第18話 赤城と制服デート②
「あれ、赤城と……笹川!?」
突然後ろから声をかけられ、僕と赤城は同時に振り返る。そして唖然とする。
「あ、青山……!」
情けない声が出てしまう。突然のことすぎて気が動転していた。
「おう、青山じゃん。……って、薺もいるじゃん、買い物?」
さすがはクラスの人気者、ここで呆然とすることしかできない僕との違いが浮き彫りになってしまう。
「そうそう、ちょっと化粧品とか適当にみよっかなって」
「その二人は……何、制服デート?」
野崎さんが若干弾きながら僕たちにそう質問してくる。
僕がどう答えたものかと考えていると、赤城が再び喋り出した。
「まあそんなとこだな。笹川が服欲しいらしくて、その付き添いって感じだ」
「……まあ、そうだね」
「あっ、制服デートのところは別に否定しないんだ……」
選択を間違えたかもしれない。赤城がだいぶ簡潔に説明したと思っていたが、一番大事なところを否定し忘れていた。
野崎さんがおっとりと引いている。青山は……なぜか僕らを睨んでいる。
兎にも角にも、奇遇な形で出会ってしまった総務部の面々だったが、出会って「それじゃあバイバイ」というのも何だか気まずく、最終的になぜか全員で僕の服を選ぶこととなってしまった。
*
「笹川に似合う服かあ……なんか難くね?」
「ううん……確かにねぇ、何ていうか」
「流石の私でも、ちょっと悩むなあ……」
このショッピングモールで最も安いであろう有名チェーンの服屋に着いて、改めてまじまじと僕の姿を見る三人。
赤城、野崎さん、青山が思い思いに悩んで、そして全員が結論を出したように呟く。
「「「割と何でも似合いそう」」」
全く、無責任な人たちである。何着せても微妙なのだとしたら、そうと言ってくれればいいものを。
「まあとりあえず、色々見て回るよ」
およそ二、三年ぶりの服屋の探検が始まった。
最初、僕以外の三人はあーだこーだと僕に似合いそうな服を話し合っていたが、結局僕と同じく見て回るという思考になったらしく、それぞれが店内に散らばっていった。
「あ」
「あ、笹川だ」
偶然にも、青山と出会ってしまう。先ほど出会った時に何だか機嫌が悪そうにこちらを見ていたから、二人になると少し気まずい。
しばらく沈黙が流れて、たまらずに僕が口火を切る。
「青山って普段、こういう店来るの?」
「……どういう意味?」
やはり、少しだけ怒っている気がする。僕は少し怯えながら言葉を返す。
「いや、なんていうか、青山はもう少し高い店とかで服を買ってるイメージだったから」
「私だって別に、滅茶苦茶にお金を持ってるわけじゃないしこういう店でも服は買うよ」
「なるほど……」
……気まずい空気が流れる。理由はわからないが、紛れもなく青山は静かに怒っている。
「でも、私も意外だったなあ」
今度は青山の方から声を上げた。
それに少しだけ救われて、僕は俯いていた方を起こして彼女の方へと振り返る。
「え、何が──、」
青山の整った顔が、すぐそこにあった。学校の外だから、いつもよりメイクを濃くしているのかもしれない。今は何だか、それが余計に恐ろしく感じた。
もしかしたら、ただ単純に怒っていたから圧が強かっただけかもしれないけれど。
「笹川が、制服デートとかするイメージなかったから。私ともしたことないし、ね?」
確かに、青山とは付き合う前から僕の家の花屋か、付き合った後も僕の部屋でしか会っていないから、外に一緒に出かけたことはない。
だがしかし、
「いや、赤城は男だって。なんでやきもち妬いてるのさ」
「やっ、別に私はやきもちとか別に……」
青山の語気が急に弱くなる。どうやらやきもちを指摘されるのは少し恥ずかしいらしい。
──だとすれば、今ここが弁明のチャンスだ。
「そもそも赤城は男だし、今日制服なのはその、服を買いに行く服もない、っていう状態だったから仕方ないだけで、」
「そ、そうだとしても私とはしたことないし、それにそれに笹川は自分ではあんまり意識してないかもしれないけど実は割と可愛い顔してたりするし……」
言っていることも話す速度も文法もめちゃくちゃになっている。これは弱っている時に攻めた結果が出ているのかもしれない。
後もう一押しと言ったところか。
「それに今日はその……」
言いかけたところで少し恥ずかしくなってしまい、僕は一瞬吃る。
「……その?」
しかし青山に変な誤解をされたままなのは嫌なので、意を決して伝える。
「青山と花火大会に行く日のために、服買おうって思ってて、えっと……」
「……」
青山がきょとんとした顔を見せる。そして今の僕の言葉を噛み砕いて理解したのか、急に頬が赤くなる。
「……私のために、ってこと?」
「まあ……そう、だね」
言ってしまって、恥ずかしくなる。でもこれは紛れもない真実だし、僕たちの間柄で隠すようなものでもない。
「……笹川ってやっぱり、私のこと大分好きだよね」
少しの沈黙があって、青山が僕から顔を背けてそう呟く。
その耳が真っ赤に染まっているのを見て、僕は少し意地悪をしてみようか、とも思ってしまうけど。でもそんな彼女のことが好きだから。
「……」
「……」
僕らは恥ずかしくなってしまって、黙っていた。しばらくして、気持ちが落ち着いたのか青山がポツリと溢す。
「でもそれなら、私に相談してくれればよかったのに」
……そんなこと、できるわけがない。男子というのは好きな子の前では格好つけたい生き物なのだ。
青山のことを好きな僕が、そんなことを本人に言えるわけもない。
そんな僕の葛藤は露知らず、青山はいつの間にやら服を何着か手にしていて、「ほら、試着室行くよ」ともう一方の手で僕の手を引いた。
僕は赤城たちに見られないかと少し心配だったが、それよりも今この瞬間は、幸せだった。
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