最終話
アリアとルークの遺体を綺麗さっぱり燃やし切ってから、あたしは再び街に出て神子を探した。だけど何年、何十年、何百年探しても見つかる事はなかった。
吸血欲は鉄分を多く取ることで何とか誤魔化せないかと考えたが流石に無理で、街の人を操っては死なない程度に血を分けてもらっていた。
どこから嗅ぎつけたのか吸血鬼の血を求めてやってくる輩が後を立たなかったが、永遠にあたしの餌として生きるなら考えてやると提案すると逆上して襲ってきた。もちろん殺した。提案を受け入れようとした人間も居たが、殺した。最初からあたしはこれ以上吸血鬼を増やすつもりなんてないから。あたしの元に来たやつは、あたしの質問にどう答えようと殺した。
吸血鬼に食われたいという変わった人間がやって来たこともあった。そういう人間は遠慮なく食った。神子の肉は死ぬほど不味かったが、普通の人間は案外美味いもんだなと思った。それはあたしが吸血鬼だから抱いた感想なのかもしれないが。
数百年が経った頃、屋敷がある森の近くに村ができ始めた。ある日、その村をたまたま魔物が襲った。関わるつもりはなかったが、恩を売るために村を助けた。お礼をしたいという村長の言葉につけ込み、生贄を要求した。
「別に殺しはしない。定期的に血をもらうだけだ。……このままではあたしはいずれ、村の人間を食い荒らしかねない。だから……十年に一度で構わない。一人、生贄としてうちに来てくれないだろうか」
村の人間を食い荒らしかねないという脅しが効いたのか、村人達は怯えながら承諾してくれた。
「……ありがとう。生贄さえもらえれば村に危害は加えないし、守ってやるよ。大事な食料庫だからな。荒らさせはしないさ」
そうしてあたしは、村から十年に一度食料の供給を受けることとなった。一度男性が生贄としてやってきたことがあったが、送り返した。単純に女性の血の方が好みだったからというのと、吸血の際に欲情されても困るからだ。あたしは同性愛者だから。そういえばアリアも似たようなことを言っていた気がする。やはり父を食い殺したのは別の吸血鬼なのだろうとようやく思えたが、そんなことはもうどうでもよかった。
別に生贄の男性は村に返さずに殺して食っても良かったが、殺しはしないと村長と約束したことを思い出してやめた。こんなあたしの中にもまだ良心は残っていたらしい。まぁ、また送られて来ても困るというのもあったけど。
生贄として捧げられた女性達には催眠をかけた。吸血の際にいちいち悲鳴を上げられるとやりづらいから。ちなみに、吸血の際に抱いている感情で血の味が変わるため、わざと催眠はかけずに吸血する吸血鬼もいるが、あたしは別にそんなこだわりはなかった。アリア曰く、怯えている時より幸せを感じている時の方が甘いらしい。あたしの血が甘くて美味しいと彼女はいつも言っていたが、あれはきっと彼女の味覚が狂っていたのだろう。あたしは彼女といて幸せを感じたことなんて一度もなかったから。
やがて、二十人目の生贄がやってきて二年が経った頃、森でかすかに神子の気配を感じた。気配を辿ると、一人の金髪碧眼の少女に出会った。彼女はあたしに貰われるために森に入ったと語った。村では役立たず扱いされており、自分は生贄になるしか価値がないのだと。あたしは、なんて好都合な話だと思った。
「……そういうことなら……と、言いたいが、無理だ。村の娘をかってにさらうことしないって契約を交わしてるからな」
敢えて彼女を突き放す。すると彼女はこう言った。
「……じゃあ、わたし、いけにえになる」
「あぁ。そうするといい。それなら村からも文句を言われずにお前を手に入れられる。さぁ、とりあえず今は村に帰るといい。次の生贄は八年後。それまで絶対に死ぬんじゃないぞ。お前はあたしの大事な大事な餌だからな」
あたしのその言葉に、彼女は素直に頷いた。
そしてそれから八年後、彼女は本当に生贄として自らやってきてくれた。吸血鬼になって千年以上が経って、ようやく
リリム・カレンデュラの独白 三郎 @sabu_saburou
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