第29話 結衣香の同級生
僕と結衣香、そして立花美瑠はスターバックスからそのままカフェレストラン「アーチーズ」へ場所を移した。
そう、東堂さんと会うはずだったあの店だ。
「わー、おしゃれじゃないですかぁ」
立花はアメリカンチックな外観に目を輝かせながら感心していた。
「美瑠、お前が『居酒屋なんて私行きたくない』とか言うから先輩に無理言ってお洒落なお店を探してもらったんだぞ。感謝しろ?」
結衣香はワガママ放題の立花を嗜めた。
「いやいや、たまたまここを知ってたし、良かったよ」
「でも先輩」
「まあ、入ろうよ」
そう言って入り口のドアを押し開けると、この間の感じの良い女性スタップが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ! あれ? 結衣香じゃない?」
「えっ、えっ? もしかして麻衣? ちょー久しぶりじゃん! なにアンタここで働いてんの?」
「ここじゃなんだから、こちらへどうぞ」
麻衣さん、っていうのか、この人。そして結衣香の友達とはね。
僕の頭の中で「イッツ・ア・スモール・ワールド」の『せーかいはせーまいー』の部分がリフレインしていた。
僕ら三人はカウンターに通された。
ここだったら麻衣さんは少し話せるからのようだ。
たしかに四人がけの席で話し込むのはどう考えてもダメだよね。
「結衣香、アンタどこに就職したんだっけ?」
「関東テクノスっていう半導体ウエハーの会社だけど、知ってる?」
「ごめーん、アタシそう言うの弱くて」
「じゃあ聞くなよ(笑)」
「で、この方達は会社の方?」
「そうでーす」
立花美瑠は軽い感じで答えた。
「コイツ、大学の後輩だぜ?」
「あー、だからかな。なんか見たことがある気がしてたんだ。名前はなんていうんですか?」
「立花……美瑠です」
立花の表情が少しおかしい。
「で、こちらの方はこの間来てくださいましたよね?」
「あ、はい。その節はどうも」
「せんぱーい? その節ってなんですか」
今日の星占いは「獅子座に注意」だ。マジで地獄か。
「いや、その、人を待ってて」
「人って? 彼女さん?」
結衣香はグイグイ来やがる。
「そうだよ」
少しぶっきらぼうに答えた。
「ところで、その、麻衣……さんと結衣香は学生時代の友達なんですか?」
「そうですよ! まあそんなに親しいってことでもなかったかな。麻衣はいつも他の子とつるんでたしね」
「そうだっけ? もうそんな昔のことは忘れたよ」
「麻衣さん、四番さんご注文みたいだけど」
結衣香と麻衣さんが話し込んでるのを嗜めるようにカウンターに入っていた男の子、――大学生かな?――
「ごめんね、ちょっと混んできたから。また後でね!」
麻衣さんは注文をとって帰ってきた。
「店長! 四番さんチキンピカタのセット、ワン、コウスケくん、カシスオレンジ、ワンお願い」
厨房とカウンターの中から、同時にオーダーを復唱する声が聞こえた。
その後も、ひっきりなしに麻衣さんは客に呼ばれてテーブルと厨房を往復。なかなか僕たちのいるカウンターには戻ってこれなかった。
目配せして、「ごめんね」の合図を送ってくる麻衣さん。
「これだけお客さんが入ってるのに、他のホールスタッフの人はいないみたいだね」
忙しいのは麻衣さんしかホールにいないからだ。
そんな事を考えていると、
「す、遅れてすみません!」
と言って爽やかそうな青年がギャルソン・エプロンを巻きながらやって来た。
「もーっ、唯人くん遅いよー」
バイトの男の子が遅刻したみたいだった。
麻衣さんは膨れっ面だ。
「すみません、なかなか研究発表が終わらなくて」
「許してあげるけど、店が捌けたら付き合ってもらうからね?」
その唯人くんの顔が少し赤らんだのを僕たちは見逃さなかった。
「あらあら、麻衣ぃ?」
ニヤニヤしながら結衣香が麻衣さんに話しかけると、
「そんなんじゃないわよ!」
と麻衣さんは慌てて否定をする。
「ゆっくり話を聞かせてもらおうかしらね」
結衣香は僕や立花美瑠をそっちのけで麻衣さんを今夜のターゲットを絞ったようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます