9月4日


 夏休みが終わってからが、夏休みの宿題の本番です。至極当たり前の文言を思い出しながら、まだ暑さの残る朝空を見上げる。教室に着いたら、数学の課題に取り掛かるとしよう。まだ終わらせていない課題の計画を立てながら、正面玄関を潜る。


 「あ、茉耶だ。久しぶり。」

 「………ん、結友ちゃんだ。久しぶりだね。あーそっか、美冬ちゃん達反対方向か。」

 「うん。それにあいつら、結構ギリギリに来るからね。」


 夏休みが終わる日付が九月の最初で、少し余裕があるのはこの学校のいいところだ。まさか、沙夜香達よりも先に茉耶に会うことになるとは思わなかったけど。普通だったら呼びかける勇気が湧かない程度には話した回数は少ない筈だと違和感を持つくらいだ。普段だったら気にしない様なことなのに、どうして気になるのだろうか?

 「夏休み、どうだった?」

 「んー、ゲーム三昧だよ。おかげで、ずっとやってたゲームのストーリーが一段落した。茉耶は?」

 「……うーん、大体寝ていたなあ。」

 「そっかそっかぁ…………って、大丈夫?それ?」


 夏休みにたくさん寝る。それ自体は非常に当たり前なことで、疑問、いや、切なく思うことを忘れかけていた。それに気がついた時、慌ててしまったくらいだ。あの時の苦しそうな顔を、思乃に会うまで忘れてしまっていたことを信じられない。どうして私は、こうも非情なのだろう?


 「大丈夫だよ。寝苦しくなることは、なくなってきたから……」


 「それはよかった。だってあの時、本当に酷い顔してたもん。」


 階段を登る足音が二つ響く。教室について、席に荷物を置き、茉耶の机の前に座る。まだ早い時間だから、教室にはそこまで人がいなかった。


 「お、信濃と燈だ。」

 「あー、おはよう。宿題終わった?」

 話しかけてきた男子に雑に答える。挨拶は大事だから、雑にする必要もないのだけど。ちなみに、信濃が茉耶、燈は私の苗字だ。


 「丸付けがまだ。」

 「それ以外はやっている……だと?私全然だよ。」

 これも、課題提出日直前にはいつもやっているやりとりだ。課題未提出ギリギリの常習犯の私は、いつも煮湯を飲まされている。

 「結友ちゃん、大丈夫なの?」

 茉耶は絵に描いたような優等生だったりする。彼女に雑さと誤魔化しの攻防なんてものは無いのかもしれない。

 「大丈夫。正答率はともかく、さっさと解くのは得意なんだ。」

 「どうなのそれ……」

 「やればいいんだよ、やれば。」


 そうして私は、席に戻り、問題集と向き合いだした。難しい問題はパスして十五ページくらいが終わった辺りの時間で、美冬と沙夜香が現れる。


 「おっはよー。お、やってるやってる。」

 「おはよう。沙夜香も丸付けしなきゃじゃない?」

 「やるやる。」

 問題を解く手を止めて二人の方を向く。美冬も沙夜香も、夏休み中の部活があるからか少し日焼けしたようだ。

 「おはよう。あと五ページで終わる。褒めろ。」

 「お、偉いじゃん。それならギリ間に合うかな?」

 「まあ、丸付け入れたら怪しいけどね。」

 沙夜香は手に赤ペンを持って、軽快に手を動かしていた。

 「そこは全問正解の予定。」


 チャイムまではあと十分、実は結構危ないけれど、回収までならなんとかなりそうだ。


 ちなみに、しっかり間に合いました。



 



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