3問目



さて、どうやら問題がある。



 ようやく自分の恋心らしきものを自覚したのは良いが、相手はこれまでの自分が培ってきた駆け引きの一切通じない純粋培養で育った変態です。


 これまでの常識が通じない相手を籠絡する方法を考えなさい。




……?


「……ッはーーぁ何だよ、アレ……」


 紬衣が浴室に消えた後、脱がせたスウェットを抱きしめ、ソファに背中を預けると溜め息を吐いた。


 なんだアノ可愛い生き物は反則すぎるし恥ずかしそうに心臓が痛いとか言ってんのナニそれそんなこと思うオレもイタイから。 

 ぁあーッもうそれに……。

 どかっ、どかっとソファに頭をぶつけて目を閉じる。


 思わず出来心で脱がせてみればまさかのキャミソール一枚ってどうなのってそれも何だよアノゆっるい取れそうなボロい肩紐いっそ指掛けて引きちぎりそうになったとかホントはあの白い肩に噛みついてついでに肩紐を歯で喰いちぎりたいとか一瞬でも思っちゃったオレってヤバくね? ええ、ええ理性を総動員しましたよ極めつけにはあんなに変態呼ばわりしていた悠サンの自制心なんだかヘタレっぷりかなんかを引き合いに出してぐっと堪えたりしてってコレでもオレすげー頑張ってますがナニか?


 ガックリと勢いよく顔を伏せてみれば紬衣が着ていたスウェットを無意識に嗅いでいるってなんだよあーヤバいわ汗の匂いもたまんないとか。


 ……変態ってウツるのか? 


 とかナニ考えてんだオレっていやいやナニはアレだよこれフツーの女相手だったらさっきの雰囲気からお互いにヤリますよね空気つくってなし崩しパターンでイケるんだけど紬衣には……無理だ。

 ここは一つ大人しく食事の支度でもして待ちますかと立ち上がれば早ッてもうシャワー浴びたのちょっと早くない? 


「紬衣チャン……髪、濡れたままだけど」

「えっと、あー……自然乾燥で大丈夫です」


 嘘だろソレ大丈夫じゃないしって思ったそばからポタポタ水が垂れるのをタオルでゴシゴシとかチョット待とうかの以前にナニそのルームウェアってオレのこと意識してんのか全く意識してナイのか分かんないケド意識なんてしてるわけないの知ってる真っ白なモコモコフワフワですっぽり身体の線なんて分からない癖にかろうじてちらりと見えなけりゃ穿いてナイのかと思わず期待させたお揃いのショートパンツからはスベスベな生足を惜しげもなくってあーもう捕獲だ、捕獲。


「ドライヤーはあるよね? 乾かしてあげるから貸してくれる?」


 ソファの前にちょこんと座らせて後ろからドライヤーをあてる。

 柔らかな髪の手触りを思わず楽しんでいるオレに「さすが美容師さんですね。すっごく気持ちいいです」ってウットリとかそりゃそうデショって調子に乗ろうとしたら……。


「自然乾燥って楽チンなのに悠ちゃんにも、いつも怒られるんです」

「……………………だよね」


 あの変態が紬衣の髪を触るチャンスを逃すわけなんてナイし乾かさない筈もないって分かっていてもムカつく。

 指で漉きながら顔を上げさせれば無防備に目を瞑っている紬衣の少し開いた唇がオレに誘いをかけてきているようにしか見えないのはソレ間違いなくおそらくオレの願望だからパクっとぬるっと喰いつくワケにはいかないって分かっているだけにツラい。


「ところで、そのルームウェア可愛いね」

「えへへ。プレゼントなんです」

「……あ、そう。悠サン?」


 ニッコニコの紬衣に思わず不機嫌な低い声でちゃったよオレそんなに小さいヤツだったかってアッチのサイズなら勿論って自慢しながらナニげに自ら晒していくタイプじゃないんですよハハハ。


「でへへ去年、生徒から貰った誕生日プレゼントなんです」


 不機嫌から一転。え、意外なんかちゃんと教師してんのねってオレ顔に出ていたみたいでプクッと頬膨らませるとかナニこの生き物きゃわ。

 ほっぺをプスっと指で潰せば「こう見えてもちゃんと先生なんですよ。頼りないかもしれませんが、紬衣ちゃんセンセーって呼んで仲良くしてくれるのが、嬉しくって」と言いながら照れてるの見てオレも照れるってどうしたオイ。


「モフモフで、ぎゅっとしたくなるフォルムだよね。縫いぐるみみたい。ぎゅうして貰ったら癒されそう……ってハイ、おしまい」


 髪を手櫛でさっと形づくれば、それだけで結構可愛いことに気づいてもっと似合う髪型にカットしてみたくなる。


「わーありがとうございます。手触りが違います。サラッサラだ〜気持ちいい。それでは壱太くんのリクエストで、お礼は縫いぐるみのモフモフのぎゅうで癒されてください」


 ……え?


 なんだコレなんなのソレぎゅっとオレのこと抱きしめてるってモフモフのふわふわの向こうにある紬衣の胸にオレが顔埋めてることになってんの本人気づいてナイとか大丈夫かとか言っておきながらその柔らかさ堪能させて頂きますって腕を背中に回してみれば華奢だなとか思いながら手が勝手にモフモフの内側のすべすべを触り始めちゃうのはオレじゃないからね手が勝手に……。


 …………ッ?!!

 ひゃッん……て言ったよね?


 なんなのソノ可愛い声もう脱がせて良いですか良いですよってことで良いんでしょうか……いや駄目だからオレの勝手に動いちゃってる手、少し落ち着こうなコレはあくまでも縫いぐるみで中には人が入っていないんだと思い込むんだ気持ちイイこの手触りの中身は滑らかで吸い付くようで掌浮かせて指の腹で触れるか触れないかな感じで優しく撫で回し続けてたら少しビクッとするところ発見して嬉しくなったりしてさらにはチョット汗ばんできたから脱が……さない。

 冗談じゃなくベリっと引き剥がす音が聞こえた気がした。

 

「……うどん、食べよう」


 うっわ何でもっと気の利いたこと言えないんだよってなんでか紬衣といると調子が狂うのはコレどうすんのってつまりは本気だからでショって面倒くせぇなどうしたオレ。





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