5問目


さて、どうやら問題がある。



 先手必勝とは相手よりも先に攻撃を仕掛ければ、必ず勝てるということを意味します。

 さてそこで恋愛面に於いてもそれが必勝法であるのか、或いは恋愛面に於いては後手必勝であるのかを考えなさい。





 出たよ……つーかやっぱ来たよ。

 

 モニターに映る悠サンの無駄に秀麗な顔を思わず睨んでも向こうからは見えないんだよ意味ないなって向こうもコッチ睨んでるから同じか。

 まあ、オレが居るの分かってるから来ているんだろうケド早くない? 普通まだ歯医者はヤッてる時間だろってコレもうオレに対する嫌がらせか……や、違うなもしかして紬衣が悠サンといきなり二人きりで気まずくならないように紬衣に気を使ってワザとこうしたんだってコトか或いは悠サンが紬衣に避けられるのを回避する為ってコトなんだ分かったつまり悠サンが紬衣のコトを知り尽くしてるからこそ自分が不利にならない為にオレ良いように使われたのかよナニそれあのウザいメッセはオレが紬衣の様子を見に行くまで推測してのってことだったんだと考えれば納得だし完璧してヤラれた。


「……ハイ」

『俺……』


 開けたくない。

 このまま知らないフリしたい。

 変態のクセにもしかしたら実は一枚も二枚も上手うわてで今のオレなんかコレまさにこの男の手のひらの上で踊った挙げ句がまんまと紬衣の部屋に居るってヤツだし結果的に悠サンに有利な状況作ってんのオレとかソレだけじゃなくて顔面ヨシ頭ヨシな幼馴染って最強カードまで持ってんのもムカつく。


『開けてくんない?』


 そこでニヤリって笑うってことはオレが考えていたことも筒抜けかよ。

 ハイハイ分かりましたよ開けますね。


「……もしかして、悠ちゃんですか?」


 振り向けば、どんぶりを抱えた紬衣が首を傾げているだけなのにまた可愛いとか思っているオレはもう重症だなってナニでどんぶり抱えてんのってあ、食べ終えたんだ。


「あーうん、そう。今から来るって」

「そうですか……やーでもホント壱太くんが居てくれて良かったです。いきなり悠ちゃんと二人きりだと恥ずかしくてどうしたら良いか分からなかったから。えへへ」


 ぐっは。悠サンの読み通り。

 もうナニこれ地獄の始まりですか。


「うどんご馳走さまでした。凄く美味しかったです」


 ニコッて笑った紬衣がシンクの前に立ったところで悠サン到着かってことでオレが玄関まで行って悠サンと二人戻ってみればモフモフの袖をぐっと捲り上げて洗い物始めたところだった。

 遅かった……いや悠サン来るの早いんだよあのモフモフの袖を後ろから抱きしめるようにして捲りたかったなソレからそのままアノ細い腰に腕回して首筋に顔を埋めて……って悠サンがオレを殺しそうな目で見てることに気づいたってこっわッ考えてることは変態と同じってことか。

 

 悠サンはまるでここが自分の部屋みたいな様子で紬衣に近づくと、手に持っているモノをキッチンカウンターに置きながら洗い物をする紬衣の顔を下から覗き込むようにして微笑んだ。

 って、悠サン近すぎ。


「紬衣……。コレ、親父が作った五目おこわ。すぐ食べないなら冷凍しろよ? こっちは紬衣が好きなケーキ」


「ありがとう悠ちゃん。五目おこわ……?」


「まだ赤飯は早いからって……ってあ、イヤ何でもない。それより何コレ可愛いね」


 モフモフの紬衣の肩をチョットだけ指で突いて真っ赤になった紬衣のことを見ている悠サンの目の恐ろしさにオレの方がゾクッとしてるとかマジかよソレ以前に悠サンの紬衣の名前を呼ぶあんなに甘い声とか初めて聞いた。しかも何だよ紬衣を見る柔らかい表情もコレまでとは別人かってくらいだしワザとらしく見せつけてるアレコレは間違いなくオレへの牽制だよな。


 分かりやすいくらいガチガチの紬衣の頭をポンポンって優しく叩いて「お茶淹れてよ。ケーキでも食べよう」ってオレの方見て笑ったなクッソ。


 二人してお茶が出て来るまでソファ前のテーブルに並んで頬杖突きながら紬衣を見ていた時、悠サンがオレをちらりと見る。


「……なあ、あの紬衣のルームウェア。まさかとは思うけど壱太くんじゃないよね?」

「オレだって言ったらどうします? って冗談……アレ可愛いですよね。オレも悠サンかと思って聞いたら生徒さんからのプレゼントって言ってましたよ」

「えっ?! 嘘だろ?」


 そんなしょーもない嘘つくわけ無いだろってナニもの凄い衝撃うけてんの悠サン。

 お茶の支度に手間取る紬衣のモフモフな後ろ姿のすらりと触り心地の良さそうな生足からしぶしぶ目を離して悠サンを見れば、え、顔ソレ青くない?


「ばッ……ば、馬鹿なの壱太くんってマジかそれ聞いてナニとも思わないとか」

「……なんで? 生徒から好かれるって良いじゃないですか」

 

 何そんな化け物見るみたいな目でオレのこと見てるよ悠サンどうした?


「知らないって恐ろしいな……紬衣の学校は私立の男子校だからだよッて、あークッソ生徒はノーマークだったしコレ大至急調べ上げないとまずい」

「え……って。そんな大人げないですよ」

「あの年頃の男子がナニを考えてんのか分かるよね? 俺らもそんなお年頃あったよね? そのうえ紬衣に目をつけるってどんだけマニアックで優秀なヤツだよってとこだよ。え、ナニその顔。うかうかしてたら紬衣ヤラれちゃうよ? 羨ましいことに教室とか準備室とか体育館倉庫とかナニなら屋上とか色々場所は選び放題ですよ?」

「……悠サンまじか。少しは紬衣チャンを信じるとか」

「無理矢理って言葉知ってる? あるいは有り得ないって思っていても紬衣がソイツのこと好きになる可能性だって全くナイわけじゃないんだよ」

「高校生ですよ?」

「じゃあ聞くけど壱太くんは高校生とヤレる? 俺はヤレる」

「ええ……なんか違くない?」


 コーヒーで良いですよねって言いながら紬衣が現れて笑顔でそれを受け取りながら一方で口を噤んだ悠サンを再び横目で見ればジトっと目が据わってるのはあー、うん気のせいじゃないよな。







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