第7話
地下の奥の部屋に案内された。どうやら今日からここがわたしの部屋のようだ。……追い出されて一日で新たな職場と寝床をゲット出来るなんて……! 神よ、本当にありがとうございます! 飢え死にすることも路頭に迷うこともなさそうでとても嬉しいです! まぁ、聖女やっていた頃には地下に暮らすことになるとは思わなかったけど……。人生なにが起こるかわからないものね。
……さて、と。同室の子はどんな人なのかな? 仲良くなれると良いな! と考えていたら、スーザンさんが扉をノックした。
「はーい?」
「ジュリア、少し良いですか」
「メ、メイド長! はい、大丈夫です!」
慌てたような声が聞こえた。そして、ガチャリと扉が開いて、茶髪の女性が現れた。ぱちっと視線が合う。茶髪の女性はわたしを見て、ぱちくりと目を瞬かせた。スーザンさんがわたしのほうに視線を向けて、彼女を紹介してくれた。
「アクア、こちらがジュリアです。あなたの先輩ですから、仲良くするように」
「はい! 初めまして、アクアです!」
「げ、元気な子ですね……。メイド長、この子は一体……?」
「いつものディーン坊ちゃんのお節介です」
ああ、なるほど、とばかりに困ったように眉を下げてうなずく茶髪の女性。それから、スーザンさんに笑みを見せた。
「わかりました、私が面倒を見れば良いのですね?」
「はい、頼みました。それでは、私はこれで」
「あ、はい! ありがとうございました!」
スーザンに頭をぺこりと下げると、深々とため息を吐かれた。……そんなに声が大きかったかなぁ? とりあえず、中に入ってと言われたので入室した。今日からここがわたしの部屋でもあるのかぁときょろきょろと辺りを見渡す。すると、彼女が話し掛けてきた。
「……私はジュリア。仕事仲間だから呼び捨てでいいわ。ここでパーラーメイドしているの。パーラーメイドってわかる?」
わたしは首を横に振った。メイドの仕事って、掃除や洗濯じゃないの? そういうイメージがあるのだけど……違うのかな?
「……パーラーメイドは客間担当なの。とはいえ、公爵家で働いているメイドはたくさんいるから……ええと、ちょっと待ってね。先輩に相談してくる」
そういって部屋から出て行ってしまった。わたしはゆっくりと息を吐いて、肩をすくめた。ダラム王国の神殿で暮らしていた時は、めちゃくちゃ広い部屋をひとりで使っていたけど、この部屋はそれの三分の一ってところかな? ふたり部屋にしては広いんだろうか。
「クローゼット別なんだ。……っていっても、わたし……服はそんなに持ってないしなぁ。……それにしても、メイドの仕事ってそんなに区切られるものなのか……」
そしてどっちのベッドを使えば良いのか悩んでいると、思っていたよりも早くジュリアが戻って来た。その表情は張り切っているように見えた。
「お待たせ。今日から私があなたの教育係になったわ。あなたはビトウィーンメイドだから、まずはキッチンメイドと他の仕事もしてもらうことになるわ」
「ビトウィーンメイド? キッチンメイド?」
「メイドの見習いってこと。まずはキッチンから、スカラリーメイドとして頑張ってちょうだい」
「スカラリーメイド?」
「お皿を洗うの。他の仕事も一通りしてもらって、一番自分に合いそうな場所をメイド長が選んでくれるわ」
あ、自分で選ぶんじゃないんだ。まぁ、一通りの家事は神官長から仕込まれているから、頑張ってみようっと。
「それじゃあ早速だけど、スカラリーメイドとして挨拶しに行かなきゃね」
「うん、ありがとう。……ええっと、ジュリアはラフな格好をしているけれど、今日は休みだったの?」
「ええ、言ったでしょ、公爵家で働いているメイドはたくさんいるって。アクアもそのうち休みをもらえるわよ。見習いのうちは厳しいかもしれないけれど……」
「休みがあるってすごいね」
……ダラム王国で聖女をやっていた頃、執務にばかり追われていたのよね。わたしだけじゃなくて、司祭や神官たちも。聖女としてちやほやされることもなく、各地方からの災害報告やら魔物の被害やら、これ陛下の仕事じゃない? ってものまでわたしに回って来てたんだから。王都から結構離れている場所にある神殿にわざわざ! 帰りは神官たちの転移魔法でなんとかなるとはいえ、みんな疲れた顔をしていたなぁ。……だからこそ、休みがあると聞いて驚いた。
もしかしてここ、かなりの良い職場?
「……休みなしで働いていたことがあるの?」
「うん、まぁ」
「苦労してきたのね。多分、ここでも最初は苦労するだろうけど……」
「?」
どういう意味だろうと思って尋ねる前に、「ほら、挨拶に行くよ!」とジュリアがわたしの手を引いた。……後で聞けばいいか。
そしてわたしは、ジュリアに尋ねる前に彼女の言葉を理解することになる。
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