第9話 彼の隣で……

ある日の事、いつもの所に飲みに寄ろうとした時の事だった。




ズキン…



私の胸の奥が痛む。




「…高希…君…女の人と…一緒」




私は、その光景が目に焼き付き、そこを去る。



「あれ…?憐花さん?」



私に気付く高希君の姿があった。

そんな事など知るよしもなく。




「ん?何?どうかした?」

「あ、いいえ…ちょっと友人の女性に似ていたので」

「もしかして…例の彼女?」

「えっ?あ…はい…」

「そうか。私も結婚していなかったら高希君にアピールしていたかもな〜」


「先輩!」

「アハハ…。嘘、嘘。冗談よ」




二人は上司と部下の関係だったなんて知るよしもなく、私はショックを受けていた。




数日後。




「憐花…大丈夫…?飲み過ぎだよ」

「あれ…?衣千子さん?」


「あれ?高希君?もしかして憐花と待ち合わせでもしていた?」


「いいえ。一緒にいる所を見かけたので寄りました」


「そう?」


「はい。ていうか…憐花さん…かなりの酔いですね?何かあったんですか?」


「…うん…ちょっとね…」


「憐花さん、大丈夫ですか?」


「……あっれぇ〜……高希君…今日は〜〜ひっとりぃ〜〜?」


「今日はって…いつも一人ですよ」


「うっそだぁ〜〜……この前、女の人といたじゃ〜〜ん……あっ…」



「………………」



「憐花さん…やっぱり…あの…それに関しては…」


「ごめんっ!衣千子、私、帰る!」



私は高希君の言葉を遮るように言う。



「えっ!?ちょ、ちょっと憐花っ!」


「憐花さんっ!」


「衣千子、付き合わせてごめん…」

「憐花さんっ!待って下さいっ!」



私は店を足早に飛び出した。


私の後を追う高希君。




グイッと私の腕を掴み引き止めた。




「彼女は誤解です!上司なだけで別に何の関係もありません」




「………………」



掴まれた腕をゆっくりと離していく高希君。




「彼女は結婚してるし、仕事の事で、お礼にご馳走して下さったんです」


「へぇ〜…結婚…してるんだ…。それで二人きりで会うなんてヤバいんじゃないの?しかもお酒の席ってさどうなのかな?」



「………………」



「…憐花さん…」

「ごめんっ!じゃあね!」




グイッと引き止め背後から抱きしめた。




ドキン…


胸が大きく跳ねる。


嫉妬心がありなからも、心の中は正直だ。





「憐花さん、これだけは言わせて下さい」



「………………」



「俺は…誰よりもあなたが気になります」





ドキン


私を振り向かせるとキスをした。




「…それでも…信じてくれないなら…良いです…」




そう言うと私の前から去り始める。






『待って!』



その一言が


言えなかった………




本当は


呼び止めたかった………





――― だけど ―――





出来なかった………







私達の距離が


離れた瞬間だった………




そして


少しずつ


離れて行く距離が


私達の


縮まっていたはずの


距離感も


心も


離れていっているような


気がした…………






























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