5問目
さて、どうやら問題がある。
知らない女に寝ているところを拾われて、そんなことするのは間違いなくヤバい女だから関わりになるのを避けたいと思いながらも何故か部屋を出て行かずに、なんなら淹れて貰ったコーヒーに口をつけています。
なんだオレ、どうした?
一瞬だけ、このままヤっちゃう? って考えてしまったのは犯罪者になる気質や、なんなら人生ダメにする覚悟があるってことかどうか自問しなさい。
……って、いやいやいや、ナイから。
そもそもこんな知らない女の部屋にいるのも信じられないくらいなのに、なんでコーヒー飲んでるんだよ。いや、しかし……これ美味いな。カフェインばんざい。つか、しかもつられてかどうか知らないけど、微妙にスルーしたいような感じがあったのにもなんでか自己紹介しちゃってるし。名前教えてどーするんだっての。
二人してソファに座らず床の上。ってよく知らない女とぎこちなく二人掛けの狭いソファに並んで座るのおかしいし、勧められたからといってオレだけソファに座るも偉そうでなんだかなと少ない選択肢を
とはいえローテーブルを挟んで向かい合うようにしているこの状況もよく分からなければ目の前の、さっき指摘したはずなのに未だにゆるゆるの胸元見えそうなタンクトップに言われてようやく気づいたって感じでパーカー羽織っただけのショートパンツは変わらず剥き出しの色っぽい肉付きの脚で胡座を組んで暢気そうにコーヒーにふうふうと息をかけている
そのくせ、アッち、とか言って小さく舌を覗かせる前に本気で肩をビクッとさせたその仕草を見ればアレもソレも何の計算もなしって、それよか猫舌なんだ可愛いかよ、とかちらと思ったりするオレ、どうした?!
「……ねえ。堅い職業って、何なの?」
聞いてどうする? 興味があるなんて思われたらこんな変態女、面倒なことになりかねない。ちょっと変わってるから気になるだけだ。興味じゃない、興味じゃ……まあ、これから顔を合わせないためのえっと傾向と対策? っての? それに黙ってコーヒー飲むよりましだろって、ただそれ以上でも以下でもない。……筈。
「えーっと、教師です。……ははッ」
恥ずかしそうに上目遣いでオレを見て、またカップに視線を落とすそれヤメロ。
って教師? 子供に教えるお仕事の人が落ちてる知らない男拾うんだ? えーなんだそれナニを色々教えてくれんのエッロ……くないです……考えるな考えるな目の前にいるのは変態女、それも見た目パッとしない大したことないよく見ればフツーに可愛いかもしれない女で、んん? なんならオレあざとすぎる後腐れないフリして近寄って来るもっと面倒な女だって抱いてるよね? あれ?
あー、疲れてんのかな。やっぱ。
「コーヒーご馳走さま。オレこれから仕事だから帰るわ」
立ち上がりながら何気なく言ったその
「お引き留めしてしまって、すみませんでした。お約束通り、もう金輪際見かけても近寄ったりしませんので、ご安心下さい」
何ソレそのいきなり常識人みたいなその台詞。その上まるでいつも朝、見送っているかのようなごく自然な様子でオレのすぐ側に立つと、ここでちょっと笑ってみせた初めて見たその表情になんだかよく分からない感情が込み上げて来る。
「……ああ」
って返事したら何だよ。アンタ俯いてるけど、まさか泣いてるんじゃないよな?
思わず顔を覗き込んだのは何でだろう。
びっくりしたようにパッと顔を上げて、ふふって笑うから頭に来た。心配して損した……って心配? なんだソレ何の心配だ。
気づいたら手が動いていた。
小さな頭を強引に引き寄せて、柔らかな唇を奪う。あ、気持ちいいしなんかコイツすげー良い匂いするんだけどと思わず唇を割り舌を入れそうになってハッとして離れる。
……やば。
「アンタは馬鹿か? 少しは危機感を持て」
結果、捨て台詞を吐いて逃げるようにこの女の部屋を後にしたオレの方に問題がある。
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