第二章 幼馴染の逆襲(拗らせ男子の正しい言い訳の使い方講座)
1問目
それでは、問題です。
目の前には、誰にも触れさせないようにと長年、大切に慈しんできた人がいます。
ところが最近になって、どうやら何処の馬の骨とも分からない奴に、その可憐な蕾のような唇を奪われてしまいました。その男の他の部分が馬並みかどうかは知りたくも有りませんが、顔は馬どころか男から見ても羨ましいくらいの整い具合を目の当たりにして、余計に胸が悪くなります。
さてそこで『馬に蹴られて死んでしまえ』と云う言葉がありますが、どんな意味があるのか答えなさい。また、この場合、蹴られてしまうのはどちらになるか文脈から想像して答えなさい。
……。
「なあ、
「ん? もしや
「え? なんだよ?」
「こんな目の前に
「あー……う、うん?」
おそらく幼馴染三角関係は、間違ってはいない。ただ、紬衣が思っているのとは矢印の向きが違うだけでって言いたいのに言えないのは言ったら紬衣のこと更なるおかしな誤解を生みそうだからだ。
しかしまぁ、あの男の休日が紬衣と一緒じゃなくてホント良かった。
土曜日の俺の仕事終わりに紬衣の部屋で夕飯を一緒に食べた後、こうして肩と肩を触れ合わせてるけど出来ることならあわよくばもう少しくっつきたい。しかし、くっつき過ぎるとモロモロ顕になるオトコの事情もイロイロあるがそんなの今更ナニなら既に……ってヨシ今だコレどさくさに紛れてこうして背後から手を腰に回し……っ。
「ちょっと悠ちゃん。くすぐったいです。怖くてくっつきたいのは分かりますが、怖がりのくせにホラー映画なんて何でコレ選んだんですか?」
「……ん? んー。紬衣、ぎゅっとして?」
仕方ないなぁ、って何ソレ可愛い。唇尖らせたその顔、襲いたい。襲いたいけれど、そんなことしたら全てが一瞬で終わるのは目に見えているって言っても一瞬で終わるのは俺のアレじゃないから、と一応念のために言っておきたいがその本人を目の前にやっぱりナニですか駄目かもしれんとそこで弱気になるなしっかりするんだ、俺。
とはいえ紬衣がぎゅっと握ってくれているのは、残念ながら俺の左手であるから終わるもナニも全く少しも始まってないのだった。
それにしても、仕方ないとか言って可愛く尖らせている紬衣のその唇に、あの男がしたことをまた思い出してムカつく。俺なんか紬衣にキス出来たのは中学生の時に練習とか言ってバレバレのこじつけでシタのに俺の想いは無念にも無惨にも全くバレなかった以来ずっとここ最近では紬衣が寝てる隙を狙ってするぐらいなのにってこれ永遠の厨二丸出しか犯罪者ギリギリのバレたら本気でイタイどころか致命傷になるやつだな、っておい。
「なあ、そういやまさか、あの男と連絡なんて取ってたりすんの? 金輪際近寄ることも話しかけることもしないって約束したんだろ」
「謎理論なんですが、壱太くんの方から話しかける分には、大丈夫なんですって……ってそれ悠ちゃんも知ってますよね?」
……知ってるよ。
その場に居たし。つか紬衣がその名前、口にしてるってだけでも嫌だ。
「それで?」
紬衣の話を聞いたところによると、あの日の夜、俺が帰った後にその謎理論はひとまず棚上げになっただけじゃなくて連絡先の交換とやらまで済ませてるってソレ随分と低い棚だなクッソ低すぎるんだよその棚ってのはもっと高くても良い筈だよ踏み台くらい使おうよって俺やっぱ上書きしとくんだった思ってたより全然展開早いし。
「とまあ、そんなこんなで恋愛を良く分かっていないわたしに、色々とご指導下さることになりましたって、えへ」
えへって、えぇ……?
なにソレもう絶対に違う指導入っちゃうから間違いないから間違い起こす気でヤルやつだから実は今日がその第一回なんですって頬染めて首傾げて可愛いなって違うから一回もナニもそれっきりこれっきりもう二回目ないやつってそれ以降あったらセフレに降格で昇格だってことだから気づけ。
ってか、何だよ今日って土曜日だし休みじゃないだろ美容師は。
「で、ナニするのか分かってんの?」
「今日は、夜から昼間なかなか時間が合わないお互いをよく知る為の映画鑑賞会ですよ」
「はァ?!」
待て待て待て、一旦落ち着こうにも落ち着いてる暇なんかない良い歳した大人がソレって?! 昼間会えばイイじゃんいつになるかかは知らないケドいつまでもいっそ永遠に地球が終わるその日までそんなん来なくても良くね? それより夜に会うってつまりソレはナニですかやっぱり額面通りに受け取って良いやつじゃなくない? お互いをよく知るためにナニするの? だったら外で会おうよ。いや、待て最初から青姦はないよなってやっぱり誤解してるかな違いますよシテません仲良く指導しながら映画鑑賞ですねハイっていや待て額面通りに受け取って指導しながら観る映画なんてアワワワそれこそもう身体使うアレ一択だよね?
「紬衣、それ騙されてるって」
「騙されてないですよ? って実のところは興味があるわたしとしては騙されてあわよくば良い雰囲気になって流されてくれたら本望なんですがって、悠ちゃん? どうしました?」
「……あの男が、好きなの?」
「そこなんですよ。好きだから興味があるのか、興味あるから好きなのか、そもそも好きと恋が分からないんですって正直に言ったら、こうなりました」
「そこ、俺じゃダメなの? 何で俺がソレ教えないと思ったの? 今だって一緒に映画観てるよね? それに昔一緒に練習したの忘れた? 誰でも良いなら俺でいーじゃん俺に興味はナイわけ?」
隣に座っていた紬衣に向き直ると、その両肩をガッシと掴み顔を覗き込んで……か、可愛いって違うそうじゃないそうだけども。
流石にこれで少しは紬衣も気づくかな? 人類にとっては小さな一歩にすらならなくても俺にとっては生殖へ向けての大きな一歩って……紬衣? なんで、きょとんとしてんのソレ。
「練習が何を指すのか分かりませんが、誰でも良いかと言われたらソレもまた違うような……。それに悠ちゃんのことなら興味もナニも今更教えて貰わなくても、わたし色々知ってますよ?」
「???」
ちらと流し目で俺を見る紬衣の視線が下の方にあったような気がして思わず両手離してそこにあった漫画本で股間を隠しちゃったケドそれってどういう意味なのか口を開こうとした時、紬衣のスマホがメッセージを受け取った音がしたと思ったらあの男だよ。
「……何って? あ、来られなくなったってやつだな?」
「今、少し時間に空きが出来たからって……何してる? って聞いてます。それから仕事が終わる時また連絡するって書いてあります」
「……マメかよ」
やばい。やばいぞ、コレ。どーでも良いオンナにこんなことしない……いや、俺はどんなオンナにもこんなメッセージ打ったりしないけど紬衣はどうでも良くないどころか大切だしってだからといってあの男にはどーでも良くあって欲しいようなそうじゃないような。あの男、意外と本気だったりするのか? 単なるマメな奴なのか?
……どっちだ?
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