北へ南へ
12月。卒論作成真っ只中。にもかかわらず高を
地方都市の駅のこじんまりとしたイルミネーションはカップルと不良とそこで生活される方に挟まれていた。芽以ちゃんはその光景を写真で取りまくっていた。愛知は風が強いから、気温以上に体感はしんどい。風がびゅんびゅん頬に当たる。
「どのくらい卒論書いた?」
翼が言った。やっぱり卒論がある時は卒論のことしか考えられない。就活の時も相当参っていたが、今はそんなにつらそうには見えない。
「インタビューは終わった。後は結論。でも結論てねえ…」
わたしが書いているのは在日中国人2世、もしくはダブル(ハーフ)が子どもの頃に体験した中国人親とのギャップやとらえ方、さらに今どう日本社会で生きているかなどをインタビューで聞いていた。たとえば名前や言語、さらに国籍まで、彼らがどう向き合ってるのか聞いて回った。インタビューはとても面白かった。今まで遠慮してきたことを『卒論』という名目でいろんな人に突っ込んで聞けた。彼らの分かり合えないことというのは本当に奥が深かった。
ただ、これは科学的な結論は出ない。傾向はあっても絶対じゃない。例えば中国人親は子どもに対して、日本人からすると過干渉ぎみな人が多いが、すべての親がそうじゃない。それは日本人だって同じこと。だから、研究としてはやや弱い。でも、安易に結論づけられないんだよな。
「俺んところは英語で3万字。ヤバイ、多すぎる」
「英語は文字数的にそうなるよね。ほんとお疲れ」
「でも、ま、終わったら南の島行くしね」
「そ。よかったね。わたしは
「彼氏と?」
「ううん、女友達と」
わたしはこのころ、異様に自信がなかった。だから好きと言われるままに付き合ったり、翼や
砂漠の話なんてどこへやら、翼は平然と聞き、わたしも淡々と答える。奴が南の国に一人で行こうが、女の子と行こうがもはやどうでも良かった。並んでこのイルミネーションを見てももう写真なんて撮る気にならなかった。
「とりあえず留年2年目はなんとか回避しないとね」
「おう」
わたしたちは周りより1歳年上で、もう後がなかった。
その後、無事ダッシュで卒論提出したわたしたちは残りの学生生活をふわふわした気持ちで過ごしていた。もう1年長く学生をやっていたので、後悔なんてさらさらなかった。ただこのとろけるような、どこか寂しさのある2月を噛み締めていた。
わたしと
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