第103話:ルーカス陛下の誕生日パーティー 4

 わたしがぼんやりとそんなことを考えていると、ディーンが戻ってきた。器用に三つのグラスを持って。それをわたしとバーナードに渡した。


「これはジュース?」

「ぶどうジュース。美味しいよ」

「ありがとう」


 くぴっとひと口飲むと、思ったよりも喉が渇いていたみたいで、そして本当に甘酸っぱくて美味しいジュースだったから、半分くらい一気に飲んだ。


「美味しい」

「口に合ったようならなにより」


 ちらりと料理が置いてある場所へ視線を向けると、いろいろな人たちが集まっていた。その人たちもグラスを持っていたりしたりして、楽しそうに談笑していた。同じ赤い飲み物だけど、多分あっちはワインね。


「お酒はもう少し大きくなってからね」

「ディーンは保護者かな?」

「似たようなもんじゃね?」


 バーナードが肩をすくめてからジュースを飲んだ。ディーンも。わたしたちは邪魔にならないように壁の近くに移動する。

 ルーカス陛下の元には続々とプレゼントが届いている。ルーカス陛下はそのプレゼントに視線を向けて、それから贈り主に対して一言二言言葉を掛けていたように見えた。その様子を眺めていると、「アクアさま」と声を掛けられた。声の方向に顔を向けると、聖職者のローブを着たリリィが「ごきげんよう」と挨拶をしてくれた。


「ごきげんよう! 来ていたんだ。教えてくれても良かったのに」

「驚かせようと思いまして。今日は同僚と来ましたの、同じ神殿で暮らしている『聖者』のひとりです」


 そういって、すっと身体を横に移動した。後ろに立っていた、リリィと同じ聖職者のローブを着ていた人が一歩前に出て、わたしの前で恭しく頭を下げた。……というか、わたしよりも小さい。十歳くらいの子っぽく見える。


「は、初めまして。ロバートと申します」


 頭を上げて、緊張しているのか硬い声色で挨拶をしたロバート。わたしはカーテシーをしてから言葉を掛けた。


「初めまして。わたしはアクアよ。アクア・ルックス。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……!」


 目をキラキラさせてわたしを見ているんだけど、どうしたのだろう? と説明を求めるようにリリィに視線を向けると、リリィはにこにこ笑っていた。


「ロバートはステラさまのファンなのです」

「この子とステラになにか繋がりが?」

「ありません。ただ、ステラさまの肖像画を見て一目惚れをしたとか……」


 こそこそと耳打ちで教えてくれたけど、内容が内容だった。……一体ステラの肖像画ってどんな風に描かれていたのだろう、そこにが気になって来た。


「アクアさまは、ステラさまのお孫さん、なんですよね」

「そうなるみたい」

「……神力しんりょくもステラさま並みだと耳にしました」

「そこら辺はちょっと、自分ではわかんないなぁ」


 神力を比べたこともないし、比べようとも思わない。自分が使える神力で、出来ることをやればいいと思う。


「えっと、身体が軽くなったので、お礼を言いたくて……」

「……ああ。なるほど。気にしなくてもいいのよ。わたしが勝手にしたことなんだし」


 ……まさか帝都全体の浄化になるとは思わなかったしね……。それはいわないでおこう、うん。


「それでも、アクアさまのおかげで助かったので……。ありがとうございました」


 律儀にぺこりと頭を下げるロバートに、わたしはぽんぽんと肩を叩いた。労うようにそうすると、ロバートが顔を上げる。目の輝きが増しているような気がする。


「ロバートはまだ一年くらいしか神殿で過ごしていないから、浄化がうまく出来ないみたいで……」


 リリィが補足をくれた。そっか、始めて間もないから浄化がうまくいっていなかったのか。……こればかりはなぁ……。


「……帝都の神殿では、どうやって浄化しているの?」

「瘴気を感じる場所に赴き、その身に瘴気を蓄えてから神殿に戻り、ゆっくりと浄化させていきます」

「……それはまた……。ええと、ちょっと待ってね。そういうのに詳しい人連れて来るから! そこで待っていて」


 わたしはそういうと歩き出した。きょろきょろと辺りを見渡して、神官長の姿を探す。神官長の姿を見つけて駆け寄ろうとして、バランスを崩した。そうだ、ハイヒールを履いていたんだった! ハイヒールで駆け寄るのはやめよう、そう心に決めて魔法を使おうとしたけど、その前にバーナードに腕を引かれた。ぽす、っと彼の胸に当たった。


「ありがとう!」

「自分の格好に気を配れ」

「はぁい」


 改めて、今度はゆっくりと歩き出した。目的の人の元に行くと、神官長は「どうしました?」と尋ねてきたので、「ちょっと教えて欲しいことがあるので、こっちに来てください」と誘った。神官長はカルヴィンさまに「少し話してきます」と声を掛けてからついて来てくれた。

 リリィとロバートのところに戻ると、神官長を見て首を傾げた。


「こちらの方は……?」

「浄化の仕方を教えて欲しいのです」

「……はい?」


 神官長はわたしと、聖職者のローブを着ているふたりに視線を向けて、心底わからないとばかりに首を傾げた。

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