第4話 彼の過去

 ある日の仕事帰り。



「あれ?憐花さん?」

「あれ?高希君。誰かと待ち合わせ?」

「いいえ。憐花さんは…お一人ですか?」

「あ、うん…。だって衣千子は瀏遠君とラブラブだし。私は邪魔でしょう?だから一人で飲んでるの」


「俺を呼んでくれれば良かったのに」

「…それは…まあ…」


「年下だから俺と飲むの抵抗あるんだ。じゃあ、もしキスしたくなったらどうするんですか?お持ち帰りされますよ?」


「酔っ払う前に辞めます!」

「お酒の怖さを知らないから」

「大丈夫だってば!第一、25歳が21歳の若い男と飲むなんて出来ません!」




私の隣に腰をおろす高希君。



ポンと頭をされた。




ドキッ

胸が大きく跳ねる。



「4、5歳の差、気にしすぎじゃないですか?」

「4、5歳も違うから!」



「………………」



「本当…憐花さんは細かいですね」

「…そんなの…」



私達は、隣同士で飲む事にした。




「憐花さんって、どういう男性なら良いんですか?」


「えっ?」


「だって年下が駄目なら年上か、同年代に限られて来る訳じゃないですか?」


「それは…まあ…そうなるけど…。えっ?でも高希君が気にする事でもないよね?だって私の事だし」


「コミュニケーションですよ!深い意味はありません!理想のタイプとか聞く位良くないですか?」


「えっ?理想のタイプ?」


「はい!」


「理想のタイプ…ねぇ…」


「まさか!ないんですか!?年下以外なら受け入れるって事ですか?」


「そういうわけじゃないけど……。そうだなぁ〜優しい人かな?浮気は絶対しない人で結婚したら家庭を大事にしてくれて、家事、育児と協力してくれる人。お互い仕事していて大変かもしれないけど女性任せは嫌かな?」



「じゃあ、俺ピッタリですね!」


「えっ!?」


「どうですか?俺とお付き合い!」


「そのつもりで聞いたわけじゃないんでしょう?駄目だよ〜。私は年下は受け入れないから!年上をからかわないの!」




「……前の彼女も…同じ事…言っていたな…」


「えっ?」


「優しい人。浮気は絶対しない人。結婚したら家庭を大事にしてくれて家事、育児協力してくれる人……女性任せは嫌って…」


「そうだったんだ」


「はい。だけど…彼女は…幸せな家庭を築かないまま…他界しちゃったんですよね……」




遠くを見つめ淋しい表情を見せる高希君の姿。





トクン…


胸の奥が静かに切なくノックした。




《…嘘…?》

《それって……まさか…》




『愛した人がいなくなった事…考えた事ありますか…?愛した女性を失ってしまって…』




高希君の前の話をしていた言葉が脳裏を過る。



私は涙が零れ落ちそうになった。





「…憐花さん…?」




私は顔をそらした。



「…ごめん…私…まさか…そんな理由があったなんて思わなくて…」


「良いんですよ。憐花さん」


「…良くないよ…ごめん…私…何も知らなくて…帰るね…」



席を立つ私。


グイッと腕を掴む高希君。



ドキン

胸が大きく跳ねる。




「気にしなくて良いですよ。もう過去の事ですから」


「だけど!高希君はまだ心の奥に残っているんだよね?合コンしている理由も本当は恋をしたいけど出来なくて恋に踏み込めないんでしょう?」


「…それは…」


「…ごめん…私…」




私は店を後に帰る。







恋人の死を


自ら体験して


次の恋に踏み込めない


こんな経験をした時の


心の中の気持ちは


全然分からない



だけど――――



その痛みや苦しみが


分かってあげられたら……



そう思った瞬間だった










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