第14話 悪目立ちしてる僕

 真島課長には社員食堂での僕、結衣香、水野の三人の間の会話を可能な限り再現して見せた。


「うーん、聞く限りでは何が問題なのかオレにはわからんし、お前たちに限ってそんな事になるとはオレも思わないよ」


「ですよね、真島課長もそう信じてくれますよね?」


「ああ。もちろんだ。とにかく身の潔白を主張してこい」


 そう言って真島課長に送り出され、僕は人事部の会議室へ赴き人事部長とセクハラ防止担当の女性社員二名から僕は事情聴取を受けた。

 女性社員は各社員のキャリア担当である僕の一つ上の先輩、桜城さんだった。


 改めて訴えが何だったのかを聞くと、第三者の社員が今日の昼食時に僕、水野、結衣香の三人が交わしていた会話がセクハラに当たるとの指摘だったらしい。


「お前はハゲる病気か?」


 がそれにあたるとの指摘、しかしこれは「いちいち暴言を吐かないと」が省略された切り取りで、何か悪意のようなものを感じる。


 結衣香もこの件で聴取を受けたが、事実とは違うと証言してくれたらしく、その旨桜城さんから説明を受けた。人事から僕に対する疑いは一応晴れてはいたが、形式上本人に対する聴取は記録として残すため、せざるを得ないとのことだった。


「尾上くん、気を付けるんだよ。あなたは今、良い意味で方で目立ってしまっているから、こうやって匿名制度を濫用して君の足を引っ張ろうとする輩は一定数いるわ」


「桜城さん、課長からそう言われたときは眼前が真っ白になりましたよ。とにかくやった覚えがない事を『やった』とされることはとても恐怖でした」


「そうね。仲のいい後輩であっても、お互いに言葉選びは慎重にしないと」


 お互いに、っていう事は結衣香の僕に対する罵詈雑言も桜城さんはご存じなわけか。

 アイツは直ぐに「キモい」と誰にでも大声で言うからな。

 それを知っていて仲がいいっていうのはどういう了見なんだろう。


「仲がいい、っていうのはどうですかね」


「あら、あなたたち付き合ってるんじゃないの?」

 

「さ、桜城くん?」


 人事のキャリア担当である桜木さんがそんな事をさらっと言うのには腰を抜かしそうになった。

 人事部長である黒崎さんが慌てるのも他ない。


「付き合ってなんてないですよ! なんでそうなるんですか! 僕の方こそ汐留にはいつもパワハラまがいの酷いことを言われているんですよ?」


「あちゃー、そうなんだ。女子社員の中ではそういう事になってるわよ」


「桜城さんのような立場の人がそんなデマを信じたらだめですって」


「そうね。分かったわ。では、黒崎部長、本件お咎めなしという事でよろしいですね?」


「そうだな。尾上、桜城君の言うように、汐留くんとの間の会話は十分気を付けるようにな?」

 

「分かりました。今回の件、本当に部長にも桜城さんにもお手数をおかけしてしまって申し訳ありません。今後は十分気を付けますので」


「よし、それではこの件は以上だ」


 そう言うと黒崎部長と桜城さんは僕を会議室から先に出るよう促して、事後の打ち合わせをすると言って残った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「悟、お疲れ様だったな。疑いは、晴れたか?」


 僕がデスクに戻るや否やまた真島課長に先ほどの小会議室に呼び出された。


「黒崎部長と桜城さんはお咎めなしだと言ってました」


「なんでそんな事に?」


「桜城さんが言うには、僕の事を妬んだりする社員がいてもおかしくないって」


「なるほど。密告の仕組みも考え物だな」


「それと……」


「それと、なんだ?」


「女子社員の間の噂では、僕は結衣香と付き合ってることになってるって」


 僕は、咄嗟に真島課長が一瞬視線を僕から外したのを見逃さなかった。


「真島課長、何か知ってるでしょう?」


 僕がそう追及すると、


「ああ、分かった分かった、それじゃ今晩も付き合え。昨日はヴーヴクリコごちそうになっちまったしな。今日はきちんとオレがおごるから」


「なんでそうなるんですか(笑)!」


「いいだろ? 付き合えって」


「仕方ないですね、ちゃんと話してくださいよ?」


 何故か僕らは二日連続で「堕天使」に行くことになった。


 東堂さんとまた会えるのだろうか。


 会ったとしてどんな顔をしたらいいのかな。

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