第243話 がおー

 東三条さんたちと別れた俺たちは、ダンジョンに入ると、とりあえず椿の最高階層である18階層まで魔法陣転移で移動し進んでいく。


 「18階層に入った時から今宵たちを見ることができる範囲に人はいなかったけど、ここなら魔力感知で確認できる範囲にも人がいないからコートを脱いで良いよ」


 サバンナをある程度進んだところで、今宵はコートを着て衣装を隠している桃井先生と椿に声をかけると、自分はアステルの衣装へと変身チェンジする。

 それを見たキイちゃんとさっちゃんも、シンとファーナの衣装となった。


 そして桃井先生もすぐにコートを脱いでアイちゃんヤッ○ーマン二号の名前の衣装になったのだが、椿がなぜかこちらをチラチラと見て恥ずかしそうにしていた。


 それを見た俺は、俺がシュテルンになってないからかと思い……チェンジする。


 「ちょっと椿ちゃん。お兄ちゃんにはどうせ見られるんだから、気にしてもしょうがないでしょ」


 「あ、ああ」


 なるほど。

 俺に見られるどころか日本だけでなく、全世界に配信される可能性があるけどね。

 そもそも、今宵にしてもキィさちにしても恥ずかしがることがなく、むしろノリノリで着ていたから、俺以外は恥ずかしいなんて感情がないのかと思っていたよ。


 今宵に促されて、意を決した椿はコートを脱いで……、その下のマントを露出させた。


 「おー、椿はマントに犬耳を付けたのか。ちゃんと被った時に犬ってわかる今宵の技術も凄いけど」


 「ちょっとお兄ちゃん。犬じゃないでしょ。よく見て! オオカミだよ! それと椿ちゃんには別に言わなくても良いけど、女性の服を見たら言うことがあるでしょ」


 犬じゃなくてオオカミってことは、アルコル繋がりか。

 てか、柴犬が遺伝子解析でオオカミに一番近い犬種だと判明したように、耳だけを見て犬かオオカミの判別は出来ない可能性……。

 秋田犬とかもオオカミに近いと聞くしね。

 

 それと女性の服を見たら言うことってなんだよ。

 髪型が変わってたりしていたら褒めろって言ってたやつか?

 そう思い椿を見ると、既にべネチアンマスクをつけて顔を隠していた。


 「オオカミのマント、良く似合ってる」


 「ありがとう矜一」


 表情はマスクでイマイチ分からないが、恥ずかしがっているようだ。


 「そう言えば、桃井先生も椿も争奪戦に参加する時の名前を考えてる? まだならそれまでに考えておいて」


 「蒼……シュテルンはもう知っていたじゃない。私はピンクよぉ」


 んん? どういうことだ? 

 俺がシュテルンに変身しているからシュテルン呼びをした桃井先生は、争奪戦参加時の偽名をピンクだと言う。

 桃だから? 安易すぎない!?


 「きょ……シュテルン、私はルプスlupusにしたから、それで呼んでほしい」


 「ほらほら、二人とも。言い間違えそうになっちゃダメだよ。ちゃんと教えた通りにアステリズムの衣装の時はそっちの名前で呼び合わないと」


 蒼月と言いそうになった桃井先生と、矜一と呼びかけそうになった椿を見ながら、今宵は二人に衣装を着ている時の呼び名を間違えないようにと注意する。

 衣装を作っている間に、ちゃんと呼び名まで考えていたのか。

 でも今宵よ、お前はいつも配信でお兄ちゃんと言い間違えそうになっているけどな!


 「ルプスの名前ってオオカミ座からとったんですね。星繋がりのアステリズムにも合っていると思います」


 「それに比べてピンクは一人だけコスプレだし、名前も安直」


 椿のルプスと言う名前を聞いたさっちゃんが、俺たちアステリズムの名前に合っていると言うと、キィちゃんが桃井先生に毒を吐いた。


 「一人だけじゃないでしょぉ、あなた達の動物マントだってコスプレと言えるわぁ。安直だと言われても思いつかなかったんだからしょうがないじゃない。別にアイちゃんでも良いのよぉ!」


 あれか? 桃井先生のアイでも良いって話は、ヤ○ターマン二号の名前もアイで自分も愛だから、どうせコスプレしてるんだし名乗っても良いだろ的な?

 世間からすればコスプレで、なりきってその名前を言っていると思うけど、実際の本名も愛だから、何か言われても問題ないしバレないってことか?


 「うわ、もうキレた。一人だけ大人なのに。ラブ&ピースじゃない!」


 「ちょっとシン! 年齢のことは言ってはダメよぉ。あと、その名乗りのポーズ良いじゃない!」


 キィちゃんが桃井先生をイジリ、なぜかラブ&ピースと言いながら目の前で横ピースをしてシュバババッとポーズをとった。

 ラブ&ピースのピースはそれじゃないけど、ラブ=アイ、平和peace=横ピースに変換して桃井先生の名乗りのポーズを作ったのか?

 キィちゃんの発想がちょっと天才的に思えてなぜか悔しい。

 桃井先生もキィちゃんを叱ったかと思えば、近くに行ってポーズを教えてもらっている。


 「シュテルン、私も何か名乗る時にポーズが必要だろうか」


 俺がキィちゃんと桃井先生のやり取りを見ていると椿が自分もポーズが必要だろうかと聞いてきた。

 これだよ、なぜかキィちゃんを悔しいと感じたのは、俺にはそういう発想が思い浮かばないから……。


 「いや、俺も名乗りの時にポーズはとらないし、なくても良いんじゃないか?」


 「シュテルンおにいちゃんは演劇の時にしてたレッドのポーズをすればいいと思うよ!」


 俺たちの話を聞いていた今宵が割り込み、キィちゃんと同じようにシュバババと俺が学園祭でしたレッドの名乗りのポーズをする。

 俺はその今宵の戦隊モノの名乗りポーズを見て、そう言えば配信の時に今宵がしたことがある猛獣のポーズ……がおーのポーズが美少女にはマッチしていたことを思い出す。

 しかも椿のマントはオオカミで猛獣と言える。

 

 今宵はネコかライオンをイメージしていたと思うんだが、俺はオオカミをイメージして爪を立て、顔の近くに手を持ってくる。


 「アステル今宵もしてたことがあるんだが、ルプス椿はオオカミのイメージでガオーのポーズはどうだ?」


 俺が椿の方を向いてガオーのポーズをとりながら話すと、椿は一瞬衝撃を受けたかのように顔を後ろに反らした。


 「に、似合ってる」


 そして椿に似合っていると言われ……、いや説明の意味合いでとったポーズを似合っていると言われると恥ずかしいな!?


 「ちょっとシュテルン!? それだと被るかもしれないでしょ!」


 「じゃあ、二人でして見てくれるか? アステルはネコでルプスはオオカミのイメージで」


 俺に苦情を言ってくる今宵を見ながら、二人でしてみてよと注文する。

 横ピースもそうだけど、こういうポーズって別に一人だけじゃなくて何人かで揃ってするともっとよくなる気がするんだよね。

 そして俺の言葉を聞いた二人は……、


 「「がおー」」


 これはヤバイな。

 一人でも可愛いのに二人になると可愛さが二倍以上の効果を発揮しているように感じる。


 「あ、ズルい!」


 それを見ていたさっちゃんも二人に加わってガオーのポーズ。

 三人のがおーポーズは、それぞれ手の位置が違っていて個性がある。

 今宵が少しかがんでいるのはネコ科っぽさを出すためか?

 正当派美少女(椿)×可愛さ天元突破(今宵)×清純派美少女(さっちゃん)のコラボレーションの破壊力に恐れおののく。

 俺はこれは後世に残す必要があるものだと考えると、すぐさま端末を取り出してカメラを向けた。

 そしてそれを見たキィちゃんと桃井先生も加わり、なぜか撮影会が行われることとなったのだった。

 

 

 



―――――――――――――――――――――――――――――――――

 キィちゃんたちが揃うと遊ぶから進まない……。 

 がおーとガオーが混ざっているのは一応仕様です。

 がおーと書きたいけど、平仮名だとわかりにくい気がするところはカタカナです。

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