4問目



さあ、ここで問題です。



 モフモフでふわふわの着ぐるみが登場した瞬間、それが良く知るキャラクターであっても子どもが恐怖に陥るのは、現実認識が未だ未発達である事が関係すると、考えられています。


 そこで「あの中には本当は人が入っている」という現実が認識出来るようになった大人は、現実と虚妄の区別がつかず混乱して恐怖を感じている子供に、どの様な対応をするのが正解か考えなさい。




……!



 ……あ、しまった。

 ウッカリしましたですよ。


 お礼にぎゅうとかいつもの悠ちゃんのノリで思わず壱太くんの見目麗しい御尊顔に失礼なことをって……アレ? い、い、い、壱太くん?? 


「ひゃッんっ……あッ」


 は、恥ずかしすぎますナニですか変な声でちゃいましたよって何故なら背中に回された壱太くんの両手がするりと自然に裾から入ってきたと思ったら撫で回しているソレ間違いですモフモフじゃなくてわたしの背中ッて、あッ……だ、駄目ですビクッとかしちゃいましたよナニですかコレはいわゆる入眠時ミオクローヌスって名称がついているヤツで短時間の筋肉収縮運動ってな訳ないですよ完璧起きてますしそれに……何でしょうゾクゾクしてもっと触って欲しいとか思ってしまった途端まるでソレが聞こえたみたいにべりべりッと剥がされました。


「……うどん、食べよう」


 ややッそうでしたね壱太くんが癒されるために触りたいのはモフモフでふわふわの縫いぐるみデシタよね中身の癖にチョット名残り惜しいとか思ってスミマセン。

 


「いただきます」


 両手を合わせてから早速ちゅるんと一口。

 壱太くんが作った美味しい白だしベースのお汁に便利な冷凍うどんをチンしてから程よくグツグツっとして卵で綴じたソレは凄く優しい壱太くんみたいな味がしますって言っても壱太くんのアレコレを口にした事はありませんが卵と冷凍うどんしかなかった女子力とはなんぞやと禅問答始めちゃいそうなウチの冷蔵庫よ。


 ふうふうと温かいうどんと鼻水を啜り上げるわたしの目の前に壱太くんのどストライク見目麗しな顔があると緊張して手が震えますって嘘です手は震えませんがツユの撥ねるのが気になります。


「紬衣チャン、ほっぺに撥ねてる」


 ふわっと笑って指先でソレ拭ってくれる壱太くんに思わず口開けてポッカーン見惚れてたら「見すぎ」って少し横を向いた壱太くんアレレ顔がチョット赤くないですか? もしやわたしの熱は知恵熱なんかじゃなくて流行性感冒症でうつっちゃいましたかね?


 箸を置いて壱太くんのおでこに手を当てたならばソレならコッチでしょってその手を取られてまたコツンとされちゃうとかイヤこれ夢でしょう都合の良い夢を見ているんです桃源郷とはやっぱりお出汁の香る部屋でケモ耳とセットなんですってオデコくっつけてる壱太くんの頭を見るかぎりケモ耳は生えてナイですねオカシイな。


「……壱太くん?」

「ん?」

「温かいうちに、うどんを食べたいのでスミマセンが手を離してください」

「……イヤだ」


 ?!?!?!??!!!


 イヤだ? なんでイヤなのか良く分からないわたしに分かるように説明してくれるとありがたいのですがって言い出せないこの雰囲気はナニですかってあ、そうか分かりましたよ右手だから左手に代えて貰えば良いんですねコレにて一件落着ーーッとなりませんよそのくらいはわたしでも分かるってモノですが困ってモジモジしていたら離してくれました成る程ちょっとイジワルがしたかったんですねってどうして男の子はイジワルするのでしょうそういう生き物なんでしょうか実に不思議ですソノ秘密をどなたか教えてください。


 またズルズルと啜り上げるうどんとわたしを見ている壱太くんが「紬衣チャンって髪はどこで切ってるの?」と聞くのでゴクリと麵を飲み込み答えました。


「小さい頃からずっと同じ実家近くの美容院ですよ」


 何故ならわたし如き人間が壱太くんのような見目麗しの殿方や華やかな女性でいっぱいの美容室なんて外から見るだけでガクブルなお店は敷居が高すぎて特注の梯子ハシゴがないと入れるわけがないんですよってちなみに近所の美容院の御歳九十を軽く超えているに違いない先生とか呼ばれてる白いフリル付きエプロンをお召しの妖怪みたいな女人が椅子に座るだけで言葉を交わすことなく問答無用で髪を切ってくれるアノ場所がわたしにはお似合いなんですって言ってもどこまでお似合いかは分かりませんがソレもコレも成人式は七五三みたいにだけはしないで欲しいと勇気を出して言ってみたら何てことでしょう千歳飴の代わりに黒革の手帳を持つ夜の蝶みたいな出来上がりに流石の悠ちゃんもドン引きでしたからって壱太くん笑い過ぎです。


 そのうえアノ山野愛子さんと一文字違いの『山縣愛子美容院』ってバーンと看板出してますからソレおそらく美空ひばりが青空ひばりと同じヤツで間違いありで間違いナイです。


「紬衣チャン、今度オレに髪切らせて」

「嫌です。って壱太くんが嫌なんじゃないですよ? わたしが壱太くんのお店には緊張して行けないだけです」

「ふッ……じゃあ、オレの部屋で。約束ね」


 ま、眩しい。

 微笑みを浮かべる壱太くんが眩しすぎてしっかりと目に焼き付けたいのに残念ながら良く見えませんって西日が差し込むから眩しいんでしたよテヘとか思わず微笑み返してしまったら壱太くんがわたしの髪に優しい手つきで触れ……イン、ター、ホン!!!


「あの、誰か来たみたいなので」


 って立ち上がりかけたら「オレが出るから紬衣チャンは、ちゃんとうどん食べきって」とすとんと座らせられてしまいましたよハイスミマセンです温かいうちに全てズルズルっと頂きます。


 まあ、来客といえば一人しか思い当たらないのでおそらく……。



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