第42話
ノースモア公爵家の人たちがそれに触れなかったのは、優しさだったのか、面倒ごとに巻き込まれると思ったからなのか……。
「リネットさまだという確証はあるのでしょうな?」
「リネットの魔力と一致した」
「……なんと」
老人のひとりが恐る恐るというように声を震わせて尋ねた。ルーカス陛下の言葉に、全員が目を大きく見開く。そんなにわたしが生きていたら不思議なのか。それにしても空気が張り詰めていてつらい。こういう雰囲気苦手なのよね……。
「……そういえば、屋敷に行ってみたのだろう? どうだった?」
「屋敷? ああ……、あそこすごく良いですね! 瘴気が一切ない場所でした。澄んだ空気っていうのはとっても! 良いです!」
ぐっと拳を握って力説すると、ルーカス陛下は満足そうにうなずいた。そしてわたしの話を聞いて、びっくりしたような表情を浮かべる老人たち。
「屋敷でなにか聞こえなかったか?」
「門に触れた時に『おかえりなさい』って声が聞こえました」
そうだろうな、とルーカス陛下が呟く。そういえば、ディーンもその後にわたしが大聖女ステラの孫だと確信したような……。帝国の魔法の技術がすごい。
「……リネットさまが、生きておられた……」
「しかしもう、ルーカス陛下が玉座に座っている」
「……あの、わたし玉座に興味ありませんから……」
わたしの一番の目的は、平和に暮らすことなんだけど。……なんかそんなことを言い出せる雰囲気ではないような……。王族の血が流れているのって、かなり問題なのでは……? そんなことを考えていると、ルーカス陛下がすっとわたしの手を握った。驚いてルーカス陛下に視線を向けると、彼は真っ直ぐに老人たちを見据えて、
「リネットは『アクア・ルックス』として生きる。私が許可した。文句はあるまい?」
……この人、本当に堂々としているよな……。魔物を薙ぎ払った時も思ったけれど、こういう自分に自信があるのは玉座に座っているから、ってわけではなさそうだ。文句は絶対に聞かないぞっていう固い意志を感じる。老人たちはそれを悟ったのか、諦めたように深々と息を吐いた。
「……まぁ、リネットさまなら……」
「政治の邪魔をしないで頂ければ……」
邪魔するつもりないから放っておいてくれないかなぁ……。と考えていると、ルーカス陛下がディーンとバーナードの名を呼んだ。
ふたりはそれぞれ返事をして、ルーカス陛下の言葉を待つ。
「アクアの護衛に任ずる。彼女を守れ」
「なっ! き、騎士団はどうするのですか!」
「別の人間を雇えば良かろう。アクア、なにかあったらこのふたりを頼りなさい。もちろん、私でも良いが……」
「あ、ありがとうございます……?」
疑問系になってしまった。わたしがなにかするまでもなく、ディーンとバーナードがわたしの護衛決定になってしまった。ふたりは本当にそれで良いのかな、と不安に思いふたりを見ると、どこか吹っ切れたように微笑んでいた。……貴族のわだかまりかなにかあったのかもしれない。
「正式に任ずるにはまだ時間があるが、その前に騎士団に声は掛けておく。……ああ、それともディーンの隊全員をアクアにつけるか?」
「それはとてもありがたいですね」
ぎょっとしたのはわたしだけではないようだ。老人たちが「なっ!」と声を上げた。わたしも声を上げたかった! だって、ディーンの隊ってあれでしょ、魔物討伐するくらいの実力者が揃っているんでしょ!
そんな人たちをわたしにつけちゃあ、って言葉を掛けようとしたけれど、ルーカス陛下の強い眼差しで口を閉ざす。
「ディーンの隊を向かわせたのは、お前たちらしいな?」
もしかして、ルーカス陛下とこの人たちって……仲が悪いの?
「アクアがいなかったら、ディーンはこの世にいなかったのかもしれないのだぞ」
ディーンの傷は確かに酷かった。……ディーンのことも大事に思っているのね。ルーカス陛下は身内に優しいということなのか、ただ単にこの老人たちが嫌いなのか……果たしてどちらかしら。……いや、どっちでも良いのだけど。
「……ステラさまのお孫さまなら、回復魔法も得意なのでしょう。瘴気の森に向かわせるには、実力のある者でなくては、すぐに命を落とすことになりましょう」
「その瘴気の森だが、アクアが瘴気を浄化したおかげで普通の森……いや、神聖な力を感じる森に生まれ変わった。そこにダラム王国から保護したコボルトたちを住まわせる」
コボルトたちのこともちゃんと考えてくれたんだ! わたしがぱぁっと表情を明るくさせたことに気付くと、ルーカス陛下は小さく笑みを浮かべた。
「こ、コボルト!? 聞いていませんぞ!」
「今言った」
……老人たちがさらに深々と息を吐いた。事後報告がたくさんだからね……。でも、よかった、コボルトたちは今、あの森にいるってことよね。……確かに瘴気は浄化したけれど、魔物がいるかどうかはわからない。コボルトの戦士たちってどのくらいの強さかわからないからちょっと不安だ……。
「そして我々はこれからダラム王国の神殿に向かう」
「えっ?」
さすがに声が出た。ルーカス陛下は「話し合うと言っただろう」と小声で呟く。確かにそう聞いてはいたけれど! これからって……! え、まさかわたし、この格好で行くの!? めっちゃ動きづらいんだけど!? 目を白黒させながら浮かんできた考えに、つくづくこういう格好と相性悪いなわたし、と思った。
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