第四章 変態の帰還

1問目



それでは、問題です。



 日本最古の文化祭は1921年の『創作展示会』でありますが、現在のようなクラス単位の出し物になった文化祭は1960年頃から、と云われています。


 現代の高校の文化祭に於いて、クラス企画として人気のある出し物は何か答えなさい。




……。



「……壱太くん、さ。男二人きりで男子校の文化祭に行くって例えここのOBでも、そうなかなか無くない? ましてや部外者だし」


 隣を歩く、男の俺から見ても悔しくなる程の麗しい顔にちらと目をやれば「別に普通に、あるんじゃないですか」って言いながら歩いてるけど、気になるんだから仕方ない。

 何をって廊下を歩いてると他校から来てる女子高生の物言いたげな視線ときゃーって押し殺すような声が刺さるってコレってアレでしょ? 俺ら間違いなく脳内妄想BL認定されてるよね? 


「悠サン、ダダ漏れだから。確かに悠サン格好良いし、オレも見た目良いから女子高生からしたら美味しい妄想ネタかもしれないですけど、悠サンの中で女子は皆んな腐女子ですか」

「つか、俺が格好良いのは知ってるけど、さりげなく自分の見た目良いとか言った?」

「……」


 おい、そこ何か言うとこだから。

 さらっと無視で流すとか。


「まあ、いいや……」


 ちょうど近くにいたパンフレットを配り歩いているクマの着ぐるみから二部受け取り、壱太くんに渡しながら、紬衣が顧問をする生物部の展示教室を探した。


 ……何だよ、コレ。


 これは、つまり完全なる宣戦布告だなって誰に向かって宣言してんのか知らないけど、空き教室まだ本校舎にあるのに南校舎三階の生物室とかで展示ってソレもうそういうことだよね? 男子校文化祭ではオンナノコとの出会いこそ全てって言っても過言では無く引っ掛けるには好立地が犬でも分かるおぺんほうす並にモノいうってのに、地味な展示ものでしかもハジのほうの人気がないとこなんて紬衣とナニかしたいしかないそれ一択でしょ。


「単に生物部が生物室使うってだけで、悠サン考え過ぎじゃないですか?」


 パンフレットを団扇みたいに、ハタハタと扇ぎながら歩く壱太くんは「お化け屋敷は定番ですよね。あ、たこ焼きだ。なんか腹減りません?」とか言いながら歩いてるけどさ。

 すげーあやしいんだよな。


「……なあ、ナニその余裕っぷり紬衣とナニもないとか言ってソレ嘘だろ。確実にナニかあったつうかナニかしてたら赦せそうにないんだけど」


「…………まあ、上書き……だけ、ですよ」


 なッ……?! 何その顔、壱太くん今すっごく悪い顔したよね?


「ってしかもソレ今? つか、だけってナニその残念っぷりウケんだけどとでも俺が言うと思ったのなんなの馬鹿なの? ホウレンソウは社会人として常識だよな?!」

「え? じゃあ悠サン、聞きたいですか? オレが紬衣チャンにした……」

「あーあーあー聞こえナイ何にも聞こえナイからあーあー」


 くっそ、なんか涙出そう。


 紬衣に会ったら慰めてもらう為に、勝手にむぎゅっとしちゃうもんね。とか考えながら、ようやく辿り着いた生物室って隣りは写真部の作品展示で結構ぱらぱらと人が居るのを見て、少し安心……あんしん? ってどういう意味だった? 

 生物室の扉の前まで来たとき、中から聞こえた紬衣の声に身体が固まる。



「えっやだ、そんな出来ない。お願い、仕舞って……ね?」


「先生、またそんなこと言って。見たことくらいはあるとか言ってませんでした? それに、コレが刺激されたらどうなるのか、興味あるでしょ?」


 不穏な会話にコレからヤバいことしか始まらないようにしか聞こえないですけどって焦る俺が、教室に飛び込もうとして扉に掛けた手を、がっし、と掴んで離さないってなんなの壱太くん。

 え? しーって、人差し指それ長くて綺麗だなとかナニなら俺、見惚れちゃったからって言ってる場合じゃなくない? は? 現場を押さえたいから待て? い、意外と鬼畜だな壱太くん。そゆとこ嫌いじゃない……とか言わねーよ。

 

「み、見たことはあるもんッ大人だし……それに、どうなるかも……し、知ってますよ。で……でもね? 知識として知ってるのと実際にするのでは、違う……んで、す……あ、やだッ待って。なんで?」


「ダメです。もう待てません。ほら、触ってみて下さい。どうですか? 最初は……まだ、柔らかいから……掌で優しく持ち上げて……次は指も使ってしっかり握って」


「う、うそ。やッあ、あ、ヤダ」


「お願い、先生……怖がらないで、もっと強く握って……うッ、わ。大胆ですね。いきなりそんな……でも……ああ、そう……凄い。僕も一緒に手伝うから、もっとこうして……ほら、ね?」


「え、うそ。だんだん硬くなってきた……どうしよう……え、やッいやッ駄目」


「……うッ、先生……今更逃げたりしないで……駄目じゃないです。もっと……こうして? 僕がしてるみたいに……ほら、こんなふうにもっと強くして大丈夫だから」


「大丈夫? こ、こうかな? あってる?」


「……うん。良いです、凄く……あー……もっとぎゅっと強く……あ」


「や、怖い……こんなに動かして良いの? あ、あれ? もう何か少し出てきたよ?」


「これは……アレです……そう、そのまま……あッ……あ、あ、ああ見て、先生。ほら、ここ。ね、見てて。もう少しで出そう」


「えっ? ……えっ、う、ウソ。やっヤダ……待って」


「ダメ、待てない。先生、もう……出……」


 わああああ!!!

 ダメって駄目でしょ。

 紬衣にナニさせてんだよ。もう充分だしダメ待てないのは俺もだからと壱太くんの手を振り払うようにガラッと扉を開けてみればって嘘だろナニ手に持ってんだよってグロいなソレ海鼠ナマコとかいやマジか。


「あ、出た。先生、これが海鼠ナマコの内臓です」

「うわぁ、ホントに出るんだ」

「もしかして、実物は初めて見ました?」

「えへへ。うん、ハジメテ」


 おい、誰だよ紬衣にハジメテとか言わせてる奴。つか刺激を受けると防御反応で内臓を出す海鼠ナマコを、展示物にして触って悦ぶ高校生なんて果たしているのか? なんなら似たようなモノ……って俺に向ける壱太くんの視線が痛いから。


「……悠サン」


 残念そうな目をして首を横に振る壱太くん、さ。ソレどういう意味なの? 


 色々アウトなのは、俺じゃないよな?






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