第三章 美容師の覚醒

1問目



さて、どうやら問題がある。


 ライバルに当たるかどうかは良く分からない男から、メッセージが届きました。

 内容は、たった一言不穏を告げるもので、どうやらその相手は自分が少なからず悪い感情を持っていないどころか、好意の方へと針が振れている女性のようです。


 既成事実があったのかどうか、また、それは無理矢理にではなく合意の上のものであったのか、創意工夫をして真実を導き出しなさい。




 玄関が開き、紬衣ゆえの顔を見て一瞬驚いてビクッとしたのは額に貼られた冷却シートってなんだソレ大丈夫か?

 いや、しかしここで怯んでる場合じゃなかった。あのゆうとかいう紬衣の幼馴染の変態からきたメッセージの真偽を確かめなくっちゃってナニ確かめてどーするよとかあるけどそりゃまあ心配するよね。


「……紬衣チャン。大丈夫? あー、こんなこと聞くのもアレなんだケドいや、まさかとは思うんだ……でも思い切って聞かせて。悠サンから無理ヤリとかないよね?」


「ん?」


 え? ナニその微妙な顔いやマジでナニかあったよねソレってやべぇな地雷踏んじゃいましたかって、ここではナニですからとかで家の中に上げてくれるとかソレやっぱり玄関先では話せない内容ってことなの?!


 悠サンのメッセージは夜遅く『俺、紬衣とシたから』とかって一言だけでナニしたのってソレはもう疑問持つまでもなくアレ一択だし変態を足して二で割るどころか掛け算しかないような悠サンにあってはイヤがる紬衣に無理矢理しかないでしょって嫌じゃなかったとか紬衣に言われたらムカつくけどソレ聞き出してオレはどうしたいんだよ。

 

「えーと。壱太いちたくんは、昨日のことを悠ちゃんに聞いたんですか?」


 ちょこんと座って首を傾げてってダメだ可愛いからオレ完全に落ちちゃってる? いや、まだ引き返すことは出来……ないな。


「ああ、うん。メッセでちょっと」


「あーえーうー……無理ヤリと言われれば、そうなようなそうではないような?」


 え? マジかなんだそれ。どういうこと?

「えっと……身体は大丈夫なの? い、痛いとか辛いとか」


「んー? 正直、少し気持ち良かったです」


「あ、そ、そうなんだ」


 ナニそれさすが変態だけあって上手いとか? 経験の差がモノをいうとかどんな経験をしてるのか知らないケドそれってどういう……いやいやナニ教えて貰おうとしちゃってんのよ。

 オレだって会ったばかりで無理ヤリ紬衣の唇奪っておいてこんなこと言えたギリじゃないって分かっているケドあれは真正の変態だからって……仮にも幼馴染の悪口は言えないよな。


「もしかしてって思ったらやっぱり仕事休んでるから、えっとそのイロイロありすぎて身体が辛いのかって思って」


 その瞬間、色白の紬衣がぶわっと赤く染まるのを見たオレは、もう色々と覚悟を決めるしかなかった。


「恥ずかしながら、知恵熱みたいです。まさか、悠ちゃんにキ、キスされるなんて思ってなくて……」


 は? 

 なんかヤバい。すげー胸が苦しい。

 それ以上は聞きたくないケドもうここまで聞いといて後は何も聞かないとかナイからってもしや悠サンこれ確実にヤッてる?


「あー……。えっ?! あ、あ、そう。キス?! されたんだ……ってソレから先は? なんて。あは、あはは」


「ふぇ? それだけ、ですよ?」


 よっしゃ! キタ何これ完全にオレのターンでしょ? つか悠サンあのメッセージはナイわ。てっきり紬衣ヤラれちゃったんだって思ったし。


「どうしたんですか?」


 思わず安堵したニヤける顔を紬衣から背けて咳払いなんかしちゃってんのねってコッチみないでください可愛いからって息できないし息してないしオレこれ何どうしたトリアージだったら真っ黒って死んでるわ。


「や、何でもナイ。それより紬衣ちゃん寝てなくて大丈夫?」


「あはは。壱太くんの顔見たら、元気になっちゃいました」


 なんだそれどんな呪文だよオレまで顔赤くなったしってあーあ、もう駄目だ抗うのをやめたら楽になった。

 オレはおそらく紬衣が好きだ。


「悠サンと……付き合うの?」

「え? 付き合うって……それって恋人になるとかってことですよね?」

「あー、うん。だね」


 紬衣はちょっと首を傾げると、何か考えるように唇に指を当てている。


「どうなんでしょう? いきなりこれまでの関係を変えるっていうのも難しくて……それに好きとは言われたのですが、お付き合いのことは何も言ってなかったから……良く分からないです」

「紬衣チャンは、悠サンのこと好き?」


 答えを聞くくらい、そんなのたいした話じゃないし紬衣を好きなことを自覚したばかりだというのに、心臓が早鐘を打つのが分かって思わず苦笑いが溢れた。


「……好き? 幼馴染として好きですけど、これまでそんな目で見たことがなかったから」


 そこでまた紬衣が身体を赤く染めたのを見たオレは、箍が外れてしまって気づいた時には紬衣の腕を掴んで引き寄せていた。


「ねぇ、オレを好きになってよ。そしたら、もうすでにオレも紬衣チャンで妄想どころじゃないって、教えてあげるから」


 小さくて柔らかな紬衣の身体を胸に抱き寄せて、耳元で囁く。

 そのまま片方の腕を回し髪に顔を埋めれば、ビクッと紬衣の身体が反応したことにまた胸が苦しくなって、掴んでいた手を離して両腕の中に閉じ込める。


 ……………?


 その後のあまりの反応の無さに顔を上げて紬衣を抱き起こしてみれば、くったりと気を失ってるとかってマジですかキャパ越えたとか。






 

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