第104話:ルーカス陛下の誕生日パーティー 5
神官長にさっきの会話を教えると、目をパチパチと瞬かせて、それからゆっくり息を吐いて「なるほど」と呟いた。
それからリリィとロバートに対して話し掛ける。ディーンに、神官長のフォローをお願いして、わたしとバーナードは料理を取りに向かった。……今のダラム王国は帝国の領地になっているし、まぁ大丈夫だろう。
「いいのか、ディーンを置いて行って」
「さっき飲み物持って来てくれたからね、料理持っていこう。……そういえば、ディーンの好きな食べ物知らないや」
「食べられればなんでもいいと思うぞ。俺ら遠征慣れしているし」
「遠征慣れと料理の好みがどう関係あるのよ……」
美味しそうな料理を眺めながらそんな会話をしていると、周りからの視線を感じた。こっちに視線を刺さるくらい寄こすなら、話し掛けてくれればいいのに。そう思いつつも、話し掛けにくいのかもしれないな、とちょっと考えた。わたしが一通り見渡すと、みんな視線を逸らした。……なんというか、珍獣を見るように見ないで欲しい……。
「アクアさま、楽しんでいらっしゃいますか?」
「フィロメナ! ……あれ、旦那さんは?」
「録音した音楽を魔力で流しています」
フィロメナがいるのならと思って辺りを見渡したけど、探していた姿が見えなかったので尋ねてみた。……あの音楽、魔力で流しているのか……。ううん、よくわからない。
「どういうこと?」
「録音魔石に音楽を録音して、夫の魔力で再生しているんです」
「……そんなことも出来るんだ。音楽って生演奏しか知らなかった」
「生演奏には生演奏の、録音には録音の良さがありますわ」
ふふ、と笑うフィロメナに対して、バーナードは「そうだな」と同意のうなずきをしていた。
「フィロメナたちも呼ばれていたんだね」
「ええ。……伝えていませんでしたっけ?」
どうやら伝えていたつもりになっていたみたいだ。聞いていなかった……よね? 多分。そもそも、こんなにたくさんの人がいる中で会えるとは……。神さまも
「ああ、そろそろダンスが始まりますね」
「そうなの?」
「はい、音楽が変わりますよ」
フィロメナの言葉と同時に、音楽が変わった。……コボルト音楽隊の演奏って、日によってバラバラだから、たくさん録音してイメージに合うのを使っているのかなぁ? と考えていたら、プレゼントを受け取っていたルーカス陛下がなにかしたのか、一気に会場がざわざわと賑やかになった。
ルーカス陛下が真っ直ぐにこっちに向かって来ている。……今はダンスの時間。つまり……。
「アクア、一曲踊ってくれないか?」
やっぱり! わたしはちくちくと刺さる視線を感じつつ、手を差し伸べてきたルーカス陛下をじっと見て……その手を取った。
パーティー会場の中央に向かう。中央についたら、周りの灯りが消えて代わりにわたしたちにスポットライトが当たった。……絶対リハーサルしていただろ、これ……!
「ルーカス陛下、言っておきますけど、わたし……ダンス下手ですからね……!」
「大丈夫だ、私がリードする」
手を離してこそこそと話してから、改めてルーカス陛下の手を取り、肩に手を置く。ルーカス陛下もきゅっと手を握って、わたしの腰に手を回した。
そして、音楽に合わせるように身体が動き出す。ふわっとわたしのドレスが舞うように動く。……セシリーたち、こうなることを理解してこのドレスを選んでいた……?
貴族教育のひとつに確かにダンスはあったけど、まだ数回しかやったことがないのよね……。そんなわたしでも、驚くくらい踊れた。
きっとルーカス陛下のリードが良いのだろう。うーん、なんだか不思議な感じ。どのくらいふたりで踊っていたのかわからないくらい、わたしたちはパーティー会場の真ん中で踊っていた。
曲が終わるのと同時に、ステップも終わる。ちょっと息が上がってしまった気がするけれど、それよりもルーカス陛下と踊っていて『楽しい』と思った。
互いの顔を見て、微笑みながら踊る……なんてかなり高難易度なんだけど、ルーカス陛下のおかげできちんと最後まで踊れた。ひとりで練習していた時は躓いてばかりいたのに!
手を離して、わたしはカーテシー、ルーカス陛下は胸元に手を置いて頭を下げる。
わぁぁああっ、と歓声が聞こえた。周りを見渡すと、みんなわたしたちを見ていたようで、頬を赤らめる令嬢や、微笑みを浮かべている人たちが視界に飛び込んできた。
「――楽しかったか?」
「……はい、ルーカス兄さまのおかげで」
「それは良かった」
ふわっと優しそうにルーカス陛下。その笑みを見た人たちが「ルーカス陛下が、微笑んだ……!」や、「あの子は一体……?」などと話しているのが聞こえた。
……あ、もしかして、この流れは……。ちょっと冷や汗が出てきた気がする。
「……皆に、紹介しよう」
デスヨネーっ! 知ってた! こうなると思ってた!
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