第2話
事が終わると、ベッドもお互いの身体も血まみれになっていた。
彼女はあたしを浴槽に連れて行き、シャワーで血を洗い流して、湯船の中であたしを抱きしめながら自分のことを語った。
リリスというのは、あたしの思ったとおり、やはり彼女の恋人だったそうだ。そのことがバレてリンチされ、殺された。アリアは彼女を殺した人々に復讐するために吸血鬼の力を求めた。
「村ごと焼き払ってやった時の爽快感と言ったらもう!あぁ!いつ思い出してもゾクゾクしちゃう!」
彼女は高笑いする。しかし、その高笑いはすぐに嗚咽に変わった。
「けどね。復讐を果たしても虚しいだけだったの。リリスは戻ってこない。私は一人ぼっち。だから、貴女が来てくれて嬉しいわ」
「……無理矢理連れて来たんだろ」
「ふふ……あぁ……幸せだわ……」
不気味なほど不安定な情緒、支離滅裂な発言、話が時折噛み合わなくなることから、彼女の心が壊れていることは明白だった。それもそうだ。恋人を無くし、復讐を誓って吸血鬼になったが復讐は呆気なく一瞬で終わり、そこから何十年も一人で生きてきたのだから。生きる意味を失ったのに死ぬこともできないまま生き続けてきた。そんなの、考えただけでぞっとする。狂わないはずがない。
「……あたしも」
「ん?なぁに?」
「……あたしも、好きな女の子が居た。……誰にも、話せなかった。……本人にも。親にも。話したら……家族の絆とか、友情が壊れる気がして」
あたしは何でもない日々が幸せだった。だけど、両親や友人達から恋愛の話を振られるたび、心苦しかった。同性愛者である自分を責めていた。その苦しみを吐露できる相手がようやく現れたと思えば、両親の仇だなんて。
「……何であたしを選んだの」
「ずっと貴女に目をつけていたの。リリスに瓜二つな貴女に、一目惚れをした。でもね、貴女の父親を殺したのは私じゃないわ。男性の血は口に合わないもの。私は女しか食べない。同性愛者だから」
「誰が信じるかよ……」
「ふふ。信じてくれなくても構わないわ。そんなことどうでも良い。そんなことより私、貴女が気に入った。リリスじゃないかもしれないけれど、それでも良いわ。えっと、名前なんだったかしら。あぁ、そう。リリム。リリムだったわね。愛してるわ。リリム」
「ふざけ——あっ……!?」
その瞬間、首筋に鋭い痛みが走る。血を抜かれている。気持ち悪いはずなのに、身体は酷く熱い。ゾクゾクする。少し身体を撫でられただけで、自分の意思とは関係なく声が出た。
「吸血鬼の牙からはね、催淫効果のある毒——要するに、媚薬みたいなものが分泌されるの。噛まれた後にちょっと触られるだけで気持ちいいのはそういうこと」
「クソ……が……っん……やめろ……っ……」
抵抗しようとするが、力が抜けてしまう。
「ふふ。可愛い。リリム。これから毎日愛し合いましょうね」
「誰が……お前なんかと……っ……!」
「ふふ。相手が人間だと加減しないと死んじゃうから気を使うけど、吸血鬼だと気にしなくて良いわね」
そう言って彼女は自身の指をあたしの口元へもっていき、あたしの牙に軽く突き刺した。指先から流れ出た彼女の血が舌に触れた瞬間、強い吸血欲求があたしを襲った。
「いいよ。私の血を好きなだけ飲んで。どれだけ吸われたって、私は死なない。私の血は尽きない。気がすむまで吸っていいのよ。リリム」
そう囁かれた瞬間、あたしはあっさりと欲望に負けて、振り返って彼女の首筋に食らいついた。
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