第16話 真島課長の話が衝撃的すぎて
真島課長の話は、とにかく衝撃的だった。
「そ、それマジで言ってるんですか? ヨッシー先輩?」
「ああ、本当だよ」
「昨日、『今のお前には必要のない情報だ』って言ってた意味が分かりました」
真島課長が言うには、結衣香は僕の事がずっと好きだった。
あれだけ僕の事を動きがキモいとか言っていたのに。
「なぜヨッシー先輩がそれを?」
「一昨年の『オフサイトミーティング』だよ。水野に告られて振った後、アイツ一人でロビーの片隅でに泣いていたんだ。そこにたまたま煙草を買いに来たのが俺、ってわけ。ボロボロ泣きながら新人の頃から面倒を見てくれたお前に感謝しているし、好きでたまらないって」
「ちょっとびっくりです」
「お前はさ、少しそういう所が鈍すぎるよ」
「はぁ……そうなんですか。でもアイツ僕に対する態度が余りにもガサツで冷たいし、そんなこと感じたこともないですよ」
そうは言ってみたけど、思い当たる節がないわけではない。
結衣香が夜遅くまで残業して何をしているかと言えば僕の営業で使う資料とか、実績の分析などを頼みもしないのにやってくれているのだ。
ヨッシー先輩は、その理由は水野にあると思っているみたいだ。
「それは水野の事を考えての事じゃないかと思う。例えば結衣香がお前にだけ優しくしたとするだろう? または付き合い始めるとする。そしたら水野はどういう行動に出るか想像できるか?」
ハッとした。
確かに水野はチャラ男だけど、根はいい奴だ。そしてかなり繊細だ。
「ひょっとすると会社辞めてしまうかも……ですね」
「それはちょっと極端だけど、その可能性だってあり得るよな」
「ええ。そうですね」
「だからお前にもああいう馬鹿にしたような態度をとることで水野が卑屈にならないように気を遣ってるんだろうと思うぜ」
今日は昨日の居酒屋が混んでいて、二人並んでカウンター席で並んで話している。
こんな話題にはなんとなく合っているシチュエーションだ。
「でも、僕に好きな人ができてしまったから、匿名制度を利用して結衣香が自作自演で僕を告発したって事ですかね?」
僕がそう言うとヨッシー先輩は『痛い』という顔をした。
「スマン。結衣香と水野の前でつい口が滑った。俺のミスだ。結衣香はその時無表情だったが」
「あいつ、そういう所はぐっとこらえるんですよ。客先で怒られてもなるべく感情を出さないように謝ったり」
ヨッシー先輩は五秒くらい沈黙を守った。
「なあ、悟」
そしてそんな風に改まられると少し怖い感じがする。
「なんでしょうか」
「お前、東堂さんって子の事は諦めて結衣香と付き合ったらいいんじゃないか?」
僕は咄嗟に答えることができず、数秒間の間で結衣香のとの数年を思い返していた。
新人研修を終えて営業三課に初めて配属されてきた時のこと。
結衣香は今とは違い初々しかった。
僕の事を悟先輩と呼んでどこに行くにもくっ付いてきたっけ。
とんでもないミスをやらかして凹みまくっていると思えば、僕では思いもつかないようなアイディアを会議で披露して実際それが上手くいって業績を上げたりと僕にとって結衣香はびっくり箱みたいな存在だった。
五年前、僕が付き合い始めた元カノに浮気されて落ち込んでいた時に吐くほど飲んだ僕を介抱してくれたのは結衣香だった。
ずっと、僕の事を見ていてくれたのか。結衣香は……。
二人の間に沈黙が続いたが、それを破ったのは先輩だった。
「まあ、オレが言ったことは忘れろ。悪かった。お前の恋路を邪魔する権利は俺にはないよな」
「いえ、そんなこと……」
「じゃあ、本命さんに『堕天使』に会いに行こうぜ?」
はっ? えっ? ちょっと待って。先輩は今なんて?
「えっ?」
「『え?』じゃねえよ。『堕天使』に東堂暁子に会いに行くんだよ」
「先輩、今日全部分かってて」
「ああ。昨日お前が俺を捲いて行った店、りおんの好きな店だ。俺も行ったことがあるぞ」
「やっぱり。先輩は僕を監視してたんですね」
「ははっ。そして今日の事だ。マジで驚いたぜ。部下の好きになった女が俺のお気に入りとは恐れ入ったぜ」
「今朝なんで誤魔化したんですか?」
「うーん、わかんねえ。俺にも下らんプライドがあってさ」
「なんかすみません」
「俺は不純な動機でりおんを追っかけてたんだ。気にするな。『譲る』っていう言い方は相応しくないよな。でも俺はお前とりおん、いや東堂さんと上手くいってほしいと思うよ」
「先輩……」
「頑張れ」
結衣香の存在が、いきなり大きくなってきてしまい、僕は思いもしなかった展開に頭の中が上手く整理できなかった。
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