第26話『あたしたちの』
ヒナタは自分の目を疑った。
自分の攻撃を喰らってなお立ち上がった少女二人に……ではない。
自分が放った必殺の陽光が、その立ち上がった少女たちに届いていないこと対して、だ。
最初こそあの厄介な旗女――マキの盾に防がれたのかとも思ったが、違う。マキは今あの眩い光の盾は出していない。代わりに、マキはその様相を一変させ、焔を纏っているように見える。
そしてその焔が――――、
考えるうちに、マキは旗を振るう。
途端、マキから黒焔が燃え広がり、陽光を焼いていく。
「馬鹿な――っ!」
ヒナタは目を剥く。だが事実として、太陽そのものと自負する陽光の一撃は黒焔に焼かれ、その光全てを消失させてしまう。
「くっ――――」
まずい。そう思った時には既に――――、刀の女の――サヤの刃が、首元へと伸びていた。
「ぐ――――」
だがそんなかすり傷など気にしている暇はない。ヒナタは咄嗟に右肘を上げる。そこには頭部を狙って放たれた
「ちっ――――」
「いちいち仕損じを気にしないッ」
「わかってるわ、よっ!!」
途端、旗槍から黒焔が噴出する。
「ぐ……」
鎧に焔が纏わりつく。だが幸い、黒焔の威力はただの炎と変わらない。これならば、ただ熱いだけでさほどの脅威にはなり得な――――、
「はぁぁーー!!」
ヒナタがマキを推し量るコンマ一秒の隙に、サヤがヒナタの土手っ腹へ重い一撃を打ち付ける。
鎧は粉々に破壊され、黒焔がその破片さえも焼いていく。
(ま、まずい――――)
サヤは旋回し、その首を落とさんと刃を振るう。
作られた隙を不満に思いつつも、マキも振り回した旗槍を勢いづけ、鋭い一突きを繰り出す。
(た、体勢を――――)
立て直さなければ。
しかしそんな隙など、どこにもありはしない。
そんな苦悶に歪む自分の顔が、鏡に映る。
「…………すまない、ナガム」
そんな呟きが聞こえた
「しまっ――――」
形勢逆転。
今の状況をいち早く理解したサヤが先に反応するが、
「っ!――――」
「『
既に攻撃の体勢は完成し、
「
陽光の一撃が放たれる。
マキは二人よりも一歩反応が遅く、既に陽光に対応するには遅すぎる。
(敗け――――)
先日味わったばかりの二文字がサヤの脳裏を過ぎる。
そんな中、
「あ、お二人とも〜〜」
聞こえるはずのないウザい声が、階下したの路地から聞こえてくる。
「
「ヨシノヤ!?」
ヨリアキが、ぼろぼろの姿で立っていた。
「はっはっは、吾輩ですぞお二人とも〜。さっきぶりでござるな〜。あとサヤ殿、それは完全に牛丼屋でありますぞ〜〜」
ぶんぶんと、見た目とは裏腹に元気そうに手を振っている。心なしか、ピリピリと電気が立ち上っているようにも見える。
だが、今はどう考えてもそれどころではない。
「ち、ちょっとアンタ、今はそれどころじゃ――」
「はっはっはー。さすがの吾輩もわかっていますぞー」
眉を困らせて笑う。
「だからこそ、吾輩の『避雷針』を発動させてるのですぞ」
その初めて聞く単語が何を意味しているのか、すぐに理解できた。
圧倒的広範囲を焼き尽くすはずの陽光が、なぜか一点へと収束して向かっていく。
電気をピリピリ立ち上らせる、ヨリアキの元へと。
「吾輩一人分ならさほどのポイントにはなりません。ですから、あとは頼みましたぞ、お二人と――――」
言う間に、ヨリアキは陽光に呑まれて消える。
「……バカね」
「……うん」
二人は呟いてからすぐさま顔を上げる。
が――――、
「っ――――、アイツは!?」
顔を上げたそこにヒナタの姿はなく。
「――――逃げた?!」
敵方の想いもよらぬ行動に、再び目を剥くこととなる。
「はぁ……、はぁ……」
そこは、さきほどナガムとサヤが攻防を繰り広げた市庁舎の上。
陽光の一撃がヨリアキへと吸い込まれていると知るや否や、ヒナタは急速に距離をとった。
近距離では自分には部がない。その代わり、遠距離なら以前自分が有利。
既に得点の有利はなく、残り時間もわずか。体力も既に底をつき、時間的にも体力的にも陽光を放てるのはあと一発が限度というところだろう。
だからこそ、次の一撃は必中でなくてはならない。
たとえ隠れられても問題ないほどの最大火力の陽光を繰り出す。そのための距離と時間を、わずかでも稼がなくては。
そんな思いからヒナタは敵に背を向け逃走した。
幸いにも、女二人は仲間に気を取られこちらに気付くのが遅れたはずだ。これならば、すぐに追いつかれることはない。
最後の最後で力を使ってくれた仲間のためにも、必ず……。
さまざまな思いを巡らせて、ヒナタは瞳を開く。
既に、今出せる全ての力は込め終えた。
「…………『
この距離であろうと、あのかき消す焔だろうと、全てを呑み込み焼いてくれる。
俺の剣の重さは、貴様らほど軽くはない。
陽光は空気を燃焼させ、目に映る全てを焼き払い進んでいく。
まるで、世界の終焉のように。
そんな、世界の終わりの中。
見えてしまった。
遥か遠く。さっき自分が破壊した住宅街、その瓦礫の上に、青白い光が二つ灯っていることに。
「ねぇ、あのときの特訓ってこのときのためだったと思う?」
「さぁ。でも案外、役に立った」
「そうね。今日はそれなりに頑張ってたし、この後褒めてあげなくもないわ」
「うん。そのためにも」
「ええ。これで終わりにするわよ」
二人は同時に、息を吸い込むと。
「か……」
「め……」
「は……」
「め……」
「「波ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」」
いつか聞いた技名を、二人で叫ぶ。
気付いたときには既に遅く、二つの青白い光は陽光をただ一点突き破り、ヒナタへ目掛け一直線に進んでいく。
「なっ、なっ……!?」
そして、防御の構え間に合わず、鎧の剥がされた土手っ腹へとぶち当たる。
「ぐ……ぉぉ…………」
二つの光は二重螺旋状に絡み合い、ヒナタの体ごと住宅街へ飛ばしていく。
「…………お、俺は『太陽の騎士』を拝命した『円卓の騎士』…………、敗けるわけには――『魔王』の配下に敗けるわけにはいかな………………」
そして――――、
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――」
どこか天高く、ヒナタは二つの青い光に呑まれて爆ぜる。
小さな爆発音が聞こえてきた瓦礫の上。
「…………ねぇ」
「……なに」
「これってさ、あたしの勝ちでいいわけ?」
「……わたしの方が活躍した」
「…………はぁ。そう」
「うん」
「じゃあさ」
「うん」
「あたしたちの勝ちってことでいいかしら?」
「…………うん」
どこかの時計が、片一方が大きくリードした得点を表示していた。
しかし次の瞬間には普通の時計表示へと戻り、何事もなかったかのように時を再び刻み始める。
そんなことは露ほども知らず、その場へとへたり込んだ二人の少女は拳をかち合わせる。
『碧海大祭』前哨戦(『魔王』『騎士王』代理戦争)、
勝者『魔王』側、サヤ、マキ、ヨリアキチーム。
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