第30話 りおんと結衣香直接対決!

「こんばんはー」


「あら、悟さん。今日も来てくださったんですね」


 アーチーズを出るときに、結衣香が麻衣さんに「後で来てね」と言って、ここ「堕天使」の場所をスマートフォンに送っていた。


 今日も僕の運勢は悪いみたいだ。

 東堂さんの笑顔だけが救いだよ……


「今日は女性の方が……一緒なんですね?」


「何も聞かないでください」


 僕は棒読みして言った。


「はい、わかりました」


 東堂さんはそう言ったものの不満に見えた。


 ひょっとして僕のためにヤキモチを焼いてる?


「へー、この人が尾上悟のいい人?」


 立花美瑠はド直球を投げつけてくる。


「美瑠、呼び捨てにするなってさっき言ったよな」


 また同じことで立花美瑠をたしなめる結衣香。


「はーい。ごめんなさーい。でも今更尾上さんとか悟さんとか言いたくないなー」


「いいから敬語を使えっていうの」

 

 東堂さん、いやここではりおんちゃんが結衣香と立花美瑠に聞いた。


「お二人は、キャバクラこういう店にいらっしゃったのは初めてですか?」


「はい、初めてでーす」


 生意気そうな返答をする立花美瑠。


「僕も初めてだな」


「わあ、『僕』っていう一人称使う女の方、あこがれちゃうんですよ!お名前をお伺いしても?」


 りおんちゃんは結衣香にちょっと興味を持ったみたいだ。


「結衣香。汐留結衣香っていいます。いつも先輩がお世話になってます」


 結衣香は表情が硬い。


「結衣香さん、っていうんですね。私はりおんです。ご来店ありがとうございます! そしてこちらの方は……」


「美瑠でーす」


「おい、美瑠」


「はぁい」


 りおんちゃんが僕の耳元でささやく。


(あの、お二人ともお機嫌が悪いみたいなんですけど、大丈夫ですか?)


(あまり、気にしないで。事情は後で電話で話すよ)


(はい。わかりました)


「想像していたのとは違って、キャバクラってなんか楽しそうですね」


「お前どんな想像してたの?」


「いや、そのもっとエロいことするスケベ親父とか居てとか」


「そりゃそう云うお客さんだっていると思うけどさ」


「先輩はこういう所好きなんですか?」


 この質問には困った。

 

 正解は「嫌いじゃないけど得意じゃない」なんだ。


「真島課長みたいに熱心じゃない、とだけ言っておく」


「えー、そうなんですかぁ?」


 結衣香がそう言うと、


「えー、そうなんですかぁ?」


 と、りおんちゃんも被せて来た。


「りおんちゃんまでいじめないでよ!」

 

「きひひひ、もっと困れ。尾上悟」


 多分前世では僕と立花美瑠は絶対に殺しあってると直感した。


「このサバトどもが!」


「何? サバトって?」


「中世の『魔女』のことだよ」


「先輩ひどーい」


 立花美瑠まで僕の事を「先輩」と呼ぶことにしたようだ。 


「おまえがいうか?」


「まあまあ、せっかくですから皆さんで乾杯しましょう」


 そう言ってボーイさんに注文を取ってもらい、飲み物が運ばれてきた。


「それじゃ、カンパーイ」

 

「あれ、りおんちゃん何飲んでるのそれ?」


「これですか? カシスオレンジですよ」


「りおんちゃんは顔が可愛いだけじゃなくて、飲むものも可愛いんだね」


「結衣香さん、そんなぁ」


「うんうん、まじで。僕が認めるとかそんなのはおかしいけど、りおんちゃんと先輩が上手くいくように祈ってるよ」


「えっ、結衣香さんはその事をご存じ……だったんですか?」


「えへっ、まあ、そうだね」  


 結衣香が照れ隠しをしていると


「よりによって、尾上先輩は私の大切な結衣香先輩を振ったわけ。あなたに取られて」


「おい、やめてくれよ」


「私が原因でですか?」


 困り顔のりおんちゃんを見るのが辛い。


「違う違う、僕が一方的に片思いしてただけ」


 そう言って結衣香は遠い目をした。

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