4問目
さあ、ここで問題です。
恋にまつわるエトセトラを個人授業してくれるという言葉通り拾いモノの見目麗しき男性が、約束どおり貴女の部屋に訪れています。ところが部屋には幼馴染が居て、このままではこれから行われるとされる個人授業の様相が掴めません。
恋愛指南をする際に、当人同士以外の第三者の介入はどんな因果的効果を
……。
「壱太くん、幼馴染の
「……どーも」
「こんばんは。飲み物持って来た。それから……コレ、
「ありがとうございます。こっちも見ても良いですか? わぁ〜レ・カカオのショコラ詰め合わせですねって……でも良いのかな? 壱太くんが頂いたプレゼントなのに、わたしが食べちゃって」
「大丈夫。コレくれた人、オレがどうしようと気にしない人だから紬衣チャンさえ良ければ食べて」
「ありがとうございます。チョコレート大好きなんです。……でしたら、お言葉に甘えて皆んなで頂いちゃいましょうか。そうしたら壱太くんも次その方にお会いした時に、食べた感想も、お礼も言えますものねってわたしズルいかな」
あははって……見れば悠ちゃん、その顔どうしました? 壱太くんが部屋の中に入って来て改めてましてのお互いの紹介の最中からさっそく人見知り発揮ですか? もう、悠ちゃんたら。お友達になりたいって言ってたのにそんなに睨んでいてはダメじゃないですか。
「取り敢えず、座らない?」
ソファに向かってすたすたと歩く悠ちゃんの背中にブリザードが見えたのは錯覚でしょうか……もしやソレってこれがウワサの霞目とやらですか? お肌の曲がり角のひとつ目は千鳥足で過ぎましたがまだ全然そんなお年頃じゃないんですけどおかしいなって。
「凄いな。コレ、紬衣チャンが用意してくれたの?」
ソファ前のローテーブルに並ぶ、おつまみに目を輝かせた壱太くん。もしかしなくてもお腹空いてるんですね。そう言えば仕事終わったまま来るって言ってましたし今日は土曜日で忙しかっただろうからお昼ご飯も食べてナイっぽいですのに、わたしの休日に合わせてくれたんですかってそんな自分にばかり都合の良い期待は妄想だけに留めておかないとイケないんでした。わたしごときが見目麗しの御仁とお友達になれただけでも僥倖でありますのに調子に乗りすぎるのは禁物なんですよ。そうじゃないとこのままでは辻褄を合わせるために玄関出たら雷に打たれることになりかねませんってソレより……。
「……『用意』という曖昧で優しい言葉が匂わせていらっしゃる辺り、おそらく壱太くんの導き出した推測は間違ってません。わたしがしたのは並べただけで、作ったのは悠ちゃんです。悠ちゃんも壱太くんに会うの楽しみにしてたんですよね?」
「ち……ッ違う! あ、いや作ったのは俺だけど」
おや? 壱太くんが、にっこり笑って悠ちゃんを見てます。な、なんでしょう二人の間に漂っている剣呑な空気は……見ているこっちまでドキドキしてしまうあの意味深な笑みコレがもしや恋愛に発展する二人を目の当たりにしているというヤツですか?
……ハッ! だから、だからですね?! 悠ちゃんも一緒にどうですかと壱太くんが誘ったのは恋愛が分からないわたしの為に目の前で体当たり的に実践してみせるとかいうんですねそうですよねってそうなのかな。
「と、取り敢えずナニか飲みながら軽く映画でも観ませんか? ゲームはその後にでも」
ああゴメンなさい初心者のわたしに、このピリピリした感じはどうも居た堪れません。しかし恋の始まりはイッパツ触発ってヤツなんですねって、ん? ソレじゃまるで危険に挑んでいるように見せかけて実は見せつけられているのは単に崖の上から筋骨隆々のテラテラした身体に白い歯をキラリと見せた二人が伸ばし合ったお互いの手をガッチリ掴んで叫び合うことでしか確かめられないお約束のナニかのようになってしまいますねって最近は観ないですケド正しくはファイトなイッパツではなくて一触即発でしたねスミマセン。
飲み物を取りに行くフリをしてその場から逃げるようにして立ち去るものの好奇心は抑えきれず、ちらと振り返ったら二人掛けソファの両端に身体をくっつけるように横並びになる二人の絵になることったらコレって……やっぱりそういうことなんですよね? ソレならソレでまぁ良いか眼福眼福ナニは無くとも拝んでおきます。ナムナム。
「最初は壱太くんが持って来てくれたビールで良いですか? 冷蔵庫にはレモンサワーとか白ワインもありますよ」
「ビールにしようかな」
「紬衣は?」
「わたしはレモンサワーにします。悠ちゃんはどうします?」
「……ビールかな」
飲み物が揃ったところでカンパイです。お誕生日席に座るなんて人生初めてかもしれませんナニなら友達が悠ちゃんしか居なかったわたしは、誕生日にだってこんな特等席に座ったことがないんですから。とはいえまあ、テーブルが楕円形なんでこの物言いは正しくナイかもしれませんが。
ゴクゴク飲んでぷはッとそこでナニやら視界の隅に動くモノを感じてふと見れば向こうに座る悠ちゃんが、よく分からないジェスチャーを送ってきています。え? ナニその落語でよく見る蕎麦啜る箸の上げ下ろしみたいなやつ。
お蕎麦が食べたい? 凄い勢いよく?
首を傾げているとその様子に気づいた壱太くんが、わたしと悠ちゃんを交互に見た後ぶほッと吹き出した次の瞬間、爆笑しながら教えてくれました。
「くくくっ。ゆ、紬衣チャン……悠ちゃんサンは多分、部屋着のそれ、パーカーのファスナーを全部閉めろって言ってるっぽい……今日はこの前と違って見えてないのにね?」
「……?! なッ……あ、アレ見たのかよ? 嘘だろってオイ紬衣ッ」
悠ちゃん、そうは言っても見せてしまったものは仕方がないんですよ。今更あの日に戻ってヤリ直すことなんて出来ないんですからってそれより日頃のダラシなさを知る悠ちゃんに気をつけるように言われていたのにマルっと壱太くんに見せてしまったのを誤魔化していたことがバレちゃいましたか。えへ。まあソレでも壱太くんのそのような悪戯そうな笑顔が見れるならナニなら今だってファスナー全部開け放してしまいたいくらいですからって安心して下さい残念なことに今日は普通に中に着てましたね。
「壱太くん、どの映画にしますか?」
「笑えるヤツか、アクション系? まあ……意外とこの3人でベタな恋愛モノみてもイロイロ知れて良いかも。悠サンは苦手とかありますか?」
「……ない」
「嘘ですよ。悠ちゃんはオバケが怖いからホラーは苦手なんですよね?」
「馬鹿だな。それは紬衣に……って何でもない。そう……うん。ホラーは無しにしよう」
なんだかんだと言いながらオバケ映画からシフトを変えてお馬鹿映画を選んだのは真剣に映画を観るつもりはナイからとは知りませんでした。ならばつまりコレは会話が途切れた時に気まずくならないようにテレビに映るモノを見ながら他愛のナイ話をしてお互いを
とはいえこの歳にしてハジメテ知る家での映画鑑賞のお作法とはそうかそうなんだと油断してたら本当に目から鱗が落ちましたって落ちたのこれコンタクトレンズだったデスあはは。
「知りませんでした。こうして一緒にどうでもいい適当な映画観ながらお部屋でお喋りって楽しいんですね。ってそう言えば、わたし悠ちゃん以外の誰かと遊んだことなかったなって……あれ? 冷静になって良く考えると、やっぱりソレって変……」
「変だね」
「変じゃない!!」
変だ変じゃないと壱太くんと悠ちゃんがナニやらお話をしているのを聞いているうちに睡魔がスイマーの如く凄い勢いで泳いでわたしに向かって来ているのですがソレって溺れそうなわたしを助ける為なのか沈ませようとしているのかを考えながら必死に耐えています。
妄想するに睡魔はピチピチの黒パンツが似合いそうだしライフセーバーのお兄さんみたいなビキニな赤パン履かないだろうからやっぱり沈ませに来てるんですよってアレは青パンだったかな? ともあれ変態であるわたしは
……ぐぅ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます