第242話 アラホラサッサー(さあ、いくぞ)
「うーん、やっぱり準備期間が5日間しかないのは厳しいな」
椿の最大到達階層を俺たちと同じ25階層にすることは、さっちゃんのスタミナポーションもあることから、1日もかからずに達成可能だろう。
それに俺たちにとっても、いろいろな魔物ともう一度戦うことは復習にもなって悪いことではない。
「椿に関する問題は一気に階層を上げた後で、俺たちも初めて戦う26階層以降で訓練した方が良いのか、それともある程度時間をかけながら基礎を重視して25階層を目指した方が良いのか……」
矜侍さんの教えでは、基礎を疎かにすることは絶対に避けるべきだと学んだし、魔物それぞれに特有の動きもあるため、それらを経験せずに階層を上げることが良いことなのかどうか判断がつかない。
弱いから、対応できるから、そこで訓練をする必要がないわけではなく、例えば6階層のブルースネークやシロダイショウの動きを経験することで、12階層のガラドク蛇の攻撃も予見しやすくなるというメリットがあった。
さらに、そのガラドク蛇は気配を消すのが上手いので、18階層のサーバルキャットやジャガーの隠密性に対応しやすくなると言うように、低階層だから何の訓練にならないというわけではないのだ。
そんなことを考えていると、クゥとお腹が鳴る。
時計を見ると、12時30分になろうかと言う所だった。
「そう言えば、昼ご飯はどうするんだ? ファミレスかな?」
俺は今宵たちに昼飯をどうするのか確認するために席を立つ。
そして二階への階段を上ろうとしたところで、「先生はお兄ちゃんの部屋に入らないで!」と言う今宵の声が聞こえた。
俺が階段を上り切ると、俺の部屋のドアノブを掴んだまま固まっている桃井先生と目が合う。
桃井先生は俺の部屋に入る前に、今宵に注意をされたようだった。
俺と目が合った先生は気を取り直し、なぜか妖艶なポーズをとった。
「蒼月君、この姿はどうかしらぁ?」
俺はその声を聞いて、桃井先生の姿を確認する。
まあ階段を上った時に、衣装が変わっているのは気が付いていたんだけどね。
桃井先生は、全体的にピンク色で胸に大きな二つのハートとズボンの裾に小さなハートマーク。
そしてツバの大きな帽子に目元が隠れるマスクをしていた。
キョンシーじゃないんだね。
っていうか、どこかで見たコスプレなんだよなぁ。
俺が反応に困っていると、桃井先生はさらに言葉を続けた。
「説明しよう!
……。
ヤッ○ーマン二号のコスプレじゃねーか! それならそこはドロンジョ様のコスプレじゃないの?
しかも桃井先生の名前をいまさら知ったよ!
「せ、先生の下の名前って
と言うか、今の先生の名乗り? を部屋の中で聞いているはずの他の四人が完全にスルーってどういうことなの?
「そういうことが聞きたいんじゃないのよぉ。それよりもどうなの? 似合っているの? 似合っていないの?」
「いや、似合っているかどうかで言うと、
俺は桃井先生が、入学当初に男子生徒たちの前でこけてピンクのパンツを晒し、ピンクちゃんと呼ばれていたことを思い出して、似合っているということを伝えた。
「そうでしょう、そうでしょうとも。ちなみに今日もピンクよぉ。貴方がぁ責任をとってくれるなら見せてあ「ちょっと先生!?(怒」
頭がピンクな桃井先生の発言に被せるように、今宵の部屋から桃井先生を嗜める怒声が聞こえた。
名乗りには反応しなかったのにここでする不思議。
「おお、そうだ。今宵。昼ご飯はどうするんだ? ファミレスにでも行くか? 椿はもう食べてたりする?」
俺は今宵と今宵の部屋にいるだろう椿に話しかける。
「うーん。ファミレスに行くと時間がなぁ。お兄ちゃんがすぐ食べられるやつをなんか作ってー。後、椿ちゃんも食べてないんだってー」
「んー、了解。ちょっと降りて何ができるか見てくる」
椿の代わりに答えた今宵の意見を聞いて、俺は何が作れるのかなと台所へ移動する。
ちなみに俺が階段を降りていると、今宵の「そんなだから
仲が良いな。
てか、桃井先生には通じたみたいだけど、鯛女ってなんだろう。
俺は台所で冷蔵庫を開ける。
そして目にしたものは……、
「父さんのビールしかない件……」
そう言えばいつだったか母さんが、アイテムボックスの方が保存が効くのにどうしてビールは冷蔵庫に拘るのか父さんに聞いていたことを思いだす。
その時の父さんの答えは、たしか風呂上りや仕事終わりに冷蔵庫から取り出して飲むビールが格別なんだ、アイテムボックスは邪道だとかなんか力説していた気がする。
しかしこれだと困ったなと俺は戸棚を漁ると、スパゲティの乾燥麺を発見した。
「レトルトのミートソースやナポリタン、カルボナーラなんかは買いだめしていて、俺のアイテムボックスにあるからこれで良いか」
俺はそう考えると麺を茹で、レトルトのいくつかをお湯で温めていく。
ぶっちゃけ作り置きをしておいても、アイテムボックスの中に入れておけば時間遅延で問題がない。
ウチの冷蔵庫がビールだけになると言うのも道理だった。
・
・
・
今宵が椿の衣装を作り終り、みんなで昼食を食べ終わる。
俺たちはチェンジが使えないために、コートで衣装を隠している椿と桃井先生と共にダンジョン前へとやってきた。
ちなみに、昼食時に桃井先生は着ていたヤ○ターマン二号の衣装を脱いでミートスパゲティを食べていたのだが、キィちゃんが桃井先生の「ソースがついたら嫌だから着替えたのよぉ」という発言にニヤリとしたかと思うと、服を着たまま腕で口を
子供かな?
ダンジョンに入るためにゲートを
「蒼月様! ちょっと待ってくれ!」
誰かと思うと、それは東三条さんの護衛をしている仙道さんだった。
隣には座間さんもいる。
「仙道さんと座間さん?」
「お嬢様は今日、東三条家の集まりで忙しくしていたんだが、俺が天城矜侍の配信が始まったことを伝えるとどうやら抜け出して配信を見たらしくてな。蒼月様たちはダンジョンに来るだろうから、見張っておいてくれと頼まれていたんだ。今、花沢と沢城が近くまで来ているお嬢様を呼びに向かったから」
仙道さんはそう言うと、ジェスチャーで俺に場所移動を促す。
どうやら東三条さんが何か俺たちに用があるみたいだ。
「ねぇ、
今宵は熨斗さんがいるかどうかが気になるようで聞いている。
いや、お前は ノシ ってしたいだけだよね!?
「熨斗は今、お嬢様ではなく他の護衛を呼びに行ってもらってる」
俺たちはダンジョン前から少し移動し、東三条さんを待つことしばし。
花沢加奈さんと沢城芽里さんを引き連れた東三条さんと、二十人ほどの黒服を引き連れた熨斗さんがやってきた。
そして熨斗さんは、その引き連れた黒服二十人に俺たちを囲む指示を出す。
……これは外から見たら、確実に反社が一般人を囲んでいる図にしか見えないだろ。
俺はまた東三条家の株が下がるんだろうなと思いながら、これから何が始まるのだろうかと待機する。
二十人の黒服に囲まれていることで円の中は、外からほとんど見えない状態に隠された。
「配信を見ましたわ! 他のパーティは六人で参加をするはずですから、アステリズムにも後2枠……後1枠は残っているはずです。ついに……ついに私様の出番がやってきましたわ!」
円の中に入ってきた東三条さんは、俺の目の前に来ると椿を一目見てからメンバーはもう1枠残っているはずと主張し、なぜか 学校の制服→ペカチュウ→学校の制服→ペカチュウ という具合に
オークと戦った24階層のメンバーの中で東三条さんだけ空間魔法を持っていなかったことをキィちゃんが弄っていたし、あの時はマコトを含めて全員がアステリズム用の衣装で戦っていたから、メンバー入りの条件を満たしたって言う感じの主張かな?
俺は今宵の全裸事件があったので、チェンジを繰り返す行為を見るのはドキドキしてしまう。
俺が東三条さんもミスをしてしまうのでは? と思っていると、桃井先生が東三条さんの前に仁王立ちすると、バーンとコートを脱ぎ捨てた。
それを見た東三条さんは愕然とした表情をすると、俺たちの人数を数え直し……、そしてなぜ教師が生徒に交じって……という目線を桃井先生に送った。
桃井先生はバーンと放り投げたコートをそそくさと拾い埃を払って着直す。
「メンバーは先着順なのよぉ。判断が遅いわぁ!」
先着順なんていう決まりはなかったが、なぜかそれっぽい理由を挙げた桃井先生は、いつになく強気な発言を東三条さんに浴びせると歩いて護衛が囲んでいる所へと向かう。
たしかに先生の俺に電話をかけると言う判断は早かった。
強気な発言だけど、なんで先生がって言う非難の目線から逃げるようにも見える。
桃井先生が周囲を囲んでいる護衛の元へと到達すると、黒服さんたちは道を開けた。
桃井先生はそれを見てから俺たちの方へ一度振り返り、「アラホラサッサー!」と言いながら、”さぁ、いくぞ” と言う感じのジェスチャーをする。
それを見た今宵は、 ノシっと手を熨斗さんに向けると桃井先生に続いた。
東三条さんを見ると、なんで
俺は東三条さんがチェンジを繰り返していた時に、桃井先生が声をあげなかった場合は、キィちゃんや今宵もチェンジを繰り返して遊び、意気投合してメンバー入りの流れになっていただろうと考える。
そうだとしたら、このメンバー入りバトルは桃井先生の勝ちなのかな?
「じゃ、じゃあまた学校で」
俺は東三条さんにそう一声かけると、スタコラサッサと逃げるように桃井先生の後を追うのだった。
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鯛女……心の中ではモテ
WEBコミックカンマぷらす にて 第5話後半『興奮と冷静の先に』が更新されています。
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