第7話 明日どうしよう?
真島課長に勝手に僕の気持ちを東堂さんに開陳されて落ち込んだので、真島課長は、
「なんだよ、悟、おまえ本当に今日はシラさせるよな?」
といって、堕天使での時間を一時間で切り上げた。
東堂さんと沙織がエレベーターまで見送ってくれた。
もっとも、沙織はアフターの当てが外れて文句言いたげな顔だったけど。
東堂さんは僕とは正反対に、やけにウキウキした顔をしている。
「りおん、何かいいことでもあったか?」
真島課長は酔っててもこういう人の表情の変化に敏感らしい。
「ええ、何でもないですよ。今日はヴーヴクリコを尾上さんに開けてもらったし、ちょっと成績にプラスになったかなって」
「おい、悟、聞いたか⁉ りおんちゃん喜んでるぞ! お前も何があったか知らんがその仏頂面を早く直せよまったく」
沙織が余計なことで口を挟んだ。
「悟さん、私が癒してあげるからもう少し遊んでいきましょうよ」
鈍感な僕でも、沙織に狙われていることくらいは分かる。
東堂さんは沙織に方を向いて、
「沙織さん、アフターはお客様が快く受けてくださらない限りだめだよって店長に言われてるじゃないですか」
「そうだけどさー」
東堂さんはこの滞留した空気を嫌がって会話を切った。
「じゃあ真島さん、また来てくださいね。尾上さんもまた」
「りおんちゃん、今度は同伴よろしく」
「私、他の勤めもあるから同伴は無理かな」
「じゃあ、アフターでもいいけど。なんなら今日は?」
「だめー。明日は大切な会議があるから早番です」
こういう時の真島課長は子供じみていて本当に見ているのが恥ずかしくなる。
「そんなこと言うなよー。りおん、いつになったら俺に心開いてくれるんだよー」
「りおんは、みんなのりおんだから」
田中み〇実ですか。東堂さん。
「はいはい、エレベーター来ましたよ? 乗らないと他のお客様に迷惑ですって」
東堂さんは嫌がる真島さんをエレベーターに押し込めた。
「いつもありがとうございまーす! またのご来店をお待ちしております」
と、ニコやかに会釈をしたところでエレベーターの扉は閉まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「悟、どうした」
「いや、どうもないですよ。ちょっと疲れてたのかな」
僕は嘘をつくしかなかった。
僕はふと我に返った。
明日十時に、岩田電産の吉永部長に謝罪に行く……んだったよな。
それで、そこに東堂さんが同席するんだったよな。
そして、真島課長はその謝罪に同行するって言ってたよね。
もし連れて行ったら、りおんちゃん=東堂さんが分かり、僕が好きになった人が東堂さん=りおんちゃんだって真島課長が理解したら、詰んだんじゃないの? 僕。
だからと云って同行を断ったりしたらそれこそ勘のいい真島課長のことだ。
どんな詮索をされるかわかったもんじゃない。
やばいやばいやばい。
そうだ! 東堂さんの会社の携帯に電話して、
「明日は悪いけど同席するのは止めてもらえないかな?」
と言ったらどうだろうか。
いやいやいや、それはそれで東堂さんが吉永部長に説明がつかなくなるよな。
僕の視線は宙を彷徨い、視点が合わなくなっていたのだろう、真島課長が、
「おい、明日も岩田電産に行くんだろ? 今晩は付き合わせてて悪かったな。 早く帰って寝たほうがいいぞ」
今更遅いわ! でも妙案も思いつくわけでもない。
僕は駅の改札を入って、真島課長とは反対のホームに昇るため、辞去した。
「それでは、また明日よろしくお願いします」
「ああ、気を付けてな。早く寝ろよ」
「そうします。ヨッシー先輩、おやすみなさい」
エスカレーターでホームまで昇ることにした。
いつもはエスカレーターの階段を昇るが、今日は気分に優れなかったから、そのまま止まっていた。
おっ、電話か。
ポケットに入れていた社用のiPhoneが振動したので取り出して表示を見た。
――東堂さんだった。
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