2問目
さあ、ここで問題です。
ついこの間、落ちていたところを酔いに任せて拾い上げた、どストライク見目麗しの御仁からの何してるの? というメッセージに『幼馴染の悠ちゃんと部屋に居ます』と返信した後、シャンプーを食べているスタンプが届きました。
彼が美容師であることを踏まえ、それがどういう意味合いを持つものか適切な比喩表現を用いて答えなさい。
……。
「この絵、口から泡ふいてますね?」
「泡、食ってんだろ」
ふーむ。悠ちゃんの言う通り『泡を食う』として用いているのならばアレですねって、言っても悠ちゃんとわたしが一緒に居ることに何を驚くことがあるのでしょうね。では、慌ててる? とか? 何で? そもそも何を慌てる要素があるのか、そちらも良く分かりません。それに悠ちゃん以外の人とこうして個人的なやり取りをすることなんて何しろ殆ど初めてと言って良いくらいですから突然このような判じ物を送ってこられても、わたしが知っているスタンプなんて了解しました反省してますお疲れ様くらいの
おきゃあがれこの判じ物スタンプはいってぇぜんてェ何の意味があるってぇこちとらチャキチャキの江戸っ子じゃあるめえしトンと分かりゃしねえってべらんめえな言葉遣いにいきなり変えてみたところでこのような高度なスタンプが判るんでしたら苦労しないのですが……え? スタンプって判じ絵みたいなモノじゃないの? 鈴に眼玉がついた絵で、雀みたいな。違う? じゃあそれならコレ脈絡ないんだからふつうに考えてシャンプーの泡が口に入っちゃった報告じゃないのかな? その報告も謎だけど……って何、悠ちゃん、その好奇心に負けてドリアンの臭いを初めて嗅いだ子供みたいな顔はどうしたんですか?
「あー、そうだな。そうそう。うん」
「そのお手本のような棒読み一本調子は全然そんなこと思ってないよね悠ちゃん?」
「思ってる、思ってる。シャンプー食べたんだって思ってます。ってか……ごめんな俺のせいとはいえ、初めて紬衣のこと不憫に思っちゃったし。なんつーか却ってその素直さがスゲー刺さる。紬衣やっぱ、俺だけで良くない?」
何を言っているのかその感じ全く持っていまいち納得出来ませんが、悠ちゃんのコメントは無視して取り敢えず壱太くんがお腹壊さないと良いなと思います。
「あ、またメッセージが届きました」
「今度は、ナニ?」
「良かったら悠ちゃんも一緒にどうですかって、言ってますよ?」
「マジですか? いきなり三人ってどんだけ上級者なんだよ、
その瞬間、悠ちゃんがナニを勘違いして想像して妄想して期待しているのか分かってしまいましたが付け焼き刃の恥じらいとやらを総動員して知りませんナンて今更すぎてソレはもう、わたしではありませんねってだったら誰なんだと聞かれても知りませんがズバリ言わせて下さい。
「悠ちゃん。まさか、あわよくば壱太くんを
ってアレ? 待って下さい。悠ちゃんはタチかネコかどちらかと言うとネコじゃなかったんですか? そしたらアレですよね壱太くんの方から攻めて貰わないとってスミマセン踏み込み過ぎました変態ゆえに妄想猛々しく調子に乗りすぎてしまいました。そうです……ゆえと紬衣は掛けてます。ははは。
見ればワナワナと小刻みに震えてる悠ちゃん。アラま、もしかしてナニかを思い出させましたか? 怒ってる? 笑ってるんだよね? 泣いてはいないことが確認出来ただけ良かったです。
さて、とにかく三人で飲みながら映画を観るかゲームでもしようということになりましたが、悠ちゃんなぜそこで遠慮という漢字二文字を思い出すなり気を使って後は若い者同士二人きりにさせるとかいう
ナニならこっちは出張先のトラブルで予期せず一泊をすることになったと思ったら嘘でしょシングルの一つしか部屋ないんですかヤベぇコレって
ハッ。そうだった。女の子どころか男の子も寄ってくる突っ込む前から入れ食い状態の悠ちゃんは、そんなファンタジーフラグって夢見たことも無いんですよね。知らないって怖いですよね夢見る恋愛は実はホラーなんですごめん、ごめんね悠ちゃん。
そうじゃなかったら、やっぱりわたしが思っていたように……。
「紬衣、お前が今ナニ考えてるのか手に取るように分かるから言うけど、ソレ違うから。興味があるのは三人でとか壱太とか言うその男じゃなくて、俺がイロイロあれでソレなのは、ハジメテのゆ……ゆ、ゆ、ゆ」
「……? ハジメテ? ゆ?」
「ハジメは、ゆ、ゆっくりじっくりお互い知り合った方が……」
「なるほど悠ちゃんは、最初お互い二人きりで壱太くんとじっくり尻開いた……って……えっ、悠ちゃんどうして睨むんですかって何でそう云う時ばかり勘が良いんですか」
全くもう危ないあぶない。溢れんばかりの妄想でついに文字を具象化する能力を手に入れたのかと思いましたよ。どうせなら具体化する能力を手に入れて理想的な殿方の裸体を好きなように撫で回し……って、声に出ていましたね。
「……紬衣。だったら俺さ、脱ごうか?」
え? ナニ?
突然、悠ちゃんの顔つきが変わりました。
ええっ、ちょッちょっと待って下さい不意打ちは卑怯です。どこにその完全オーダーメイドなヤル気スイッチを押すタイミングがあったのかわたしには見当もつきませんが思わず背筋がぞくりとする鋭い目つきで覗き込むようにして身体をゆっくりと寄せて来るのはヤメて。そんな眼で見られては目を逸らしたくても出来ませんから。それに、どうしてでしょう? 何故かいつもとは違って別人に見えるなんて口が裂けても言えません……って背中にファスナー付いたりするとか違う人じゃないよね悠ちゃんだよね?
「えっ……ソレって、わたしの為にひと肌脱いでくれるってヤツですよね? あはは。もう、悠ちゃんたら驚かさないで下さい」危うくそのまま受け取るところでした。
……あれれ?
「そうじゃない……紬衣の理想って何だよ。まずは妄想と実物の俺とを比べて見たら良いんじゃないの? いーよ、なんなら実際に触ってみれば?」
悠ちゃんが、じりじりと距離を詰めて来ます。わたしの頭の中は、ぐるぐると走馬灯のように幼い頃からの悠ちゃんが少しずつ成長しながら真っ裸で駆け巡ります。確かに、ついこの間お風呂の着替えの最中にこっそりと覗き見して情報を固定化し記憶想起する際の
え? 脱ぐ?
文字通り服を脱ぐってコト?
……悠ちゃん?
もしかしてコレって何かの冗談だったりしますか?
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