終幕『そしてこれからのこと』


 その後のことを、少しだけ話そうか。


 結果から言えば、ボクたちは敗けた。

 あの後、辛うじて一試合目に勝ったボクたちだったけど、疲れ果てたボクたちは翌日の二試合目に参加することができず棄権。そのまま第三回戦敗退と相成ったわけだ。

 まあもともと人数不足だったわけだから、仕方ないと言えば仕方ないわけだけど。


 当然大会に勝ち進めなかったわけだから憎き生徒会による圧力に拍車がかかったけど、そこは皆の力を結集してなんとか廃部だけは免れた。


 そう、みんなだ。一度廃部届を出した後輩くんだったが、そこはボク。退部届は提出せず保留としていたのだよ。後輩くんには呆れられたけど、ボクも乙女も、それにサヤくんも、後輩くんはきっと戻ってくるって信じていたからね。退部届を顧問に提出するのを忘れていたー、なんてことはあるわけがないのだよ。


 あ、そうそう。大会には負けたけど、いいことももちろんあったんだよ。

 なんと、新入部員が入ってくれました! それも二人も! ボクたちの大会での活躍を見て入部したいって一年の子が来てくれてね。これで部員六名。部としての定員五名をクリアして、なおかつ戦闘要員を五名となって『厨二部』再スタートってわけさ。


 それからはもういろいろあったよ。

 夏休みの合宿や、個人での大会参加。サヤくんも名誉ある二つ名を獲得したり、学年が変わると『新生厨二部』なる奴らが勝負をしかけてきたり。


 いろいろあったと言えば、後輩くんと妹くんが仲直りもしたんだ。ぎこちないったらありゃしなかったけど、新たに厨二病となった妹くんのサポートをとても頑張ってたね。まぁそれでサヤくんと一悶着あったりもしたけど。


 そして時は流れ、厨二部存続の夢叶ったボクは卒業して。

 うん、めでたしめでたし。


 って、まだエンディングにはちょっと早いよ。

 なんたって、まだ一つ叶えていないものがあるからね。


 そう。彼女がずっと言っていた、あの願いが。




     *****




 二年後、冬。十二月二十四日。クリスマスイヴ。


『さぁ、ついにやってきました。本日の大一番。彼女が挑戦状を叩きつけてから幾年月。ついに今日、『最強の挑戦者』と呼ばれた彼女の悲願が果たされるのです。では入場してもらいましょう。——



 【紅蓮の夜叉姫】サヤ!!』



 二つ名が示す通り、紅蓮の焔を纏って少女が現れる。


 大舞台。そこは、東京で最も大きなドーム、その中心。

 年末近い大一番の舞台。その場を飾るのは、その一年で最も強いと選ばれた強者のみ。


 その最後の舞台に、彼女は選ばれた。

 二年前、彗星の如く現れ、焔のように界隈を駆け巡った彼女と。


 もう一人。


 数年前より伝説となり、一時は姿を消していた最強の悪。

 自ら悪役ヴィランを名乗る彼の名は、既に最強と轟いている。

 その最強に、最強の挑戦者が挑む。

 

 始まりは、二年前の、桜舞う校門。


 それが今や、国内最大の舞台へと昇華する。


 しかして、舞台が校門からドームへと変わろうとも。桜が雪へと変わろうとも。

 相手を見る瞳だけは決して変わり得ない。




 その――漆黒の魔王を見つめる、焔のように鮮烈な紅蓮の瞳だけは。




 二人は相対する。

 言葉は交わさない。

 交わす言葉は、とうの昔に語り終えている。

 今はただ、



 この最高の瞬間を、楽しみ尽くすだけ。




 自分たちの最強を、証明するために。






「行くぞ、サヤ」

「うん、師匠――ううん、魔王!」






 二人の戦いは続いていく。

 たとえそれは、厨二病から卒業する日が来たとしても。

 形を変えて。

 だってそうだろう? 厨二病に罹ったボクたちは、たとえどんなことがあっても、厨二病なんだからさ。






               ――了

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