「おい、大丈夫なのかよ?」


「大丈夫、じゃないですね」


「なんでこうなった?」


「立花美瑠を結衣香ととっちめてやってたはずなのに、いつの間にかこう言うことになってました」


「で、結衣香とりおんはなんか話したのか?」


「立花がりおんちゃんのせいで、結衣香は僕に振られたんだって言いやがって」


 「ねえねえ、そこ、何ヒソヒソ話してんの?」


 いきなりクレア姉小路が割り込んできた。


「いや、その」


「いや、そのじゃねえって。あの狐顔の娘、尾上のこと好きだったんだって?」


「まあ。僕も今日知ったんだけどさ」


「それで何自分の彼女のところに連れてきてんだよ? 頭おかしくね?」


 クレアにそういわれるまでもなくこれはおかしな状況だが僕のせいではない。


 連れてきたのではなく、僕が連れてこられたのだ。


「ねえ、姉小路。彼女って、何をきっかけに彼女って言えるんだろうな」


「お前何いってんだよ。お互いが好きだったらそれでカップルじゃん」


「そうなんだろうけどさ、そういえば僕、この人真島課長に勝手にバラされただけでちゃんと言ってなかったんだよな」


 大きく目を見開いて唖然とするクレア。


「お前、バッカじゃね?」


 そう言うと馬鹿笑いを始めた。


「クレアさん、どうしたんですか?」


 りおんちゃんが心配顔で聞いた。


「こいつ、りおんにちゃんと好きだって言ってないって本当かよ?」


 りおんちゃん、いきなり難しい顔をし始めてしまった。


 凍り付く僕。


 ニヤニヤして傍観する真島課長。


 結衣香は、やはりというか、怒り顔だった。

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