第3話 班決めは独りぼっちには辛い
僕には友達というものがあまりいない。その理由なんてものは明白で、正直わざわざあげて確かめる様なものではないけど、まあ簡潔に行って仕舞えば、単に僕は根暗なのだ。故に友達が出来ない。
会話自体が苦手なわけではないけれど、自分から話題を振るとなるとそれは少し苦手だ。人の話を聞くのは好きなんだけど。
ただ、そんな僕にも何故だか彼女がいる。僕はそれをとてもとても幸運だと思っているし、この先これ以上の幸運が僕に訪れることなのどないのだろう。だから、青山という僕には有り余る程の彼女ができてしまった今は、友達なんて特に望むものでもなかった。
「じゃあ、芸術鑑賞会でオペラを見にいくアレだが、一応活動班を作っておく。一班6人で作れよ〜」
担任のそんな掛け声が聞こえてきて、僕は思わずため息をついてしまう。僕に友達なんていらない、なんて思っていたとしても、この様な仕打ちは独りぼっちの人間には心にくるものがあるのだ。
正直なところ、かなりしんどいし、自分が誰にも求められていないのをありありと見せつけられてしまって悲しくなる。これだから学校は好きではない。
大体、班で一つ演目の考察を提出するという課題だって別に1人でもできるものだし、班を作る意味があまりわからない。
まあとりあえずは、どこか余った班に全員から『いらない』と言う視線を受けつつも、入れてもらえれば良い。恥ずかしいけれど、我慢するしかないのだろう。
僕はそう思いながら、机に顔を伏せた。眠ったふりをしていれば、多少の喧騒も、傷口には染みない。顔を机に伏せる直前、青山と一瞬だけ目が合った様な気がした。
「ねえ、笹川。余ってるんだったら私たちの班きなよ」
机に伏せた本の数分後、僕に何故か班への誘いが訪れていた。その首謀者はどうやら青山で、予想通り彼女の周りにはいわゆる『一軍』と称されるのであろう男女が集っていた。
「え、あ、いや、僕は良いよ。青山さんのグループ、他の人もいるでしょ」
僕は彼女が一体何を考えているのか分からずに、狼狽えながらもその誘いを拒んだ。別に、青山と同じ班になるなんて、そんな高望みはしていない。
僕はただ、物静かで目立たないクラスメイトたちが集まっている様なグループで、それでも尚浮いてしまっている様な存在でいい。
だと言うのに青山ときたら、僕の瞳を見つめ続けてくる。当然ながら僕にはその視線は受け止めきれずに、そらしてしまう。
「……そっか」
青山は、僕の拒否の言葉を聞くと、少し残念そうに肩を落として彼女の班へと戻っていった。その後ろ姿に、彼女の班のメンバーが慰めの声や疑問の声、僕への批判を投げかける。そう、彼女は目立つのだから、だから僕なんかとはあまり一緒にいない方が良いのだ。
僕は自分の感情に一つそう区切りをつけて、物静かな目立たないクラスメイトたちが集まった班に入れてもらい、そしてその中でも浮いた存在として芸術鑑賞会当日への切符を手に入れたのだった。
*
「さ〜さ〜が〜わ〜、なんで私の誘いを断ったのぉ〜」
僕のベッドの上で、手足をバタバタとさせて布団をぐちゃぐちゃにする可愛い
放課後、僕の部屋でいつもの様に勉強会を開いていたら、青山にそんな言葉を投げかけられた。どうやら今日の彼女の機嫌がなんだかずっと悪かったのはそのせいらしい。
彼女は僕の反対側に座っていたのに、ササッと僕の隣に移動してきて、僕を睨んでいる。
ひとまず僕は、正直なところを話すとしよう。
「いや、あれはいきなりだったし、しかも僕だけ他人な感じがしたから」
「……笹川はどこのグループでも他人じゃん」
「うっ」
なかなか痛いところをついてくる。
「まあ別にわかってたから良いけどさ……」
青山は呆れた様に呟いて、それからペットボトルのお茶を口にした。僕は痛いところを突かれたダメージを負いながらも、問題を解き続ける。
そんな僕に、青山は再び声をかける。
「でも、こう言うことがあるとやっぱり、笹川にも友達がいてくれー、ってなるよね」
まるで独り言の様に呟かれたその言葉に、僕は何も言えなくなってしまって、ただただ申し訳なさが込み上げてきて、今のところは、謝っておいた。
「……ごめん」
「いや、別に笹川は悪くないじゃん、謝らんくていーよ」
「いや、僕が根暗なのがいけないし、僕が悪いでしょ」
「ん〜、いや誰が悪いとかはないんだけどね。てか、笹川は友達作らないの?」
「それは……作れるんだったらいた方が良いけど、今更だし」
居たら嬉しいランキング二位。これが僕にとっての友達の立ち位置だ。絶対にいたら楽しいけれど、出来ないのだからしょうがない。
中学の時なら何人か友達と呼べる人がいたけれど、今はてんでだめだ。所詮居たら嬉しいランキング二位。ちなみに一位は青山だ。
そんなことを考えながら僕は苦笑いを返す。どうにもこの性格は直せないのだ。他人と話すとなんだか気負ってしまって、より一層一人が好きになるこの根暗さは。
「なんでよー、私は学校でも笹川と話したいし、笹川だって友達がいた方が楽しいでしょ」
まるで子供の駄々様な訴えに僕は思わず笑ってしまって、それと同時に言葉をこぼした。
「別にさ、僕は青山がいてくれればそれだけで楽しいよ」
「え」
青山が驚いた様に目を丸くして僕を見つめる。鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔というのはこれのことなのだと、失礼ながらにそんな感想を持ってしまった。
そしてそれから青山は僕の腕に頭をぶつけてきてから、小さく「なんだよぉ」と呟いた。これは、彼女の照れているときの癖で、僕はそれをあまりにも可愛いと思っている。
そしてそんな彼女の仕草を見て、もしかして僕の今の言葉は恥ずかしいものだったのかもしれないと、思い返してみるとまあ割と恥ずかしかったので僕も一緒に照れてみる。
本当の意味はなんと言うかそう言うことではなく、いやでもやっぱりそう言うことでもあったので、とりあえず僕は何も言及はせずに二人で照れるだけにした。
「でも確かに、学校でも青山と話せたら楽しいかもなぁ」
僕は先程彼女が言っていた理想を想像してみて、それはそれで楽しそうだと呟いた。遠い理想ではあるけれど、でも憧れてしまうのには違いなかった。
「……別に、無理しなくていーよ。その……私は今のこーゆー時間だけで楽しいし」
青山はと言うと、まだ照れの抜け切っていない状態でそんなことを言っていた。僕はそんな彼女の気遣いが嬉しくて、少しだけ笑ってしまった。ありがたいと感じた。
彼女は、笑った僕に対してまた「なんだよぉ、」と頭をぶつけてきていて、可愛らしく、そして僕の心はとても暖かくなる。
本当に甘やかされてばかりなのだ、僕は。だから、いつの日にか、彼女に甘えることなく、彼女と学校で話せる日が来たら良いな、なんてことを思いながら、僕は彼女の頭を撫でた。
少しだけ、頑張ってみようかなとも、思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます