4. k-ai sui ~en~ (2)






 燐華を残し、自ら命を絶った水人。

 当日に送られてきた、最後のメール。


『またね』


 携帯画面を見つめたまま、燐華は呆然とする。


 何も死んでほしかったわけではない。




“私が死ぬか、水人が消えるか”の選択を強いはした。

でも、私が死にたくても死ねないってこと、分かってたでしょ。


だからって心中なんか望めないでしょうし、

それなら…って、離れてほしかった。

自分の前から、再会の可能性もないくらい。

永遠に、消えてほしかった。


男なんて女を絶対に捨てる生物なんだから。


やっぱりねって、死なせてほしかった。

あなたに捨てられればきっと私、覚悟できたのに。


あなたはこれからも必要とされる人。なのになんで、

いらないわたしの方を、現実こっちに残したのよ。”




「死なせて」が、入院している母の口癖。




“お母さん、私もだよ。こんな世界、女は生きていけないもの。”





 水人の消え方は、燐華にとって、決定的な生きる理由にも、死ぬ理由にも、なるはずがなくて。

増やされた死にたい理由と、死ねない理由に、彼女は今まで以上に苛まれることとなった。











 ・長谷川燐華はせがわりんか


長谷川晃の四歳下の妹。晃と同じくストレートの茶髪(栗色)。上下まつげが長い。目の色素が薄め(アンバー)。兄とはよく似ているが、兄から陽寄り要素を全て吸い取ったような、覇気のない仏頂面。ロン毛。

春生まれ。中華料理が好き。中学ではパソコン部に所属し、高校では華道部。

六歳の頃からの付き合いである水人と、高一の春から交際。極度の人見知りで、兄の晃と、水人以外の者とは話さない。小学生時代は変わり者として避けられていたが、水人と同じ学校になった中学からは、水人のおかげで、完全孤立は免れる。

身内には、偉そうでわがまま。自分本位な行動や言動が目立つ。淡々としているようで感情的。攻撃的だが打たれ弱い。

家事を一切しないくせに、家事への文句も多い。

男性が嫌い。これは若い女と不倫して家庭を捨てた父親の影響も大きい。若さへの執着もまた然り。

自身の勝手な発言から、水人を自死させ、死にたい理由と死ねない理由が増える。



 ・波岸水人なみぎしみずと

波岸海人の四歳下の弟。兄と同じくトゲトゲ頭の黒髪。目つきは兄と反対でタレ目。兄より瞳が大きい。兄と同じく、瞳の色は深い青。高身長。

夏生まれ。色白。中学はパソコン部、高校は華道部で、いずれも燐華と同じ。

人当たりがよく、爽やか、かつ穏やかな好青年。温厚で、誰にでも優しくて親切。愛情深い。兄同様に、料理上手。成績優秀。兄より器用。

「大好き」などといった言葉も恥ずかし気なく口にできてしまう一方で、肝心な場面ではひどく言葉足らずになるところがある。


兄を心から尊敬し、慕っている。

母(どこかで存命)、父、祖父に必要とされなかったことを、内心気にしている。

(それが、“会えなくなるなら、必要とされなくなるくらいなら、自らの死すら厭わない”といった、極端な愛情証明、選択にも繋がってしまった。) 


高一の春、燐華の誕生日に彼女へ告白し、交際をはじめた。

高校卒業後は、兄と同じ地元の四年制大学に進学。短大を一年で中退後、今まで以上に情緒不安定になった燐華のことも、変わらず愛し続ける。

二十一歳直前の夏、彼女からの、“自分が死ぬか、あなたが消えるか”の選択を前に、後者を選び、海にて自殺未遂。救助されるも死亡。

亡くなる前に、「彼女のためなら何でもする」といった言葉を残し、兄に、燐華への強い復讐心を植え付けた。享年二十歳。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海を駆けてく季節たち かさのゆゆ @asa4i2eR0-o2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ