3問目



それでは、問題です。



 思わず『脱ごうか』なんて売れなくなったタレントのするようなことを口走ってしまった後で、果たしてそれが需要と供給のバランスに合致しているかどうか需要曲線と供給曲線の描くその交点を探しています。


 需要を紬衣ゆえの理想、供給を現実の肉体と置き換えた場合に、つかなくなった引っ込みを有耶無耶にすることなくこのまま走り抜けた先にある均衡点が自分の身体である確率を求めなさい。



 ……。


 って思わず言ったけど恥ずかしすぎてヤバいから紬衣の妄想と俺の身体ってどうやって比べんだよってここ冷静になったら負けだから走り抜けるしかないから。いや、いっそのこと押し倒しちゃう? とか? だけど紬衣とのハジメテとソレからを十年以上繰り返し散々妄想しまくっている俺の中でのベストスリーに無理矢理押し倒してからの凌辱モノは入ってないなって……アレ? 

 紬衣? 

 ……もしかして俺のこと意識してないか?


「なんで顔、赤いの? 紬衣?」

「えっ? ……あ。み、見ないでください」

「……やだ。見せてよ。こっち向いて?」


 紬衣の腕を掴んでこっちに向かせようとするも恥じらうように顔を背けてるってこんな紬衣初めてだよ可愛いどうしよう下半身がアップを始めたようですってもうコレ脱ぐわけにいかなくなってきた、いや違う違くないんじゃないか? いっそモロモロすっ飛ばして確実にコレ脱ぎ時だよねって思えてきた。

 それよりまず……もっと見たい。


「……紬衣ゆえ

「あ……」


 !!! 


 イン、ター、ホン!! って……全力で逃げられたから腕振り払らわれたからナニ気にショックだし脱ぐ前の脱がせたいこれからって時にピンポン押したの誰だよ荷物は女の子一人暮らしなんだから宅配ボックスなけりゃ置き配でしょ? てか管理人居ないのかよ常駐じゃないのこのマンションさすがエレベーターなしの格安物件だから階段で男拾っちゃうんだよ……。


「……荷物?」

「あ、部屋番号間違いです」


 くっ……。

 見れば紬衣は、すっかりいつも通りの顔をしていてアレは夢幻だったんだろうか、だがしかし、脳内にインプットされたあの恥じらう紬衣にはこれから繰り返し妄想内に出演してもらいたいナニなら早速ちょっと席を立たせて下さいあの一瞬の紬衣の表情の細部まで洩らすことなく視空間的短期記憶を定着させる為には運動と知的作業の2つを同時に行なう必要があるのだってことはつまりソレは忘れないために……。


「紬衣、トイレ貸りるわ」

「悠ちゃんてホントお腹弱いですよね」


 紬衣の声を背中にいそいそとトイレへ急ぐ俺がやや前屈みであることは言わずもがなってやつだし紬衣と一緒に居るとトイレの回数が増えることはソレは俺が俺である為に勝ち続けなきゃイケないって……ナニに勝つかってそりゃ紬衣を襲わないための性欲だよね正しいモノはナニなのかはそれぞれだけどザックリ言えば紬衣が使っているトイレってだけであれこれ妄想してイケる。


 ……。


 さて、気を取り直して。

 部屋に戻れば紬衣がスマホに向かってニヤニヤしているところに出会でくわしたってことはアレだあの男だな。


「仕事が終わったとか?」


「あ、悠ちゃん。お腹は大丈夫ですか? 結構長い間入ってたみたいですけど。今日はもう帰った方が良いんじゃないかなぁ、なんて……あ、そうですかハイ」


 帰らせようとしているらしいが、そう簡単にはイかないから。

 部屋の時計を見れば二十時を過ぎたばかりって仕事終わりで真っ直ぐ来るんだ何だよマジですかソレどっかで時間潰せよナニならアシスタントとかに可愛い子いるだろうから、ご飯食べがてら違うモノも頂いちゃうくらいの流れでコッチのことは忘れちゃって全然良いのに。


「じゃあせっかくだし、一緒に軽いつまみでも作るか?」

「……仕方ないですね。悠ちゃんがそこまで言うなら、居てもいいですよ?」


 ガッツリ掴んだ紬衣の胃袋だけは、渡さないってソレ以外の外部も内部も渡したくないけど。

 取り敢えずこの前作った作り置きの鶏ささみ肉とインゲンのピリっと辛い胡麻和え。トルティーヤチップスがあるからアボカド皮が真っ黒な柔らかくなりすぎのをマッシュしてパルメザンチーズとマヨネーズで和えた所にレモン汁足して簡単ディップ。あ、冷蔵庫にセロリの浅漬けが残ってたからコレはそのまま出そう。それとプチトマトのマリネとクリームチーズで良いや。


「わぁい、アボカドディップ好き。悠ちゃんってホント良いお嫁さんになれると思います。あと甘いモノがあれば言うことないですね」


「……良いけど甘いの食べるのって多分、紬衣だけだろ?」

「壱太くんも、甘いの好きって言ってましたよ?」


 ふーん? ナニそのイラねぇ情報。バニラアイスにコーヒーリキュールぶっかけるでソレ充分だなっていつそんな話するわけ何時何分何秒地球が何回まわった時に紬衣とそんな話してんの? 


「……あの男と連絡とか結構ヤリ取りしてるわけ?」

「んー? チョット味見を……」

「えッ?!」


 ぎょっとして顔を上げれば、アボカドディップに指を入れて掬い上げたソレを俺の方を見ながら舐める紬衣の濡れた舌先やその窄めた唇の動きに生唾を……飲み込んでる場合じゃないから。まさか壱太とやらに味見されてるとか言わないよな。


「……? 悠ちゃん? 壱太くんの味見って何ですか? やっぱり……悠ちゃんは壱太くんが気になるんですね。大丈夫ですよ? わたしとは時々メッセージのやり取りするくらいで……あ、たまに電話して話すかな。顔をちゃんと合わせるのはあの日から今日がハジメテなんです。きっと悠ちゃんも連絡先交換したらすぐ仲良くなれますよ」


 メッセージも電話もナニそれ初耳なんですけどってことはアレだよね? 平日も休日も俺ほぼほぼ毎日、紬衣と会ったり電話したりしてるよね? 本気出すために紬衣にも分かりやすくセフレを切った今さすがにもう自制が効かなくなりそうだからって最近お泊まりナシで我慢の限界から来るソロ活動にも励みすぎたケド紬衣が二人居るんでなけりゃ……二人居たら二人とも俺のモノだけどソレよりナニより俺が紬衣の毎日のってソレのみならずありとあらゆる最初と最後の男のハズが嘘だろ寝る前の紬衣を共有してたってこと? 

 

 お友達って良いですよねってこっち見てにっこり笑ってるけど俺が仲良くナニもかもしたいのは紬衣だけだから気づけよ気づいて下さいよナニしろタイミングを計り間違え……お友達?! 今、紬衣言ったよね? お友達って、あははははッ。そうだよ、紬衣のハジメテのお友達。それすら気に食わないが今のところお友達認定されてるなら許してやるかって……ん?


 今のところって……。

 

 自分で言った台詞に血の気が下がる俺にトドメを刺すかのような部屋ドア前のインターホンの音ってことは、つまり?

 

 ああ、来たんだ?

 



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