8問目
さあ、ここで問題です。
幼馴染によって捨てられそうになった容姿端麗どストライク好み見目麗しのイケメン様の使ったカップを、洗ったフリしてそのまま食器棚に仕舞おうとしているところをソレが世界の終わりの始まりである菌類の温床であるとみなして捨てようとしていたその
洗わずに済ませたい貴女が、この場面を上手く切り抜ける方法は何ですか?
カップを持つ腕を掴み上げられる前に答えなさい。
……。
っ痛たたた。
あ、しまった。
「ねぇ、ソレ何してんの?
「あ、あれ〜? 洗ったつもりだったおっかしーなカップが勝手にタイムリープ? あははは……って
ちぇーっ失敗ですよ完敗ですよアッサリ見つかってしまいました。あとで悠ちゃんが帰ったら今日のこの日を反芻しながら記念品とするべくジップにロックし保存したカップに口をつけよう、なんならベロッとむちゅっとなんてそんなこと考えていませんでしたよ、これっぽっちも全く。
でもね悠ちゃん? そんなに汚くないと思うのですよ何故なら彼すっごく良い匂いがしてたしなんと言ってもどストライク好みイケメン見目麗しの如くでしたしって、言っても聞いちゃくれません。
「一人暮らしなんて
悠ちゃん、手、手を離して下さい。
あと顔ッ、顔も近いですから。ひえ。
「昨夜、酔い潰れた悠ちゃんを面倒臭いとばかりに放置してしまったことに関しては反省してます。ごめんね? それとその……出来心で拾ってしまった殿方におかれましては見かけたとしても金輪際近寄ることも話しかけることもしないと約束したので、ってもういい加減手を離して下さい!」
「やだ……って言ったら?」
ええー?
やだとか子供かよ、とたいして大きくはありませんが形だけはなかなかよろしいお披露目の機会を待つばかりでポロリ以外出番のナイの胸の中ツッコミを入れながらも、しおらしくごめんね? ともう一度言ってみれば掴んでいた腕を離してくれましたって痛かったよ、なんで?
わたしはその赤くなった腕を
「どうせわたしは変人で……ゴメンそこは変態です、で、悠ちゃんがいつも言ってるようにたいして可愛くもなければ、悠ちゃん以外のお友達だっていませんよ。
だから、べっ別に、良いじゃないですか。
キスぐらい減るものじゃないんだし。
いやむしろ経験値が増える? あ、いやいや。
そもそもあまり覚えていないファーストキスは幼稚園の時に悠ちゃんに奪われて、二回目は中学生の時に悠ちゃんのキスの練習相手にされて三回目は大学の時のサークルの飲み会で王様に命じられたよく知らない人だったのですから、ってアレ? それ言ってませんでした? あ、そうだったかな? 王様は本物じゃないですよってソレ分かってるか。え? その時のキスの相手? ん〜? ってそれはもうどうでも良いです、え? 良くない? 悠ちゃんの知ってる人かって? えー? 誰って……覚えてないですって……もうっ! そうじゃなくて今話してるのは、わたしだって一度くらいは人並みにちゃんとキスしてみたかったその夢がこんな形であれどうであれ叶ったんですよ? しかもどストライク好みな見目麗しの殿方にぐいっと強引にぶっちゅと奪われる最高にオイシイ展開とくればここはわたし的にはヨダレ垂らすくらい喜んで良いところなんです!!」
……ぶふぉあッ!!
ハァハァハァ……さ、酸素下さいッ。
でもまぁ言いましたよ、最後は畳み込むように息継ぎなしに言い切りましたよバンザイ……って、アレ? 悠ちゃん? 何故か悠ちゃんが泣きそうに見えるのは、どうしてでしょうね。昔の可愛かった頃の悠ちゃんのようで頭をなでなでしてあげたくなりますが、おそらく怒られるだろうからしません。
「……別にお前は可愛くないわけじゃない」
あーハイハイ、そうですね今更わたしにゴマを擦ってもどうにもなりませんよ? 自分のことは自分がよーく良く知っていますから。そうでなくとも生まれてこのかた一度もモテたことすらないんですからね自慢じゃないですけれども。
や、それもまた変化球系自慢かな? いっそのこと武勇伝って言っちゃう? その武勇伝、語らせたらわたしの右に出る者なしですよ? ひとりで何人もの見えない相手を手玉に取る悪女系リア充ごっこをデザインする
「あ、ところでそういえば悠ちゃん昨日は締めにラーメン食べようって盛り上がってたけど酔い潰れて行けなかったですよね? ホラお腹が空いてるから悲しくなったり怒りっぽくなったりするしで、だからこれから食べに行こっか?」
そう言った途端、自分がどれだけ空腹だったかに気づきました。思えば朝のコーヒーと口付けのほかムフフ何も口にしていないってそりゃ寝てたんですものね。あはは。
悠ちゃんはわたしの頭をポンポンとした後、ぎゅっと優しく抱きしめてその頭の上に顎を乗せた格好で小さく「なんかゴメン」って言ったのは流石に言い過ぎたと反省してるんでしょうか。それよりわたしの方こそなんかゴメン昨日お風呂入らずに寝てるから頭痒いし臭くて。それにアレっぽっちの軽いキスで細菌がってそんなこと言ったら悠ちゃんなんか色んな女の子とのキスやそれ以上で菌まみれですからって、あ、全部声に出てた? 良い歳して耳年増とはもう言えませんが、知識はあるんです実戦には恵まれませんけど。
仲直りというか、誤魔化し誤魔化されというか、それどっちが誤魔化されてんの? と、いつものあやふやな感じでガッツリ系のラーメンを食べに行くことで決着がついたよ。よっしゃ。
そんなこんなで外に出るのが可能な服に着替えて玄関の扉を開けたら、ナント驚き幻を見てるかと思いましたね? どストライク好みのイケメンさんのご尊顔が前を通り過ぎようと視界に入ってくるところで慌てて例の約束を思い出して扉を閉めねばとした時。
……?!
閉め切らないうちにガシッと何かに……って、うっわびっくりしました。
……手?! 心霊現象?
恐る恐るもう一度扉を開けてみれば、間違いようもナイわたしが出来心から拾った見目麗しき御仁では御座いませんか。
……あ、あのー?
そのとき奥から悠ちゃんが「部屋の戸締りちゃんと確認しろよ」とかなんとか偉そうに言いながら近寄って来て狭くて短い廊下すぐ玄関のわたしの背後に立つその不穏な空気。
「……誰?」
低い声で問いただす悠ちゃんと目の前の麗しの殿方に挟まれたわたしは、何をどうやって誰から紹介したらいいのかって……紹介するの? この場合? だって話しかけちゃいけないんでしたよね? 何が正解なのか分からないわたしが固まっていると、目の前の彼が、ちらとわたしの背後に目をやった後ふっと口元に笑みを浮かべて言ったのは。
「金輪際近寄るな話しかけるな、とは言ったけどオレからは近寄らないとも話しかけないとも言ってないから」
え? ええ? そうなの?
扉から手が離れる。
ぱたんと小さな音を立てて扉が目の前で閉まった。
このささやかな扉の音が貴女の胸を震わせたのであれば、不正脈を疑いますか?
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