8問目




「紬衣チャン、オレの言う通りにしてみて」


 甘い声と熱い息にゾクゾクっと背中にナニかが駆け上ります。

 壱太くんのお部屋に髪を切りに来てみたら今まさに夢かナニかよく分からない状況ってスミマセン確かなこの感触は夢じゃないってことは良く分かっていますがイキナリどうしてこんな事になっているのか上書きってナニですか急展開についてイケません。

 熱い唇が耳を掠めたその感触に思わず声が漏れそうになるわたしの軽く開いた口を壱太くんの唇がすかさず塞ぎ隙間からぬるっとしたモノが口腔内に侵入ってコレは舌?!


「ち、ちょっと待ってください」


 顔を背けようとするわたしでしたが壱太くんの大きな手が頭を固定しているため逃げることも出来ないままに壱太くんは唇を離さず「好きだよ、紬衣チャン」とか舌を差し込みながら話し続けますって恥ずかしい何コレこんなの知りませんって嘘です知識としては勿論知っていますが凄く気持ち……良くなっては「大丈夫、上手だよ。そのまま紬衣チャンもっと口開けて舌絡ませて優しく吸ったりしてみて」って先生それはナニのレッスンですかってもう駄目です。


「ふっ、あ、やッ……ちょっと、待って」

「ダメ……って言ったら?」


 これまで聞いたことがない壱太くんのその低くく掠れた甘い声や少し息が上がる様子に加えて据わったような目で見つめられた途端ぶわっと身体の中が切なくて怖いわけじゃないのに泣きたくなるのはどうしてでしょう。


「駄目です。だ、だ、だって壱太くんが言ったじゃないですか」

「言ったよ? オレもうとっくに紬衣チャンで妄想してるし、見たいし触りたいって」


 腰に回されていた壱太くんの手がスルスルとお腹の方へ動き指先は服の中への侵入経路を探して優しく撫でていることに気づいた途端ビクッと身体が痙攣しました。


「ち、違ッ、違くないですけど違います」


 もうコレ以上は我慢出来そうにありませんってナニを我慢しているのかも全く分からない状況の上に身体はムズムズするし殆どパニックですから離れて欲しいとばかりに壱太くんの胸を思い切りぐいっと押しやります。


「壱太くんが、わたしに言ったじゃないですか。こ、こういうことはいくら興味があっても駄目だって、好きとか恋とかそういう感情が必要で……」


「だってもう知ってる筈だよね? オレは紬衣チャンのこと好きだって」


 言いながら壱太くんが、またわたしに覆い被さるようにして今度は少し強引にソファに押し倒して来るものだからビーズの中に埋まって身体が言うことを聞いてくれないんですって逃げられないわたしの脚の間に壱太くんの長い脚が挟まって腰の辺りに押し付けられている硬いコレはナニですかって確実にアレですね間違いありません悠ちゃんのお陰でコレが変態した後ってことなんだと学習済みですがスミマセンこんな時にもその形状がどうなっているのかチョット見てみたいとか思ってしまったわたしの好奇心が顔に出ていないことを祈ります煩悩退散当帰芍薬散!!!


「う……わ、あッ」 


 そんな抵抗も虚しくってイマイチその真剣さに欠けるのは天使のコスプレした悪魔が耳元で好奇心とやらを満たすだけなら今なら紬衣 is on sale (20% off)でしょと流されそうになるわたしのチョロさを笑いながら囁くからでってそんな事考えていたら壱太くんがいつの間にか首筋に顔を埋めて聞こえるように湿った音を立てながらキ、キ、キスしてるって。


「す、ステイっじゃない。ま、待ッて!!」


 そこでぴたりと動きを止めた壱太くんに思わず実家で飼っていた大型犬とを比較しちゃいましたよウチの犬はわたしの言う事なんか全然聞いてくれた試しはなくヤメてと叫んでいるのに腹部からニョッキと赤い先っぽを出して懸命に腰を振って迫り擦り付けてくるあの恐怖を思い出してしまいましたって怖ッあの先っぽどころじゃない話なのはわざとじゃなしに偶然と呼ぶにしては余りにもチョット長い時間でしたが壱太くんの押し付けてくるナニかを思わず確かめるように触ってしまい思いもよらないその熱さに驚いてギュッと触れて触れられてお互いビクッとなっちゃったとか壱太くんがウッと声出したとかそうじゃないそうだけどナニより壱太くんがウチの犬よりお利口さんで助かりました。


「壱太くんの大きさは何となく……じゃなかった気持ち、そうです……えっと大きな気持ちは分かりました。わたし、わたしの気持ちが好きとか恋について、まだよく分からないんです。壱太くんにドキドキするし、ぎゅっとされたり、ち、ちゅうとかも嬉しいですけど……悠ちゃんにもドキドキしちゃうんですってうわぁ正直に言ってゴメンなさい。だから、こんなの駄目ですって……えっと、ほらね? もうキライになっちゃったデショ」


「ならないよ……好きになったら、そんなに簡単には嫌いになれないんだよ紬衣チャン」


 見目麗しい壱太くんの笑顔が凄く切なそうに見えて胸の奥がきゅうっとしました。


「え……?」

「紬衣チャン、さ」

「……はい」

「だったら一緒に勉強しようか」


 アレちょっといま悪い顔しましたよねって優しく抱きしめられて頭の上に顎を乗せられてしまったので壱太くんの顔はもう見えませんが胸に顔を埋めているので壱太くんの心臓もわたしと同じようにドキドキしているのが分かります。


「はい……って勉強?! 一緒にですか?」


 な、な、な、何?

 ナニの勉強ですかソレ。


「このままだと悠サンに良いように完全に先にヤラれちゃうから……じゃなくって……いやソレもあるけど。オレが恋ってヤツを手取り足取り丁寧に教えるってのはどう?」

「……えっと、ソレって勉強出来るものなんですか?」

「うん」


 コレまた間髪入れずにキッパリ言い切りましたよってことは嘘じゃないみたいですねって本当にそうなのかな? 緊張して身体が強張るわたしに落ち着いてって云うように壱太くんの両手が優しく背中を上下します。


「どうやって勉強するんですか?」


 抱き合っている所為で少しくぐもったわたしの声が壱太くんの良い匂いがする胸元に吸い込まれるのを聞きながら尋ねると「少しずつこうやって」とぎゅっと強く抱きしめると頭の天辺にキスを落としながら壱太くんは言いました。


「勉強を重ねて、紬衣チャンの気持ちを定期的にテストしてあげる。ああ、それから大丈夫だよ。もちろん補習も付き合うから……オレに任せて」


 一体それって名案なんでしょうか?

 恋愛マスターの方、いらっしゃったらどなたか教えてくださいお願いします。









『第4章 変態の帰還』に続く……


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