11問目
さて、どうやら問題がある。
何故かソワソワと落ち着かない気持ちを持て余し疲れていたから早く寝ようと思っていた筈が、用もないのに用もないのがソレが暇っていうことだからとコンビニに行こうとしている自分がいます。
あわよくば外へ出たその時に
ってまさか現実を直視したくないのは分かるが、あの変態女が気になっていることをついに認めちゃうのか、オレどーした?
……。
エントランスに降りて来たところで外にあの変態女とその関係性がよく分からない男の姿があるのを目にして、咄嗟に姿を隠した。え? 会っちゃったよ早速ってなんだオレ何してんのフツーに外に出て行けば良いだけだって分かっていて、なんなら立ち聞きとかしてるコレこの状況はもう見つかったら弁明のしようもない。
それでも好奇心に負けて、ちらりと覗いた外では紬衣があの男に手を掴まれたところだった。
うおっ、と何してんのあの二人?
……ぷぷーっ。
わあ、ダッセ瞬殺で泊まり断られてるよって、何となく分かってきた。この男、自分が動くことで現状を壊すのは嫌だからって、選んでもらいたいばかりにさっきみたいなあの調子で紬衣の周りを一切排除したのは良いけど、全然気づかれてなかったんだヤベぇウケるでしょ。
「とりあえず、今日は上書きだけでいいや」
え……なんだソレ。
変態女はオレがキスしたこと喋ったんだ。
それ忘れさせるキスする自信があるって?
紬衣が、どんな顔をしているのか気になった。それを見たい、知りたいという欲求は何処から来るのだろう。
見ればあの男がオスの顔をしてゆっくりと紬衣に近づいてるのに、目を逸らすこともなければ逃げようともせず魅入られたようにその目を覗き込むその姿に言いようのない苛立ちが込み上げて来たのは、なんなんだよ。
……あ、しまった。
やっば、あの男オレが見ているの気づいたよ何だよ迫っている最中にオレに気づくってそれ……こんなのまだ余裕ですからってことなの? で、そこデコピンかよ。違うだろ。
「と、思ったケドあの男に乗せられたみたいでムカつくから、やめとくわ。じゃあ、オヤスミ」
今のセリフ間違いなくオレに聞かせてるよね? ってそれってオレが見てたから我に返って途中で止めたってことでオケ? 嫉妬に身を焦がし欲望に忠実なことはしないで戦略的に攻めるって言いたいわけ? ってそれどんな戦略だよ。オレなんて敵じゃないとか思ってるんだ? ふうん、そう。オレに喧嘩売ってるよね。そんなんでヤめれるんだ止めて良いんだ。後悔しても知らないからなって何オレ参戦するのマジですか? う、うん?
少しして紬衣がエントランスに入って来てオレの姿を認めると、視線を泳がせ二、三歩後ろに下がったのは例の約束を思い出したんだって分かってる。それなのに地味に胸が痛いってのは、オレもう馬鹿だよな。
「彼氏さんは、帰ったの?」
うわーオレも何でこんなこと聞くってアレでしょそんな訳ナイとは思いつつも万が一の可能性を潰しておこうとかコレ確かめちゃってるよね完全に。なんなら勘の良い女なら自分に気があることまで気づいちゃうってやつだし。相手は男拾っちゃう変態女なんだって忘れんなよオレ!
「
いやソレ失礼なのは、いくら周りから離して置きたいからってアンタに対してそんな風に思わせてる悠ちゃんって奴でしょ。月にスッポン? そんなことないだろ。まあ、それ分かってなさそうだけどね。
「それアイス? ってかニンニク臭凄いね」
「うわっごめんなさい。この距離で臭うって大概ですよね。えーっと壱太くん? は、これからお出掛けとかですか?」
自然! すっげ自然に壱太くんて何なんですか自分あなたの生徒ですかって何そのさりげなさスキルは先生なだけに? つかオレも名前呼ばれただけで動揺しすぎだから。
「いや、コンビニ行こうかと思ってたとこ。一緒に行く……ってアイス持ってんなら行けないね」
「ふふ。行きませんよアイス溶けちゃいますからね。でも、ありがとうございます。壱太くんに誘って貰えて嬉しいです」
なんだその笑顔、可愛いしかないよね。
しかも、その答え全然意識してないで言ってるでしょ? ソレ反則だし。
これは駆け引きなんだよ? 断っても断られてもお互いが良いように取れるように、その手に持ってるアイスが小道具にされてんの気づかないかな?
いや、なんなら半分以上本気で誘ってたけど分かんないだろうなこの人は、きっと。まあオレだって完全に本気ならこんなこと言わないから、まだ紬衣に対しては興味があるくらいだって分かる。
本気だったら?
断れるような隙のある誘い方はしない。
だけどこの紬衣って、こういう時オレに少しでも好意があればアイス持っていても行きたいですってついて来ちゃったりするグイっと食い込んでくるタイプなのかと思ってた。そしたら多分、オレも気を持たせて誘っておいたくせに一緒にいる間にウザいって思う瞬間があって、あっという間にこの女に対する興味は冷めたのに。今ちょっとあの男の気持ちが分かった。分かったからってどうという事はないんだけどね。
予測と違うことをされるから気になるんだ。まあ、そういうもんだけれどあの男は馬鹿だろ。馬鹿だけど良い奴なのかもな。いやある意味究極のサドマゾヒズムってやつなのかも。好意を向けられるまで待つって、どれだけコレ気の長いことよくやってるよ。
なんて考えごとをしていたら、それまで紬衣はじっとオレのことを見つめていた癖に、睫毛を伏せるようにしてついと顔を逸らせた。突然ナニを想像してるんだか妄想してるんだか知らないけれど、見れば赤く頬が染まっていて、その赤みが徐々に色の白い首筋を斑らに染めてゆく様はイヤラしく、服に隠されている今朝見た柔らかく真っ白な身体もまた、おそらく同じように染まっているに違いないと思うと、それだけで脈打つように疼きはじめているオレがいた。
「……触りたい」
「え?」
紬衣の口から出た言葉にオレの気持ちが読まれたと思った。
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