8問目
さあ、ここで問題です。
恋を伴わない唯の幼馴染と思っていた相手が、どうやら筒井筒の仲にまで持っていこうと画策しているようでありますが一体それはどの様なものであるか想像出来得る範囲内で答えなさい。
……。
「悠ちゃん? 今日はホントにどうしたんですか? 悪いモノでも食べました? ソレとも悪いモノにでも取り憑かれてませんか?」
「え? ナニが? いつもと同じだろ」
まさか感じてないんですか、この痛いほど悪意に満ちた視線を……ってそのナニが痛いって、いつもよりちょっと無駄に贅沢な当人比率30パーセント増な悠ちゃんのそのキラキラした王子さまのような笑顔に擦れ違う街の人が横にいるだけのわたしに向ける視線が痛いんですよ。間違いなく視線でもって殺しにかかってきてますからってホラいまもまた綺麗なお姉さんから舌打ちされましたよヒェ。
それに、お昼食べた後にお散歩?
いつもだったら「お腹いっぱいだから紬衣んちで休ませて」とか言う人が、お散歩ってナニですかそれ犬じゃないんですからって言ったらじゃあリードの代わりに手を繋ぐかっていや、前前前世……じゃなかった全然全部違いますよオカシイくらいに悠ちゃんじゃないみたいですってもしやUFOにアブダクションされたとかですか? んー? とするとあの時のおネエさんが異星人だったとかアリです有り得ます確かに人間離れした規格の違う美しさがありましたよねって。
「どこに向かって歩いているんですか? わたし目的や目標がないと歩くの苦手なんですって……悠ちゃん知ってますよね?」
何故なら昔から悠ちゃんと歩いていると、幼稚園の頃は髪を引っ張られ小学生になれば小石を投げられ中学生になってからは学校の行き帰りだけ一緒なのに違うところで足を引っ掛けられ高校生になったら透明になれる魔法が使えるようになっていたのにって……こんな時こそ使うべきその魔法はどこイッちゃったんですかね?
「……紬衣、それ全部聞こえてるからって、ソレでも俺は紬衣が誰からも見えてなくても、俺には紬衣しか見えてないからってホラあれだよ、う、うん、運命……って聞いてる?!」
「見えていて見えないモノって
いッ痛い、痛いです悠ちゃん。そんなに強く手を握らないで下さいリードだったら首しまってますから。もっと優しくて下さいって悠ちゃんに言ったら顔なんでそんなにイキナリ真っ赤になるんですか勝手にナニ想像しましたソレ相手はわたしとか血迷ってますよって今日の悠ちゃんは全く良く分かりません。
「これから行くのはさ。ほら、あの公園だよ。な、もう着くって」
「あのって、どこですか?」
「小さい頃、良く二人で行っただろ。ボートに乗れる池があって、遊具があって、小さな動物に触れてさ。紬衣、好きだったじゃん」
ああ、あの公園ですか。
確かに懐かしい場所ですよね。小動物が苦手なわたしに嫌がらせをしていたこともボートから落ちそうになったことも思い出フィルターでイロイロ補正されているようですが確かに幼い頃には悠ちゃんとおじさまの三人で良く遊びに行きましたねって正しい人数は三人ですよ悠ちゃん算数ニガてですか?
「でも、確かにこうしてお散歩するのは楽しいです。そう言えば、小さい頃は悠ちゃん女の子みたいに可愛いくて泣き虫でしたよね。手を繋いでくれなくちゃ嫌だって泣いたり。オヤツは、あーんってしてくれないと食べられないって泣いたり。お医者さんごっこは、絶対に患者さんをしてくれないし、やたらと触診の多いことにわたしが怒ったらすぐに泣いてってアレ?」
「……紬衣、ちょっと黙って歩こうか?」
「あ、あのお店のパン好き。懐かしい場所を歩いているとイロイロ思い出しますね、悠ちゃん」
幼稚園、小学校と放課後になると人見知りの悠ちゃんは決まってわたしと二人だけで遊ぶのだと悲劇のヒロインばりに美しい涙をポロポロと溢し泣いて脅しをかけてくるので悠ちゃんのアザとさをソレと知らない見かねた周りの大人がその可愛さもあってか毎日は流石に嫌だと言うわたしを無視して平日も休みの日も無く悠ちゃんの家に連れて行かれては遊んでいましたね。
楽しくなかった訳ではありませんが、その遊びはお医者さんごっこか歯医者さんごっこの頻度が多くいつも患者さんはわたしという理不尽な決まり事がありましたっけ。
それなのに中学生になって少ししてから高校卒業までは千切れんばかりの勢いで掌を返したように極端な出入り禁止にって……あ、そうでしたあの頃の悠ちゃんは女の子に対する人見知りが治ったことによる反動で誰がどの子か名前も間違えてしまうくらいの不特定多数の自分が彼女だと言い張る女の子達と遊ぶのに忙しくてわたしとの接点はそこだけは今と変わらない矢鱈とレスポンスの早さを求めてくる毎日の濃すぎる電話やメールでしたよねって。
なるほど、こうして振り返ってみると良く分かりますね。悠ちゃんは極度な寂しがり屋さんでしたか。
「ち、ちッ違う。いや、ちょいちょい合ってるところもあるけどって違うから。そもそもソレ誰一人として彼女じゃないし、ナニしろその頃は性春まっサカリで逆に紬衣の側には居られなかっただけだってゆーの? ……それと、あと正直に言えば……紬衣にヤキモチを妬いて欲しかったんだよ」
「え? ……なんで?」
「なんで?! なんでってソレ聞くんだ?」
悠ちゃんの放った冷たく聞こえるそのひと言で、周囲の空気がピリっとしました。
驚いて見れば鋭い目つきをした悠ちゃんが、わたしをじっと見つめています。
ええ……っ?
ゆ、悠ちゃん? イキナリどうしましたか? いつも突然押される、そのオーダーメイドなヤル気スイッチがドコにあるのかを教えて欲しいくらいですって手、手をそんなに強く引っ張られたら痛いですからって、悠ちゃん?
無言で険しい横顔をした怒ったような悠ちゃんに、半ば強引に手を引くようにして連れて来られた懐かしい公園のその入り口からは、昔ボートに乗った頃と変わらない池がちらと見えます。
そのまま池の周囲にあるベンチの方まで連れて行かれたわたしは、気づけば辺りに林立する中でいちばん太い木の幹に背をぐっと押し付けられた格好で、そこに覆い被さるような姿勢でわたしを見つめる悠ちゃんを恐るおそる見上げていましたって何故?
「……紬衣」と名前を呼ぶ、真剣な眼差しとその切なそうな顔と声に思わずびくりと身体が震えます。
思わず目を逸らした途端に感じる背中に当たる痛いほどの木の幹の硬さが、わたしがその場から逃げようとしている所為だとしたら、それはどうしてでしょう。
「なあ……いい加減、気づけよ」
「えっ……。ど、どうしたんですか? 気づくって? ……ゆ、悠ちゃんが偽物だってことですか? う、嘘。目の前に居るのはホントに悠ちゃんではなくって悠ちゃんにソックリな宇宙人でわたしのこと騙してるってことですってそうなの?」
「それって俺が別人みたいだって言いたいんだろ? マジか……ふふッ。あーやばいって紬衣、すげー可愛い」
た、大変です悠ちゃんが優しく笑って、わたしを可愛いって言いましたよ?
マジかってナニですか。
「あ……えッ? と。そ、そうだスイッチ。……す、スイッチですよ。いつもの悠ちゃんに切り替えるには、おそらく多分きっとそのスイッチが重要なんですって」
コレは憂慮すべき緊急事態応急対策拠点に唐変木が必要な西高東低ですってパニックに駆られて意味不明な言葉以外ナニも思い浮かびませんがナニが言いたいかってこの悠ちゃんはわたしの知る悠ちゃんではありません。
ってコレはおそらく冗談じゃなくてアブダクションされた悠ちゃんであのオネエさんにずっぽり埋め込まれちゃったのは金属製のナニですかソレとも別のナニですかって女神さま目の前の池からザバァーっと出てきて問い質しませんよね? ってアレもナニも落としてないからソレはないです。
いや、ここに来てまさかの双子だったとか?
でもやっぱり悠ちゃんはわたしの知る限り一人っ子ですからソックリすぎる別人に入れ替わっても間違いなく双子じゃないですってわたし下手くそな手品でも騙されちゃうのにソレ言い切れる自信ありますかイエないですってコトは双子の可能性は無きにしも非ずとかって言ってる場合じゃないんですよ。
だとすれば悠ちゃんの、このしなやかな手触りの身体のどこかに埋め込まれた金属製のスイッチがある筈なんです。
「なあ紬衣、さっきから身体撫でまわしてソレ煽ってるから……ってところでスイッチってナニ?」
撫でまわす?
心外ですよナニならハジメテの男性の身体の手触りに正直若干夢中になっている感は否めませんがコレでも真剣にわたしは悠ちゃんを正しく戻す為の小さなスイッチを探しているんですレバーなんかじゃなくて……って。
「ん……ぁソレやばい」
その甘い声色に、はっと見上げれば悠ちゃんの小さく綻んだ唇からは微かに溜息が漏れ、少し潤んで濡れた目は、わたしをじっと見つめているって嘘どうしていったいナニが起きているんでしょう。
おもむろに悠ちゃんはスイッチを探していたその両手を掴み上げると木の幹に背中を預けるわたしに、そのままゆっくり
「紬衣……」
……あ、アレ?
わたしのゾクゾクする背中とお尻に当たるのは太い木の幹ですが、
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